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6.陽だまり
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その後、途中で休憩を挟みながら歩き、義勇邸に辿り着く。
夕日は沈み、日が暮れていた。
玄関に入る。
「お邪魔しまーす」
その瞬間、義勇は茉子を見た。
「……え?なんですか?」
「……いや」
義勇は草履を脱ぎ、静かに廊下を歩き出す。
茉子もそれに続いた。
静かで、広い家。
ここには、何度も来ている。
義勇は振り返り、茉子を見る。
目が合ったかと思うと、義勇は視線を逸らした。
「部屋は、好きに使え」
「ありがとうございます」
茉子は、そっとその場に荷物を下ろす。
「ゆっくり町を歩けて楽しかったです。義勇さん、もうお疲れですよね?往復してるし……」
「……そうだな」
「じゃあ、少し休みましょう。お茶淹れますね。あ、お風呂も」
そう言って、慣れたように風呂場や台所に向かう。
腕の手当で訪問していた時、滞在している時間はそう長くはなかったが、湯を沸かしたり、少し掃除してみたりしていたのだ。
義勇は静かに腰を下ろす。
茉子は台所に戻り、湯呑みを二つ並べると
その手が突然ピタリと止まった。
「………?」
物音が止まったことに気づいた義勇は、ふと顔を上げて茉子を見た。
「……どうした」
「へ?あ、いえ……あっ!」
次の瞬間、茉子の手が湯呑みに当たり、ガタンと音を立てて倒れる。
「す、すみません……っ」
幸いにも、湯呑みは割れていなかった。
茉子はすぐにその湯呑みを起こす。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
「……疲れたのか」
「……えっと……そういう訳では……」
顔を上げると、義勇はいつもと変わらぬ表情。
茉子は思わず目を逸らした。
「……急に、実感が沸いてきたというか……」
「実感……?」
「……私、ここに住むってことですよね」
「………」
「……私の帰る場所は、蝶屋敷じゃなくて、ここってことですよね」
「……そうだな」
茉子は少し考えたあと、再び口を開く。
「……なんか、変な感じですね」
「……嫌か」
「え?!なんで?!」
茉子は思わず義勇を見た。
義勇の表情は、いつもと変わらない。
「嬉しいんです!義勇さんとこれからも一瞬にいられるのが嬉しくて、その気持ちだけでここまで着いてきたんです!」
「………」
「ただ少し冷静になってみると、ちょっと大胆だったような気がしないでもないですけど……。しのぶ様がいたら、怒られてたかも」
ふふっと笑う茉子。
「あ、でも。出発前に仏壇に手を合わせてきたんですけど、いつもみたいに、気をつけていってらっしゃいって言ってもらったような気がして……」
「……そうか」
「……今思えば、しのぶ様が、私を義勇さんの任務に当ててくれていなかったら、こうなっていなかったかもしれないですよね」
「……そうだな」
湯が沸き、湯呑みにお茶を注ぐ。
義勇の元へと運び、茉子もその場に座った。
「私、初めて義勇さんの技を見た時、本当に綺麗だと思ったんです」
「……そうか」
「全然話してくれなかったですよね。というか近寄らせてくれなかったというか。ちゃんと挨拶もできなかったもん」
「………」
「あ。こういう話、嫌ですか?」
「………」
義勇は少し黙ったあと、お茶をすする。
「……お前のことは」
「……え?」
「……いつも目で追っていたような気がする」
「えっ?!」
「お前の動きだけ異常に速くて、気にかけていないと姿を追えなかった」
「あぁ、そういうことですか」
茉子もそう言いながらお茶をすすった。
「あー!あれひどかったですよね?柱合会議の後に、『これからは別行動だ』とか『その方が効率がいい』とか『お前はどこでも通用する』とか言って急にいなくなっちゃって」
「……そんなことを言ったか」
「言いましたよ!すっごく覚えてます!久しぶりに合流した時も、冷たくてほんとに悲しかった」
「………」
義勇は少し遠くを見た。
あれは柱合会議で、
茉子を冨岡の任務だけにつけるのはもったいないのでは?
他の隊士たちと組ませた方がより負傷者を減らせるのでは?
そうやって決まったことだ。
しかし、後から後悔した。
手放して危ない目に合わせてしまった。
久しぶりの一緒の任務。
近くにいようと思えばいられたのに、またそばに置いたら、離れるのが辛くなると思った。
「……あの時の胡蝶と後藤は、殺気立っていた」
「え?なに?殺気?」
「俺が、お前を傷つけたからだ」
「…………」
「お前がまたそばに来たら、もう離れられなくなると思って手放した。俺の感情で、判断を誤った」
「……そんなことは……」
「……怖かったのだろうと思う。これ以上、大切な人を失うことが」
「…………」
茉子の瞳が揺れる。
『多分、守るために強くなった人なんだよ』
いつか、善逸が言っていたことを思い出した。
『義勇さんは、はじめからずっと、俺のこと守ってくれてて』
『……最後までずっと、守ってくれてたから』
そして、先日の炭治郎の言葉も思い出す。
「…………」
ずっと、そうだったのだ。
大切だから、守る。
大切だから、離す。
きっと義勇の中では
その二つは同じところから生まれていた。
茉子は湯呑みに視線を落とした。
「……じゃあ」
「………?」
「あの頃から、私のこと大切って思ってくれてたんですね」
「………」
「……義勇さん?」
「……そうだったのかもしれない。あの頃は、わかっていなかったが」
その言葉を聞いて、茉子はまた、ふふっと笑った。
「……遠回りしちゃいましたね」
「………」
「でも、もう離れなくていいですもんね」
「……そうだな」
「あ。お風呂そろそろいいかなぁ。見てきますね」
茉子は立ち上がって、風呂場へ向かった。
義勇の視線は、茉子から手元に移る。
ちゃぶ台には、二人の湯呑みが並んでいた。