START DASH‼︎2
最後のアンコールまで終わり、ライブは無事に成功した。スタッフの人たちに声を掛けられそれに笑顔で返していく。
「桃ちゃん、お疲れ様ですっ今日も最高でしたよ!」
「ありがとうございます!皆さんもお疲れ様です」
配られた飲み物の蓋を開けながら気づかれないようにそっとため息を吐いた。冷たい水がカラカラに渇いた喉を潤してくれる。
ライブ後の疲労が大きく一刻も早く座りたい。足早になりながらもかけられる声には全て返すために歩きも緩やかにならざるを得なく、中々前へ進めない。
アイドルとして顔には出さないけれど、楽屋にたどり着くまで声を掛けられることに内心うんざりしていると、先方から見知った人が見えた。
「桃さーんお疲れ様です〜」
「ヘアメイクさん…!お疲れ様です。どうしたんですか?こんな所で」
担当のメイクの女性が呼び止め思わず足は彼女の方へと向かい、留まる。ライブ成功の労りをかけてくれた。
彼女とは仕事前によく会話するほど仲も良いけれど、仕事に誇りを持っていて自分の仕事場、わたしの楽屋から滅多に出てくることはない彼女が迎えに来たことに驚いてしまう。
「マネージャーさんがすぐに楽屋に来てくれって言ってましたよ〜」
「メイクさんにわざわざ頼んだんですか?」
「今楽屋にお客さんが来てるんです。対応をマネージャーさんがしているので、代わりに桃ちゃん呼んでくるよう頼まれちゃいました」
ライブのためのメイクは今日はもう必要ない。だから彼女の仕事は既に終わり。幾らか暇が出来て、人からの頼みを受け入れやすかったのだろうか。こだわりを持つ仕事場を離れても特に嫌そうな顔をしていなかった。
「多分新しいお仕事関連だと思いますよ。」
静けさの中にある楽屋付近、1人でここまで来た。わたしを呼ぶ以外にも人払いを頼まれていたらしくメイクさんのおかげで、他のスタッフの姿は見当たらない。
「失礼します。入谷入ります」
「ああ、入谷が戻りました。はい…はい…」
ノックしてすぐ返事が返ってこないままドアを開けたわたしを咎めることはしなかった。
どうやらマネージャーは誰かと電話中らしく、こちらに気づいて振り向いたが、そのまま顔を元に戻し電話を続けている。あれは暫くかかりそうだ。終わるまでに着替えて帰る準備でもした方が良い。
衣装のブーツを脱ぎ捨て身体の力を抜いてソファに寄りかかる。マネージャー以外いないこの部屋で、緊張がほぐれたのかす今日の疲労がどっと出てきて、上を見上げながら一度座ったソファから腰を持ち上げるのが少し億劫に感じる。
ライブ後なので当然、汗もかいている。体を冷やしてはいけないし、汗がソファに染みつくのは嫌だ。ようやく立ち上がり、楽屋の中の衣装スペースからハンガーを取り出し洋服に着替える。
着替えが済んだ頃にはマネージャーの電話も切れていた。戻ってきたわたしに気づくと、ライブ成功の労りもなく開口一番マネージャーは仕事の話をした。
「入谷。次の仕事が決まったぞ」
「お疲れの一言もくれないんですねぇ、まあ分かってましたけど」
「ふん、俺たちはビジネスパートナーだ。
事務所はお前を利用して利益を生み出す、お前はアイドルとして芸能界で生きる。契約の内容以外でお前に接する必要はない」
手首を触りながら話を聞き流す。
彼の話の最後にはいつも同じ言葉ばかり繰り返される。わたしが調子に乗ることのないように、優位はこちらにあるのだと言わんばかりに尊大な態度で接してくる。わたしもたまに彼らの意思に反発するため、よく思われていない。
そんなわけで絆ができるわけもなく、今の事務所に所属して何年か経っていても、わたし達には深い溝があるままだ。
「…それで次の仕事って?」
「来年度にある中学生のサッカー全国大会【ホーリーロード】がある。それのイメージガールにお前を推薦することが決まった」
「オファーが来たってことですか?」
「もっと話は単純さ。…」
「…社長と中学校サッカーのある組織は懇意にしていてまあ、今回うちの事務所から選出することが決まって私になったわけですか」
「来年度、中学生になるならちょうどいい。年齢的にお前が適任だった」
冷めたコーヒーをマネージャーが啜る様をただ眺めていた。送迎の車の手配に手間が掛かり、楽屋で少し待つ間に先ほどの仕事の内容を聞いた。所々省略している点もあるが、大体のことは理解できた。
「一応聞いてやろう。入谷、この仕事を引き受けるか?引き受けるならばお前の知名度は高まり、拒否するなら今より上に行くことはない」
どうやらこの人は、いや事務所側は、建前上はわたしが受け入れるか否か選んだという形を示して欲しいらしい。仕事を強制させていたなどと私が公表してしまえば追及は彼らに及ぶからだろう。
逃げ道を確保するために、わたしが選ばざるを得ない選択肢を常に置いている。
くやしい、こんな大人の言うとおりにしか聞けない自分が情けない。
「……」
