むじょえま小説
ハンターはみな例外なくサバイバー達よりも身体が大きい。だから自然とサバイバーは見下ろす事になる。
俺と憎っくき麦わら女の話
「うゔ、開始早々捕まってしまったわ……御免なさいみんな」
「ふ、俺の射程が短いと思って油断していたな」
風船に吊られて悔しそうに俺を睨む医師に俺はニヤリと笑い返してやった。
今日のゲーム場所は雪積もる工場だった。障害物が多くて苦手なマップだが開始してすぐに厄介な医師をダウンさせる事が出来て俺は上機嫌になる。
「さーて、あっちの方にイスがあったな」
「離してーー!」
「おい、暴れるな。歩きづらいだろ」
「それが目的よ!そのまま手元が狂って私を解放しなさい」
「嫌だね。お、そろそろイスが見えてきた」
少々道を外れた事もあったがイスに近づいてきた……と思ったらイスの前に誰かが居た。
「イスを壊すなの!」
ガチャガチャガチャ!
遠慮なくイスを壊しているのは……あの麦わら帽子は間違いない、庭師だった。
「はっ!俺の目の前でイスを壊すなんて無謀としか言えないな。このまま殴ってやる!」
「エマ!今からイスを壊すなんて無理よ!間に合わない!逃げて!!」
麦わら女は俺と医師の言葉には答えずに解体作業をしている。……いいだろう。なら恐怖の一撃を食らわせてやろうじゃないか。
俺は麦わら女の真後ろに立って構える。この距離ならば外さない。
「食らえ愚かな麦わら女」
「エマ!逃げて!このままだと一発でダウンしてしまうわ!」
俺が傘を振り下ろそうとした瞬間
「終了なの!」
そう言って麦わら女は立ち上がった。
「何!?この短時間で!?」
慌ててイスを確認したらバチバチと火花を散らして壊れていた。
俺が困惑していると麦わら女は自慢げに答えた。
「ふ、ふ、ふー!最初の方に壊れるギリギリまで作業を進めておいたなの。これなら必要な時にイスをすぐに壊せるなの!」
麦わら女の顔は俺が見下ろしているから麦わらのつばに隠れて口元くらいしか見えない。
けどわかる。
この女今滅茶苦茶ドヤ顔してるであろうと!
「この、麦わら女!」
「エミリーさん!今なの!」
「ええ!ありがとうエマ!」
「くそっ、暴れるなっ!」
俺は暴れる医師を風船から取り逃がしてしまった。
チッ!時間が立ち過ぎた!!
謝必安に変わってる時間はない。俺のままで走り去ろうとする医師を追いつつ、傘を構える。
この距離ならば届くだろう。
「逃すかっ!」
「きゃっ!」
医師と俺の間に麦わら女が入り込んできた所為で攻撃が麦わら女に当たった。
くそっ!邪魔だどけ!!
「す、すごく痛いなの〜!でも肉壁成功してよかったなの!」
「無茶しないでエマ!!」
「エミリー助けれて嬉しいなの!」
「あなたって子は……!」
おいなんだ俺とチェイスしながら女同士でイチャつくな腹立つ。
謝必安と代わるべきなのはわかっているが、意地になって自分で医師を追いかけてしまう。
その度に麦わら女に雪を投げられたりで妨害させられ、とうとう見失ってしまった。
「くそっ……!あの麦わら女!」
もういい。今日のゲームは負けてもいいがあの麦わら女だけは吊ってやる。絶対にだ!
俺はそう心に決め他のサバイバーを全無視して麦わら女を探した。
「ああっ!」
ゴーンゴーンと攻撃がヒットした音が響く。やったぞ。とうとう麦わら女をダウンさせる事が出来た。
「うゔ……鐘でスタンさせるなんて卑怯なの」
「それお前が言うのか?」
「私はいいなの。無常さんは駄目なの」
「はっ!どんな理屈だ。まぁ、どう言おうがお前が俺に今から吊られる事に変わりはない」
「ううう〜!」
うんうん。つばに隠れて口元しか見えなくてもわかるぞ。さぞかしお前は悔しい顔をしているんだろうな。気分がいい。リッパーみたいに鼻歌でも歌いたい気分だ。
「んじゃ麦わら女一名様イスにご案内〜」
「いーやー!」
この麦わら女のせいでイスが殆ど壊されてしまったので地下室に向かうしかない。まぁ、ここからなら逃げられずにイスまで行けるだろう。
そうだ。今なら麦わら女は風船に吊られているから俺よりも高い位置に顔があるんだから見えるんじゃないか?
