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6.陽だまり
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「……ってのは、昔の話だけどな」
天元はそう言って、茉子の肩をパンッと叩いた。
「……痛っ!………え?」
茉子は、目をまんまるにした。
「今は仕切られてるよ〜」
「男湯と女湯、ちゃんと別!」
「隣だけどね!」
「………え?みなさん知ってたんですか?」
「「「うん!」」」
「ひどいっ!」
宇髄家爆笑。
「まぁまぁ、がっかりすんなって!今度はちゃんと混浴の温泉案内してやるから!」
「なんで?!」
「はーい、もうおしまい!茉子ちゃん困ってるから!」
「だね!さ、入ろ入ろ〜」
「わー!貸切だ〜!」
にぎやかな女子チームは、そのまま温泉へと向かっていった。
「…………」
「何突っ立ってんだ、行くぞ!」
義勇もまた、天元に連れて行かれるのだった。
--------------
「いや〜それにしても、茉子ちゃんすっごい慌ててたね!」
「だ、だって混浴って……!」
「冨岡さんとは一緒に住んでるんでしょ?」
「そ、それはそうですけどっ」
「じゃあ風呂も一緒に入ったりするんじゃないの?」
「え?」
「でも、天元様もいるなら話は違うわよね?」
「い、いや……だから……」
茉子は三人から視線を逸らす。
「お風呂一緒に入るとか、ないですし……」
「「「えぇぇ?!」」」
三人の声に、茉子は思わずビクッと体を震わせた。
「それはもったいないよ!」
「そう!贅沢!」
「独り占めできるんでしょ?取り合いじゃないじゃんっ!」
「……………………」
茉子はすぐに口を開けなかった。
今まで生きてきて、こんなに戸惑ったことはないかもしれない。
「……えっと……一緒に住んでたら、お風呂って一緒に入るもの……?」
「「「入るでしょ!」」」
「ええ?!」
茉子の明らかに動揺した反応に、三人は笑う。
「茉子ちゃんってこんな反応してくれるんだね」
「ね。なんていうか、稽古で会った時はもっと控えめっていうか」
「そうね。あまり大きく動じなさそうというか」
「……そう、ですかね……?みなさんすごいですね。柱稽古の時のあの短時間で……」
「ま、一応忍やってたからね」
「そうそう。こう見えて色々見てんの」
「でも、すごく真面目な子だなっていうのは思ってたわ」
「あー、わかる!」
「一生懸命だったよね」
「…………」
「なんで黙るの?」
「……なんか、恥ずかしくなってきて」
「「「かわいい〜!」」」
笑い声が少し落ち着いたところで、雛鶴が茉子に視線を戻した。
「それで、一緒に暮らすのはどう?楽しい?」
急に普通のことを聞かれ、茉子は目を瞬いた。
「楽しいです!」
「茉子ちゃん、普段何してるの?」
「一応、薬師として、いろいろと……」
「薬師?!茉子ちゃん薬作れるんだ!」
「へぇー普通に小柄な剣士なんだなと思ってた!」
「うんうん。天元様と打ち合ってる時の剣捌き、綺麗だったもの」
話は絶えない。
「冨岡さんは?家では何してるの?」
「うーんと……本読んだりとか、料理手伝ったりとかしてくれます。あ。庭も綺麗にしてくれてるかも」
「へぇー働き者!」
「天元様、何してるっけ?」
「うーん……なんだろう?」
「あれやってくれてるじゃん!」「違うよそれは私が!」などと揉め始める。
何の話なのかはよくわからない。
「ねぇねぇ、冨岡さんって喋る?」
「喋りますよ!」
三人が一斉に茉子を見る。
「……え?何ですか?」
茉子が目を丸くすると、三人は、ふふふと笑った。
「冨岡さんの好きなとこ教えてよ」
「あー!いいね!聞きたい!」
「恥ずかしいんじゃない?私たちから言う?」
「えっとー天元様はぁー、まずめちゃくちゃかっこいい!」
「頼りになる!」
「ちょっとわかりにくいけど優しい!」
「少しモヤっとすることあっても、かっこよくて許せる」
「「わかる!!」」
「………………」
口を挟む暇もない。
「あ、ごめんごめん、聞かせてよ〜」
「気になるよねー!茉子ちゃんが好きになった人!」