厭らしい大人の考えにまた反抗心から、了承の言葉の代わりにわたしはただ頷いた。
「桃ちゃん、お疲れ様ですっ今日も最高でしたよ!」
「ありがとうございます!皆さんもお疲れ様です」
配られた飲み物の蓋を開けながら気づかれないようにそっとため息を吐いた。冷たい水がカラカラに渇いた喉を潤してくれる。
ライブ後の疲労が大きく一刻も早く座りたい。足早になりながらもかけられる声には全て返すために歩きも緩やかにならざるを得なく、中々前へ進めない。
アイドルとして顔には出さないけれど、楽屋にたどり着くまで声を掛けられることに内心うんざりしていると、先方から見知った人が見えた。
「桃さーんお疲れ様です〜」
「ヘアメイクさん…!お疲れ様です。どうしたんですか?こんな所で」
担当のメイクの女性が呼び止め思わず足は彼女の方へと向かい、留まる。ライブ成功の労りをかけてくれた。
彼女とは仕事前によく会話するほど仲も良いけれど、仕事に誇りを持っていて自分の仕事場、わたしの楽屋から滅多に出てくることはない彼女が迎えに来たことに驚いてしまう。
「マネージャーさんがすぐに楽屋に来てくれって言ってましたよ〜」
「メイクさんにわざわざ頼んだんですか?」
「今楽屋にお客さんが来てるんです。対応をマネージャーさんがしているので、代わりに桃ちゃん呼んでくるよう頼まれちゃいました」
ライブのためのメイクは今日はもう必要ない。だから彼女の仕事は既に終わり。幾らか暇が出来て、人からの頼みを受け入れやすかったのだろうか。こだわりを持つ仕事場を離れても特に嫌そうな顔をしていなかった。
「多分新しいお仕事関連だと思いますよ。」
静けさの中にある楽屋付近、1人でここまで来た。わたしを呼ぶ以外にも人払いを頼まれていたらしくメイクさんのおかげで、他のスタッフの姿は見当たらない。
「失礼します。入谷入ります」
「ああ、入谷が戻りました。はい…はい…」
ノックしてすぐ返事が返ってこないままドアを開けたわたしを咎めることはしなかった。
どうやらマネージャーは誰かと電話中らしく、こちらに気づいて振り向いたが、そのまま顔を元に戻し電話を続けている。あれは暫くかかりそうだ。終わるまでに着替えて帰る準備でもした方が良い。
衣装のブーツを脱ぎ捨て身体の力を抜いてソファに寄りかかる。マネージャー以外いないこの部屋で、緊張がほぐれたのかす今日の疲労がどっと出てきて、上を見上げながら一度座ったソファから腰を持ち上げるのが少し億劫に感じる。
ライブ後なので当然、汗もかいている。体を冷やしてはいけないし、汗がソファに染みつくのは嫌だ。ようやく立ち上がり、楽屋の中の衣装スペースからハンガーを取り出し洋服に着替える。
着替えが済んだ頃にはマネージャーの電話も切れていた。戻ってきたわたしに気づくと、ライブ成功の労りもなく開口一番マネージャーは仕事の話をした。
「入谷。次の仕事が決まったぞ」
「お疲れの一言もくれないんですねぇ、まあ分かってましたけど」
「ふん、俺たちはビジネスパートナーだ。
事務所はお前を利用して利益を生み出す、お前はアイドルとして芸能界で生きる。契約の内容以外でお前に接する必要はない」
手首を触りながら話を聞き流す。
彼の話の最後にはいつも同じ言葉ばかり繰り返される。わたしが調子に乗ることのないように、優位はこちらにあるのだと言わんばかりに尊大な態度で接してくる。わたしもたまに彼らの意思に反発するため、よく思われていない。
そんなわけで絆ができるわけもなく、今の事務所に所属して何年か経っていても、わたし達には深い溝があるままだ。
「…それで次の仕事って?」
「来年度にある中学生のサッカー全国大会【ホーリーロード】がある。それのイメージガールにお前を推薦することが決まった」
「オファーが来たってことですか?」
「もっと話は単純さ。…」
「…社長と中学校サッカーのある組織は懇意にしていてまあ、今回うちの事務所から選出することが決まって私になったわけですか」
「来年度、中学生になるならちょうどいい。年齢的にお前が適任だった」
冷めたコーヒーをマネージャーが啜る様をただ眺めていた。送迎の車の手配に手間が掛かり、楽屋で少し待つ間に先ほどの仕事の内容を聞いた。所々省略している点もあるが、大体のことは理解できた。
「一応聞いてやろう。入谷、この仕事を引き受けるか?引き受けるならばお前の知名度は高まり、拒否するなら今より上に行くことはない」
どうやらこの人は、いや事務所側は、建前上はわたしが受け入れるか否か選んだという形を示して欲しいらしい。仕事を強制させていたなどと私が公表してしまえば追及は彼らに及ぶからだろう。
逃げ道を確保するために、わたしが選ばざるを得ない選択肢を常に置いている。
くやしい、こんな大人の言うとおりにしか聞けない自分が情けない。
「……」
厭らしい大人の考えにまた反抗心から、了承の言葉の代わりにわたしはただ頷いた。