そう思いついてしまい俺は無様に吊られている女の顔を見た。すると女も俺を見ていた。
「わぁ!無常さんとてもカッコいいお顔なの!背が高いからちゃんとお顔見れてなかったからビックリしたなの!」
「っ……!?!?」
程よく赤くて柔らかそうな頬にサラサラで綺麗な髪、そしてパッチリとした大きな瞳が俺を映す。
なんだこの麦わら女、イス壊したり肉壁したりと俺の邪魔ばっかりするからどんな憎たらしい顔をしてると思ったら結構か…………………………………………………………………………
「か、可愛いとか思ってないからなっ!!!!」
「何がなのっ!?」
思わず地下に到着する前に麦わら女を地面に落としてしまう。
「へ?へ?助けてくれるなの?」
「ち、ちがう!たまたま手元が狂っただけだ!」
「可愛いってなに?私の事可愛いって思ってくれたなの?」
「いや!違う!!そんなの思ってない!!勘違いするな!自意識過剰だぞ!」
「なら何が可愛かったの?」
「だから思ってないと言っている!!」
「えー?なら何故さっきの台詞が出てきたの?気になるのー!」
なんだ!?何故逃げずにグイグイと俺に説明を求めるんだ!?
「いいからさっさと逃げろまた吊るぞ麦わら女!!」
「きゃー!無常さんが怒ったなのー!」
素振りをすると麦わら女は走ってゲートに向かって逃げていった。
はぁ……このままなら全逃げ確定だな。情けない。謝必安になんて説明すればいいんだ……
「彼女、貴方の事をカッコいいって言ってたし脈あるんじゃない?」
「ふふふ。まぁ、頑張ってね〜」
と、いつの間にか俺の真後ろに居た祭司と調香師がそう言い捨ててワープを潜って去っていった。
「ぐっ……なんなんだあいつら!」
無性に恥ずかしい。そんな気持ちに襲われた。
なんで俺がこんな目に。それもこれも全部あの麦わら女のせいだ!!
今度こそ吊ってやる!!
そう!俺の手で捕まえて吊って飛ばしてやる!!
そう心に決めた。
×××××
最近無咎の様子がおかしい。
そう気づくのに時間はかからなかった。
私と憎たらしい麦わらの娘の話
ゲーム中、無咎と変わった後にそのまま一度も自分に変わらずにゲームを終了する事が増えた。
そしてその時は負けている事が多い。
これは由々しき事態だと思い無咎と手紙で説明を求めた。すると彼は
『すまない。君と変わるべき場面が沢山あるのもわかっている。しかし、どうしても俺はあの憎っくき麦わら女を自分で吊りたいんだ』
という返事が返ってきた。
憎っくき麦わら女??……ああ、確かに麦わら帽子を被った女性サバイバーが居たような。庭師だったか。しかし、たかがサバイバー一人、しかもイスを壊すだけの特技しかないあの娘がそこまでの人物なのだろうか?正直疑問だった。
ハンターの動きを阻害する空軍やオフェンス、遠距離のワープができる召喚師、自己回復のできる医師ならまだわかるのだが。
「少し、調べてみるか」
彼女がどの様な人物で無咎とどの様な関係なのか知る必要があると思った。
「と言うわけで、無咎と彼女について教えてくださいませんか?」
「こんな状況でよくそんな事聞けたわね貴方」
教会でのゲームにて、おそらく麦わらの娘と1番親しそうであろう医師を吊る事が出来たのでキャンプがてらに聞いてみた。
「いいではないですか。どうせ救援が来るまで暇でしょう?」
「貴方こそ私にカマかけてていいのかしら。相棒の方がキャンプに向いてるんじゃない?」
「今日は無咎と交代しないと決めていますので」
「ああ、その方がいいかも。あの人エマがいると冷静じゃ居られないみたいだから。私たちは助かっていたのだけどね」