「慣れた人となら喋る人なのかな?」
好きなところ。
改めて聞かれると、難しい質問だ。
気づけば近くにいて、気づけば必要な存在だった。
「……好きな、ところ……」
「「「うんうん!!」」」
三人は、興味津々だ。
「……強くて」
「「「うんうん」」」
「……優しくて」
「「「ふーん」」」
「……尊敬、します」
「「「…………」」」
それを聞いた三人は、顔を見合わせる。
「……あと」
「「「あと?」」」
茉子は少し考える。
「……一緒にいると、安心します」
「「「…………」」」
「何も話してなくても、隣にいるだけで……」
そこまで言ってから、茉子は黙ってしまう。
「……やっぱり、これ恥ずかしいですね」
「「「かわいい〜!!!」」」
「もう聞かないでくださいっ!」
三人嫁たちは笑った後、また顔を見合わせた。
「なんか、思ってたよりまじめな答えが返ってきたね」
「もっとこう、『顔が好き!』とかね!」
「顔も好きですけど……」
「「「顔も好きなんだ!!」」」
「あっ……!」
「やっぱり今のなし!」と、茉子の声が聞こえる。
「ハハハッ!おもしれーな!」
そう、すぐ隣には男湯。
「………………」
四人の賑やかな声はまるで筒抜けだった。
「あ!じゃあさ!嫌なとこ!嫌なとこ言ってこ!」
「えーっと、都合悪くなると見えないフリするとこ」
「服脱ぎっぱなしにするとこ」
「わかったわかったって言って結局そのままにするとこ」
「大変ですね……」
一方男湯。
「…………どうなんだ」
「……いやぁ?そんなことねぇよ?」
少々居心地が悪くなる天元。
「……ていうかあいつら、俺らが隣にいるの完全に忘れてんな」
「………………」
「「「茉子ちゃんは?!」」」
三人の視線が、再び茉子に集まる。
「……えーっと……」
「「「うんうん」」」
「……口数少ない……」
「「「うんうん」」」
「……けど、いつも私より少し先を見ていて」
「「「ふーん」」」
「……いつも守ってくれるので……」
「「「…………」」」
「……え?」
違和感に気づき茉子が視線を上げると、三人嫁たちはそれぞれに、はぁ、とため息を吐く。
「それって嫌なところ?」
「え?」
「ねぇ、惚気だよねぇ〜」
「………」
茉子は少し考えた。
「……あれ?」
「あれ?じゃないよぉー!」
「もっとあるでしょ!困ることとか!」
「……困ること……」
茉子は真剣に考える。
「……えーっと……」
「ほら、肝心なこと全然喋らないとか!」
「……あー……」
「……まさか困ってない?」
「……そ、そうですね……最初からずっとそうなので、慣れたというか……」
「マジかぁ」
「すごいわね」
一方、男湯。
「…………」
「ハハハッ!すげぇな!わかんねぇよ普通!」
天元はゲラゲラと笑っていた。
「……あ。何でも一人でやろうとするところ、かも」
「一人で?」
「利き腕なくしてるのに、結構なんでもやっちゃうんです。私の知らないところで、木に登った子供下ろしてあげて凧とってあげたりしてるんですよ?」
「「「ええーーー?!」」」
三人は驚いたあと、口々に話し始める。
「いやでも優しさなら天元様もね?」
「うんうん!負けないです!」
「ああ見えて、優しいんです」
「……ええ?そうなんですか?」
「「「そうよ!天元様が一番だから!!!」」」
「……す、すみません……っ」
三人の勢いに押され、茉子は思わず謝った。
「ハハッ!聞いたか冨岡!」
天元は満足そうに笑った。
「…………」
「お前んとこのも大概だったけどな」
「…………」
「あー、久々にすげぇ笑ったわ」
天元はそう言って、湯から立ち上がった。
「おーい!お前ら!」
「「「なーにー?」」」
「全部聞こえてるぞ!」
「「「…………」」」
一瞬、隣の湯が静まり返る。
「…………え?」
茉子の声がした。
天元はまた声を上げて笑うと、先に湯から上がっていった。
「……そうだった。すぐ隣だもんね」
「話に夢中で忘れてたわね」
「ま、楽しかったからいっか!」
「………………」
「あれ?茉子ちゃん、顔真っ赤!」
「ほんとだ!」
「のぼせちゃった?もう上がりましょうか」
「………………」
「…………」
義勇は何も言わず、湯に浸かっていた。