ボーダー女子は王子を知りたい
B級に上がるためには、ポイントを一定数まで集めなければならない。週二の合同訓練では好成績者に最高100ポイント与えられる。地道に参加していればいつか昇格することは出来るが、それは亀よりも遅い道のりだ。だから手っ取り早い方法は、C級ランク戦で勝ち抜いて相手から貰うことだ。試合に勝ち進むほど自分のポイントは増えるが、その分相手から貰えるポイントが比例して減っていく。うっかり自分よりもポイントが低い人に負けてしまえばごっそり持っていかれる。すんなり昇格は出来ない仕組みに苦戦しながら、今日もわたしはブースにこもっていた。
何回も繰り返したランク戦の後、休憩をとっていたら王子がやってきた。
「お疲れさま。頑張ってるね」
「王子も防衛任務お疲れさま~一人?珍しいね」
「うん。さっきまで弓場さんたちといたんだけど、ぼく以外用事あって終わってすぐに解散したんだ」
「へえ。それで王子はこれからここで戦うつもりなんだ」
「そのつもりだったんだけど、いま悩み中。ところで、宮矢さんって本部の中歩いたことある?」
「えっと、最初の説明会でかるく案内されたくらいかな」
「そう。それなら、よければぼくと一緒に本部を散策しようよ」
「え、でもわたしまだ続けたいし」
また一人B級に昇格した人がいた。同期の大半は同じようにC級だが、上がった者がいないわけではなかった。訓練室で一緒に争っていた人が見慣れない新しい服に新調しているのを見ると、ゆっくりと焦燥に包まれる。
「きみのことだから、朝から来てたでしょ。ずっと同じことやってると集中力が切れて身につかないだろうし、気分転換だと思ってぼくに付き合った方がいいよ」
わたしの焦りを見透かしているのか、ランク戦話の途中から本部の話に入って、有無を言わさずに王子と一緒に本部内を歩き回ることになった。急すぎる。わたしが状況を理解しようと動かないでいると「どうしたの?」なんて少し先を歩く王子がこちらを振り返る。どうしたの、じゃないんだ。とりあえず飲み物をゴミ箱に捨てるまで待ってほしい。
着いていきながらいろいろな場所を案内される。あまり訪れない隊室にも連れていかれて良い気晴らしになった。
振り回されることもあったけど、結果としていい方向に向かっていた。
「あっあれはカンダタ。同じ隊の仲間だよ」
「知ってるよ。この前紹介してくれたじゃん。カンダタ…神田くんね」
王子がカンダタと呼んでいたため名前かと思っていたら後日改めて対面した時、本名は「神田」だと聞いて驚いた。カンダタというのは珍しい苗字で、まさか初対面の相手を紹介する時まであだ名で呼びかけているとは思わなかった。近づくとわたしたちに挨拶をくれたが、急いでいるようですぐに去っていった。
「あそこにいる彼は知ってる?」
「あの人は、知らないかも」
「あれはポカリ。狙撃手であまり交流ないかもしれないけど、体育のクラスでぼくらと合同なんだよ」
「ぽ…?」
王子がポカリくんに手を振っていたらこちらに気付いて手を上げて挨拶を返した。隣にいるわたしに視線を向けるとジッとこちらを見てきた。
「ねえ、彼にこっちすごく見られてるんだけど」
「ああ、宮矢さん結構知られてるから」
「え!何か問題あって目をつけられてた!?」
「模範的でぼくよりいい子だから大丈夫でしょ」
「それじゃあなんで」
「戦闘員希望で同い年の女の子って、C級入れても結構少ないから存在は知られてるよ。宮矢さん以外にも、狙撃手の鳩原さんとか」
「…それじゃあ王子と一緒にいると同い年だって思われたってこと?」
「事実だから問題ないね」
「まあそうなんだけど」
同い年が珍しいからって、あんなに視線を向けてくるだろうか。
「やあみずかみんぐ。今日はお互いお疲れさま」
「なんて?」
「王子やん。自分もお疲れ~こんな所でなにしてるん?」
「本部の散策だよ。」
