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6.陽だまり
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家に帰り、二人で薬草を干した。
その後、焼き鳥を買いに行き、また時折近所の人に声をかけられながら帰宅した。
「……うん、やっぱりおいしい!串だったら義勇さんも食べやすいですもんね」
「そうだな」
「他のおかずも串にさしたら食べやすいのかなぁ」
「……いや、箸も普通に使えるようにしたいとは思っている」
それを聞いた茉子は、足元に置いてある便箋を見た。
左手でもちゃんとした字を書けるようにと、毎日万年筆をとって文字を書いているのを知っている。
(……すごいなぁ。確かに、柱の頃に比べたら、なんてことない努力なのかもしれないけど……)
「……フォークとか使っても、いいんですよ?あ、でも……炭治郎に『甘やかしは良くないぞ』って言われたんだった……。ん?でもこれって甘やかしかなぁ?」
「……炭治郎からの手紙にも書いてあったな。甘やかされていませんか?と」
「いや、どんな手紙……?」
食べながら、そんなことを話す。
今日あったこと。
今日したこと。
今日思ったこと。
戦いがなくなった二人は、いつもこんなふうに過ごしていた。
食事が終わると、風呂の準備をして、その間に食器を洗って片付ける。
風呂に入り、寝間着に着替える。
寝る前に、干してあった薬草を取る。
そして、仕分けをするため床に並べる。
義勇は、その隣で本を読んでいる。
当たり前のように。
「………」
茉子は薬草を仕分けながら、ちらりと隣を見る。
朝起きればそばにいて。
一緒にご飯を食べて。
仕事にも付き合ってくれる。
(……こんな毎日が、ずっと続いたらいいな)
「………」
ふと、昼間の藤村の言葉が頭をよぎった。
——夫婦。
慣れた手つきで仕分けていた手が、ピタリと止まる。
(……夫婦、か)
今まで、考えたこともなかった。
義勇と一緒にいられることが嬉しくて、その先に何があるのかなんて。
(……結婚……)
ふと、幼い頃の父と母の姿が浮かぶ。
食卓を囲い、笑い合って。
弟が生まれて、母の力になろうとはりきったりして。
なんでも自分の真似をする弟が、可愛かったりして。
「………」
あの景色は、もう戻らない。
そう思っていたのに。
茉子は改めて隣を見た。
本を読む義勇の横顔。
(……義勇さんと、夫婦……)
すっかり見慣れた姿なのに、そんなふうに考えた途端、妙に恥ずかしくなる。
「……何だ」
義勇は本から目を上げないまま、静かに口を開いた。
「……なんでもないです」
「…………」
紙をめくっていた指が止まる。
少しの間を置いて、義勇は静かに本を閉じた。
それから、茉子へと顔を向ける。
「………」
まっすぐに向けられた視線に、茉子はわずかにたじろぐ。
「……うそ。横顔、綺麗だなと思って」
「………」
「言われません?」
「言われない」
「あー……そもそも話しかけにくいか」
「………」
「……あれ?怒りました?」
「……それも嘘だな」
茉子の表情が、一瞬止まる。
義勇の視線は、静かに茉子に向けられたままだ。
「何を考えている」
義勇はそれ以上何も言わない。
ただ、答えを待っている。
「……それは……」
茉子は視線を逸らす。
何か答えなければと思うのに、自分でもまだ、うまく言葉にできない。
ただ胸の奥に残ったその気持ちは、不思議なくらい温かかった。
「…………」
少し黙ったあと、義勇との距離を詰める。
「………?」
茉子はそっと、唇を重ねた。
「………………………。」
離れると、目を丸くしたままの義勇がいた。
動かない。
喋らない。
「……あ、えっと……っ」
(……あれ?……伝わらなかったかな……?)
「……義勇——……」
言い終えるより早く義勇の手が伸びて、茉子を胸元へと引き寄せる。
「茉子」
すぐそばで、義勇の声が響く。
引き寄せた左手が、そのまま首元へと触れる。
見上げると、静かに義勇の唇が落ちる。
「………」
ゆっくりと、唇が離れる。
それでも、義勇は距離をとらなかった。
首元に触れた手も、そのまま。
「…………」
茉子は、すぐそばにある義勇の顔を見つめた。
「……義勇さん……?」
「…………」
義勇は何も答えない。
ただ、茉子を見ている。
「………」
茉子は、ようやっと気づいた。
先ほどまでとは、少し空気が違う。
「……あの……」
義勇の指先が、首元に触れたままわずかに動く。
茉子は何も言えず、その瞳を見つめ返した。
「………っ」
再び重なった唇は、先ほどよりも深い。
茉子は一瞬驚いたものの、離れようとは思わなかった。
そばにいられたら、それだけで幸せだと思っていた。
腕の手当てに通っていた頃も、一緒に暮らし始めてからの三ヶ月も。
こんなふうに自分から、もっと近づきたいと思ったことはなかった。
気づけば、義勇の背は壁についていた。
茉子はそっと両腕を伸ばして、義勇の首へと回した。
そのまま、ぎゅっと抱きしめる。
茉子の体は、義勇と向かい合い、足の上に乗っていた。抱っこされているかのように。
少しだけ体を離して、義勇を見つめる。
「………大好き」
義勇の動きが止まる。
「………」
少し息を吸ったあと、義勇は茉子を見上げた。
「……もう一度言え」
「……え?」
「もう一度」
茉子は一瞬止まったあと、穏やかに微笑んだ。
「…………好き」
義勇の左腕が、茉子をもう少し強く抱き寄せる。
「……茉子」
名前を呼ばれ、茉子は静かに義勇を見つめた。
「……好きだ」
「………っ」
茉子は目を見開いたあと、顔を赤くしてふふっと笑った。
「……もーいっかい」
「………」
「もう一回、言ってください」
義勇の手が、耳元へと伸びる。
「……好きだ、茉子」
再び、唇が重なる。
今度は、どちらからともなく。