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春爛漫、その言葉が似合う景色。桜がそびえ立ち満開に咲き誇っていた。
雷門中は和気藹々と話す新入生たちが校門をくぐり、在学生たちは笑顔で歓迎している。
大きな筆で書かれた入学式の看板の前には、自分の子供の記念写真を撮ろうとする人で列が出来ていた。列をすり抜け、#桃#は一人でクラス分けが貼り出されている場所まで歩いて行った。




予想していた部活勧誘は教室にたどり着くまで一切なかった。どうやら予め予定された日時で後日部活動のオリエンテーションがあるらしい。
新入生が上級生に囲まれる、という姿が見えないのは少し不思議に感じた。歩いているだけでチラシを配られたり、話しかけられると、親や親戚の大人達に教えられたものよりもかけ離れた実際の入学式。こんなものなのかと、肩すかしを食らった気分だと、どこか冷めている自分。




自分のクラスに入ってから暫く時間が過ぎた。
視線から逃げるように入り口から早足で窓際の席まで向かう。どういう訳か、教室に入る時教室中の視線が集まり、居心地が悪くなったからだ。視線には慣れていても、意図するものではなかったら戸惑いもする。


やるべき事が何もなくただ外の景色を眺めていると桜が見えた。上から見ると、まるで桜の花びらでできた道がずっと先まで続いているように#桃#には見えた。

担任の教師が一度教室にやってきたが、簡単な挨拶と用件を伝えに来ただけらしく、式が始まるまで新入生たちは待機することになった。
入学式が一時間遅れて始まることになり、それに詳しくは知らないけれど、サッカー部が関係しているらしい。初対面の人が多いクラスの中、周りはその事を話題にして盛り上がる。
桃のいる席の周りには人は少なく、ここだけは静かで、あちら側と遠く離れているように感じた。


「隣いい?」


横から、声を掛けられた気がした。
他の人に話しかけたのかと思い、一度は気にせず放置すると、今度は肩を叩かれた。ようやく自分を呼んでいると気付いて、#桃#は相手の方を見た。

ショートカットの青髪にくりんとした瞳の女の子。彼女からは溌剌とした印象を受ける。


「別に、大丈夫です」

「ありがとう!」


そんなこと、わざわざ聞かなくてもいいのに、と桃は思いながら少し素っ気なく答える。
どうやら彼女は#桃#の隣の席に座ろうとしているらしい。横目でその様子を見ながら、今のは初対面の人にする愛想じゃないと内心落ち込むが、そんなこと露知らず彼女は気にせず再度桃に話しかけた。


「私、空野葵。下の名前で呼んで!せっかく同じクラスで初めて話す人だもん。ねえ、あなたの名前聞いてもいい?」


中学生になった今、ハジメマシテの人と会話で少し気恥ずかしそうだった。空野は少し照れくさそうに頰を掻いた。


「#入谷##桃#です。分かりました、葵ちゃん。わたしも名前で呼んでもらっても大丈夫です。よろしくお願いします」

「うん、#桃#ちゃん!」


何処か人とは違う存在感を持っていた桃に話しかける者は居らず、遠巻きに見ていた他のクラスメイトたちは、空野と話す際の笑顔と優しそうな雰囲気を感じて、話してみようと一人、また一人と彼女たちの席の周りに近づいた。
入学式に参加するため、体育館に移動する時の教室の雰囲気は初めよりも和らいでいた。

***


体育館に向かう途中、空野は#桃#に気になっていることを尋ねた。

「#桃#ちゃん、誰にでも敬語なの?」

他のクラスメイトと話した時も、#桃#はずっと敬語で接していた。誰もが気軽に話している中でひとり浮いている。理由を空野は知りたかった。答えを考えるように腕を組み、後に控えめに頷いた。


「わたし、人と話すときは常に敬語ってずっと言われてたので、つい使っちゃうんです」

「へぇ、親に言われてるの?」

「いえ、親じゃないんですけど関わりがある人から」

「そっかぁ、友達だからもっと砕けた感じの方が私は嬉しいな」

「…ほら、もう入り口ですよ」


スッと目の前にある扉を指差し、微笑みを返す。まるで空野の言葉の続きは言わせまいと阻むかのように。 
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