「今更本部の中見て何がおもろいねん…おん、隣の子に教えるつもりか」
「うん。彼女の本部内の把握も兼ねてるんだ。結構楽しいよ」
「王子と一緒にいるっちゅーことは、アンタが宮矢さんなんやな」
「え、うん。宮矢です」
手を差し出される。握手を求められたとのでそのまま手を握る。
「水上敏志です。自己紹介遅れてスンマセン。なんか、王子からちょこちょこ聞いてたから初対面の気がせんかったわ。自分カワイイな」
「えっ」
初対面でさらっとカワイイと言われて上手く返事が出来ない。
「初対面の子に距離感近いんじゃないかな」
「自分それブーメランて分かって言っとるやろ。聞いたでお前の距離の詰め方のこと」
「え~ぼくはたまたまボーダーの後輩の面倒を自発的に見てただけだよ」
「いやいや、証拠はある。ゾエがこの前…」
見ていた王子が固まるわたしを見かねてなのかどうか、水上くんと会話をしている。
慣れないカワイイに脳の処理が追いつかない中、いつの間にか二人の間でランク戦をすることが決まったらしい。このまま直行するらしくわたしも一緒に行くか聞かれた。
「行く。わたしもランク戦沢山やって、早くB級になりたいもの」
胸の前で強く拳を握り締めて気合を入れる。
散策の途中で、Bに上がった同期を見た。隊を組んだらしくチームメイトと楽しそうに会話をしていた。こちらに気付いて笑顔で話しかけてきた。
いつもランク戦前と後の挨拶しか交わしていなかったから、パッと見の印象しか持っていなかったけれど、実際話してみるととても良い人に思えた。「B級に上がったらまたランク戦しよう」と最後言ってくれた。
まだ焦りは心の中でチラついているけれど、わたしもはやくああなりたいと思う。ボーダーにいる人はみんな仲間だけど、一緒に戦って助け合う特別な仲間がいる人に。
「めっちゃやる気やん」
「うん、それじゃあ早速行こうか。宮矢さんがもっと強くなるために」
***
「今思うと、あの時の探索がなかったら皆とそんなに仲良くなれてたか分からないかも」
「そうなんですか?」
「多分ね、ランク戦ブースにずっと引きこもっててもいつかは上がってた。でもあの時みたいに王子が外に連れ出してくれなかったらB級になって他の人との交流なんてしなかった」
ただお金を稼ぐ場所として、友達がいないボーダーをただの職場って思ったかもしれない。
「そんなかんじで、視野を広げてくれた王子には世話されっぱなしで足を向けて寝られないって感じ」
「なるほど…宮矢先輩は努力家で、王子先輩は昔から気配り上手ってことスね」
「わたしのまとまりのなかった長い話聞いてそうまとめられる帯島ちゃん優しさの権化マジ天使」
「ごん?」
「アハハ~なんでもない」
わたしの口から飛び出してしまった本音だが早口だったのが幸いで、気持ち悪い言葉はどうやら聞き取れなかったようでこちらを見て首を傾げている。愛想笑いで誤魔化した。
「帯島ちゃん、携帯が震えてる。急ぎの連絡かもしれないから出ちゃいなよ」
「あっスイマセン、失礼します!もしもし、帯島ッス!」
背筋をピーンと伸ばしていることから電話の相手は弓場さんと予想。
背を向けた帯島ちゃんの電話が終わるのを待っていると、今度はわたしの携帯の形態が震えている。
「もしもし、宮矢です。どうしたの、王子」
掛けてきたのは、ついさっきまで話題にあった王子だった。挨拶を終えるとすぐに用件を話してきた。
「弓場さんと話してたんだけど、オビ=ニャンたちが戻ってきたら王子隊と弓場隊でご飯食べに行くことになったんだ。よかったら一緒に来ないかい?弓場さんも是非って言ってるよ」
弓場さんが是非なんて、なんだか言葉が似合わない。あの人が丁寧な言葉を使うのは、来馬さんや年上の尊敬する先輩たちで、わたしたち後輩には割と気安くて少し荒っぽい言葉を使っているイメージだ。そんなことを思いながら言葉を返す。
「わたし、どっちの隊にも所属歴はないんだけど」
