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むじょえま小説


「買ってしまった。ついに買ってしまったぞ……」

范無咎の手にはとある本が握られていた。いや、握ると本にシワが寄るのであくまで優しく持っているのだが、心情は力の限り握り締めたい気持ちであった。

「EMA♡COLLECTIONがついに読める……!」

サバイバーであるエマ・ウッズの写真集が無咎の手元に何故あるのかといえば……そりゃ勿論欲しかったからに決まっている。
サバイバーの人気が最近上がってきたようで運営が毎月一人のサバイバーをピックアップして写真集を出しているのだ。今までは調香師とか祭司とか美しさと色気を兼ね揃えたサバイバーの写真集が優先的に発売されていたのだが、今月ようやく無咎が待ち望んでいた庭師の写真集が発売されたのだ。

「………可愛いな」

表紙の庭師はいつも来ている衣装とは違い、手袋をしておらず、腕の露出が多い。眩しい。
メガネもしていて新鮮だ。
カメラを持っているのはカメラマンをしているジョゼフの趣味なんじゃないだろうかと疑ってしまうレベルで可愛い。

本人をこんなにも凝視した事がないので思う存分無咎は表紙の庭師を堪能した。
そしてある程度満足したところでいよいよページをめくろうと手を伸ばす。
調香師や祭司の写真集は最後の方のページはちょっと露出度の高い服を着ていたと噂に聞いたが、庭師の彼女はどうなんだろうか。
そりゃ庭師はどんな服を着てても可愛いと思うが、露出の高い服を期待していないかと言えば嘘になる。

少し緊張しつつページをめくったその時だった。

「意外ですねぇ。貴方がエマコレを買ってるだなんて」
「うおぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

透明化を解除したリッパーがいきなり目の前に現れた。驚いた無咎は思わず傘で攻撃をするがアッサリ避けられた。

「なっ!?なっ!?リッパー!!?何故我等の部屋にいる!?」
「貴方達に用事があったので声をかけようとしたら、面白いくらいコソコソした貴方が目に入ったもので……つい透明化して後をつけてしまいました」
「貴様ぁ!」
「いやぁ、予想以上に面白いものを見せていただきました。ありがとうございます」

いけしゃあしゃあと抜かすリッパーに更に傘で攻撃をしようとするがまた避けられてしまう。

「いいんですか?私に攻撃をして。攻撃が当たったら腹いせにエマさんに貴方がエマコレを買っていた事を報告してしまうかもしれませんねぇ」
「ぐっ……脅しか」
「まぁそんな所ですよ。それよりも、その本どこで手に入れたのです?通販ではなさそうですよね?もしかして店頭で自ら買ったんですか?貴方が?エマコレを持って?ぶふっ、本当に面白すぎでしょ。その現場是非見たかったですね」
「ぐぐぐっ……」

実際その通りなので何も言えない無咎。顔を真っ赤にしてリッパーの言葉に耐えなくてはいけない。

「はー、笑った笑った。満足です」
「フン。ならさっさと去れ!」
「その前に用事を済まさなくては」
「そういえば言っていたな。何の用だ?」
「ジョゼフから無常に渡してほしいと頼まれたんですよ」

そう言ってリッパーは書類サイズの茶封筒を取り出した。

「なんだこれは?」
「さぁ?知りません。開けてみたらどうです?」

無咎が封筒の中身を開けて取り出すとそこには……………エマコレが入っていた。

「び、必安〜〜〜!!!」
「あー、なるほど。貴方の相方の方が用意周到なようですね。あらかじめジョゼフに取り置きをお願いしていたと」

無咎は大きく脱力した。

君もか、君も同じだったのか必安!我等は二人してなんて不器用で愚かなのだ!
ていうかめちゃくちゃ恥ずかしい!!

「じゃ、私は退散しますので思う存分エマコレを堪能してくださって結構ですよ」

バタン、とリッパーが出て行った扉に枕を投げつけて八つ当たりをする無咎であった。




おわり
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