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6.陽だまり
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山奥にあるこの温泉には、なかなか人が訪れないという。喋らなければ、辺りはとても静かだ。
湯から上がり涼んでいると、西陽が差し込む。
外は暗くなろうとしていた。
先ほどの話を全て聞かれていたとは、恥ずかしい。
そんな思いでいたが、案内された部屋には既に夕餉の支度が整えられていた。
「わぁ……!」
並んだ料理を前に、茉子が嬉しそうに声を上げた。
「すごいですね、義勇さん」
「……ああ」
思わず、いつも通りに話しかける。
「ここのご飯、おいしいのよ」
「ね!また食べれて嬉しい!」
「そうなんですね……!」
茉子はそう言いながら、義勇の右側に腰を下ろした。
二人で歩く時、茉子はいつも義勇の左側にいる。
けれど、食事の時だけは反対だった。
その様子に、天元は一瞬、片眉を上げる。
「茉子ちゃん、これ美味しそうだよ!」
「あ、本当ですね!」
「こっちもすごいわよ。天元様、見てください!」
「見えてる見えてる」
再び賑やかになった声を聞きながら、義勇は箸を取った。
「あ」
その隣で、茉子が小さく声を上げる。
「義勇さん、よかったですね」
茉子が指した先には、焼いた鮭があった。
「……ああ」
微笑む茉子を見て、三人嫁たちはそれぞれ口を開く。
「へぇ〜、冨岡さん鮭好きなんだ!」
「はい。鮭大根も好きですよ」
「おぉ〜渋いねぇ」
「天元様は、ここのふぐ刺しが好きなんですよ」
「そうなんですね!」
賑やかに会話をしながら、それぞれ席につく。
「じゃあ、いただきましょうか」
雛鶴がそう言ったあと、全員で手を合わせ、箸を取った。
こうして大人数で食事を摂るのは久しぶりだった。
蝶屋敷にいた頃は、みんなでご飯を食べたり一緒に寝たりもしたものだった。しかし、徐々に任務も忙しくなり、そうした日常の記憶も遠くなっていった。
「…………」
義勇にとって、こんなにも賑やかな食卓は初めてだった。騒がしいのは、正直得意ではない。
それでも、楽しそうに話す茉子を横目に、黙って箸を進めた。
「あ、お皿もう少しいります?」
茉子は話しながら、皿を取ったりお茶を淹れようとしたりする。
とても楽しそうだ。
それはいい。いいのだが。
「……茉子」
「ん?」
義勇の視線を追って、茉子も自分の膳を見る。
「……あ」
箸をほとんどつけていない。
「大丈夫、ちゃんと食べます」
「……そうか」
義勇はそれ以上何も言わず、自分の膳へ視線を戻した。
「……おい」
天元が、呆れたように口を挟む。
「何だ、今のは……」
「え?」
「こいつ、お前の名前しか呼んでねぇぞ」
茉子はきょとんとしたあと、義勇を見る。
「……話に夢中なのはいいけど、ちゃんと食べろってことですよね?」
「……ああ」
「ほら!」
「ほらじゃねぇよ!……ったく、そのくらい言えばいいだろうが」
天元はそう言いながらも、どこか楽しそうだった。
「…………」
義勇は何事もなかったように、鮭に箸を伸ばした。