「所属の隊員たちと仲いいから良いんじゃない?」
「それなら、お言葉に甘えて」
帯島ちゃんの方を見れば、目が合ったのでおそらく同じ用件の電話だったのだろう。手でOKサインを作れば、パッと笑顔になった。
「弓場隊の部屋に集合らしいッス。一緒に行きましょう!」
「うん、一緒に行こうね」
何回も繰り返したランク戦の後、休憩をとっていたら王子がやってきた。
「お疲れさま。頑張ってるね」
「王子も防衛任務お疲れさま~一人?珍しいね」
「うん。さっきまで弓場さんたちといたんだけど、ぼく以外用事あって終わってすぐに解散したんだ」
「へえ。それで王子はこれからここで戦うつもりなんだ」
「そのつもりだったんだけど、いま悩み中。ところで、宮矢さんって本部の中歩いたことある?」
「えっと、最初の説明会でかるく案内されたくらいかな」
「そう。それなら、よければぼくと一緒に本部を散策しようよ」
「え、でもわたしまだ続けたいし」
また一人B級に昇格した人がいた。同期の大半は同じようにC級だが、上がった者がいないわけではなかった。訓練室で一緒に争っていた人が見慣れない新しい服に新調しているのを見ると、ゆっくりと焦燥に包まれる。
「きみのことだから、朝から来てたでしょ。ずっと同じことやってると集中力が切れて身につかないだろうし、気分転換だと思ってぼくに付き合った方がいいよ」
わたしの焦りを見透かしているのか、ランク戦話の途中から本部の話に入って、有無を言わさずに王子と一緒に本部内を歩き回ることになった。急すぎる。わたしが状況を理解しようと動かないでいると「どうしたの?」なんて少し先を歩く王子がこちらを振り返る。どうしたの、じゃないんだ。とりあえず飲み物をゴミ箱に捨てるまで待ってほしい。
着いていきながらいろいろな場所を案内される。あまり訪れない隊室にも連れていかれて良い気晴らしになった。
振り回されることもあったけど、結果としていい方向に向かっていた。
「あっあれはカンダタ。同じ隊の仲間だよ」
「知ってるよ。この前紹介してくれたじゃん。カンダタ…神田くんね」
王子がカンダタと呼んでいたため名前かと思っていたら後日改めて対面した時、本名は「神田」だと聞いて驚いた。カンダタというのは珍しい苗字で、まさか初対面の相手を紹介する時まであだ名で呼びかけているとは思わなかった。近づくとわたしたちに挨拶をくれたが、急いでいるようですぐに去っていった。
「あそこにいる彼は知ってる?」
「あの人は、知らないかも」
「あれはポカリ。狙撃手であまり交流ないかもしれないけど、体育のクラスでぼくらと合同なんだよ」
「ぽ…?」
王子がポカリくんに手を振っていたらこちらに気付いて手を上げて挨拶を返した。隣にいるわたしに視線を向けるとジッとこちらを見てきた。
「ねえ、彼にこっちすごく見られてるんだけど」
「ああ、宮矢さん結構知られてるから」
「え!何か問題あって目をつけられてた!?」
「模範的でぼくよりいい子だから大丈夫でしょ」
「それじゃあなんで」
「戦闘員希望で同い年の女の子って、C級入れても結構少ないから存在は知られてるよ。宮矢さん以外にも、狙撃手の鳩原さんとか」
「…それじゃあ王子と一緒にいると同い年だって思われたってこと?」
「事実だから問題ないね」
「まあそうなんだけど」
同い年が珍しいからって、あんなに視線を向けてくるだろうか。
「やあみずかみんぐ。今日はお互いお疲れさま」
「なんて?」
「王子やん。自分もお疲れ~こんな所でなにしてるん?」
「本部の散策だよ。」
「今更本部の中見て何がおもろいねん…おん、隣の子に教えるつもりか」
「うん。彼女の本部内の把握も兼ねてるんだ。結構楽しいよ」
「王子と一緒にいるっちゅーことは、アンタが宮矢さんなんやな」
「え、うん。宮矢です」
手を差し出される。握手を求められたとのでそのまま手を握る。
「水上敏志です。自己紹介遅れてスンマセン。なんか、王子からちょこちょこ聞いてたから初対面の気がせんかったわ。自分カワイイな」
「えっ」
初対面でさらっとカワイイと言われて上手く返事が出来ない。
「初対面の子に距離感近いんじゃないかな」
「自分それブーメランて分かって言っとるやろ。聞いたでお前の距離の詰め方のこと」
「え~ぼくはたまたまボーダーの後輩の面倒を自発的に見てただけだよ」
「いやいや、証拠はある。ゾエがこの前…」
見ていた王子が固まるわたしを見かねてなのかどうか、水上くんと会話をしている。
慣れないカワイイに脳の処理が追いつかない中、いつの間にか二人の間でランク戦をすることが決まったらしい。このまま直行するらしくわたしも一緒に行くか聞かれた。
「行く。わたしもランク戦沢山やって、早くB級になりたいもの」
胸の前で強く拳を握り締めて気合を入れる。
散策の途中で、Bに上がった同期を見た。隊を組んだらしくチームメイトと楽しそうに会話をしていた。こちらに気付いて笑顔で話しかけてきた。
いつもランク戦前と後の挨拶しか交わしていなかったから、パッと見の印象しか持っていなかったけれど、実際話してみるととても良い人に思えた。「B級に上がったらまたランク戦しよう」と最後言ってくれた。
まだ焦りは心の中でチラついているけれど、わたしもはやくああなりたいと思う。ボーダーにいる人はみんな仲間だけど、一緒に戦って助け合う特別な仲間がいる人に。
「めっちゃやる気やん」
「うん、それじゃあ早速行こうか。宮矢さんがもっと強くなるために」
***
「今思うと、あの時の探索がなかったら皆とそんなに仲良くなれてたか分からないかも」
「そうなんですか?」
「多分ね、ランク戦ブースにずっと引きこもっててもいつかは上がってた。でもあの時みたいに王子が外に連れ出してくれなかったらB級になって他の人との交流なんてしなかった」
ただお金を稼ぐ場所として、友達がいないボーダーをただの職場って思ったかもしれない。
「そんなかんじで、視野を広げてくれた王子には世話されっぱなしで足を向けて寝られないって感じ」
「なるほど…宮矢先輩は努力家で、王子先輩は昔から気配り上手ってことスね」
「わたしのまとまりのなかった長い話聞いてそうまとめられる帯島ちゃん優しさの権化マジ天使」
「ごん?」
「アハハ~なんでもない」
わたしの口から飛び出してしまった本音だが早口だったのが幸いで、気持ち悪い言葉はどうやら聞き取れなかったようでこちらを見て首を傾げている。愛想笑いで誤魔化した。
「帯島ちゃん、携帯が震えてる。急ぎの連絡かもしれないから出ちゃいなよ」
「あっスイマセン、失礼します!もしもし、帯島ッス!」
背筋をピーンと伸ばしていることから電話の相手は弓場さんと予想。
背を向けた帯島ちゃんの電話が終わるのを待っていると、今度はわたしの携帯の形態が震えている。
「もしもし、宮矢です。どうしたの、王子」
掛けてきたのは、ついさっきまで話題にあった王子だった。挨拶を終えるとすぐに用件を話してきた。
「弓場さんと話してたんだけど、オビ=ニャンたちが戻ってきたら王子隊と弓場隊でご飯食べに行くことになったんだ。よかったら一緒に来ないかい?弓場さんも是非って言ってるよ」
弓場さんが是非なんて、なんだか言葉が似合わない。あの人が丁寧な言葉を使うのは、来馬さんや年上の尊敬する先輩たちで、わたしたち後輩には割と気安くて少し荒っぽい言葉を使っているイメージだ。そんなことを思いながら言葉を返す。
「わたし、どっちの隊にも所属歴はないんだけど」
「所属の隊員たちと仲いいから良いんじゃない?」
「それなら、お言葉に甘えて」
帯島ちゃんの方を見れば、目が合ったのでおそらく同じ用件の電話だったのだろう。手でOKサインを作れば、パッと笑顔になった。
「弓場隊の部屋に集合らしいッス。一緒に行きましょう!」
「うん、一緒に行こうね」