「そう、そこです。あの麦わらの娘は無咎に何をしたんですか?」
女性で背が低く麦わらのつばで顔がほとんど見えない為どんな顔なのか全く覚えていないが……無咎が憎むくらい凶暴な娘だったのだろうか。事と次第によっては彼女はただ吊るすだけでは済ませないと思っているのだが
「ふふっ、何もしてないわよ。普通にゲームしてるだけ。他のみんなと変わらないわ」
「なら何故無咎は麦わらの娘の事をあそこまで執着しているのです?」
「それは私の口から言うのは野暮というものだわ」
なんなんだ。その微笑ましいものを見るような眼差しは。
「野暮とはどういうことです?」
「野暮は野暮よ。私を問い詰めたいんでしょうけど時間切れよ。また別のゲームでね、ハンターさん。エマをよろしく」
拘束時間が終わり医師は空の彼方に飛んで行った。
くそ。次からは吊るのではなくダウン状態で話を聞くことにしよう。
「ああっ!エミリー!間に合わなかったなの」
そしてノコノコと私の前に現れたのは麦わらの娘だった。九割救助を目指して医師を助けに来たのだろうが間に合わなかったようだ。
これは好都合。
「仕方ない。直接本人に話を聞きましょうか」
「きゃーっ!逃げるなのーっ!」
慌てて教会の中に入り逃げる麦わらの娘を追いかける。こら、窓を使って逃げるな私は窓越えが苦手なんだ。吸魂しようにもちょこまか動いて上手く吸いきれない。ぐっ。この娘、厄介だ。
「止まって!大人しく私に捕まりなさい!」
「そんなの絶対ごめんなのーーー!」
無咎よりチェイスは得意だし攻撃射程も長いが一回の攻撃が遅い私の特性をついて麦わらの娘は本当にちょこまか動く。
なんかだんだん意地になってきた。
「このっ……待て!麦わらの娘っ!」
「嫌なのーー!」
こうして200秒越えチェイスを麦わらの娘に費やしてしまったのであった。
「うゔゔ、痛いなの……ひどいなの」
「そんな恨みがましく見ないでください。こういうゲームなんですから」
時間を犠牲にしてようやく私は麦わらの娘をダウンさせる事が出来た。
おかげで他のサバイバーは逃げられてしまったが、この娘を吊れば相打ちなので良しとしよう。
しかし散々チェイスした後に道具箱漁ってる所を見つかって殴られるとか、結構間抜けな娘なのだろうか。
「………?白無常さん私を吊らないなの?」
動かない私に彼女は疑問を持ったようだ。頭を抱えつつもチラリとこちらを見る。しかしこちらからはまだよく顔が見えない。仕方ない、私はしゃがんで彼女に視線を合わせた。
「貴女に聞きたい事があるのですが」
「何が聞きたいの?」
「無咎のこと、で……」
そこでようやく私は麦わらの娘の顔をまともに見た。
「白無常さん?」
無咎の憎っくき麦わらの女発言と、今までのうざったいチェイスの所為でキツめの意地悪そうな顔を想像していたのだが、全然違った。
ダメージを受けて涙目な丸い瞳が僕を映す。
「貴女結構可愛らしい顔をしていたんですね」
「へ!?」
「正直驚きました。どんな憎たらしい顔をしているのかと思いきやこんなに可愛いお嬢さんだったとは」
「えっ、えっ、あのっ」
「おや。赤くなってる。ますます可愛いですね」
「からかわないでほしいなの!!」
「バレてしまいましたか」
「んもー!」
「でも可愛いと思ったのは本当ですよ?」
「そ、そういうのやめてほしいなの!!」
「ふふふ」
なんだろう。さっきのチェイスの憎たらしさも相まってこの麦わらの娘をからかうのが楽しくて仕方ない。
「しかし貴女チェイスは本当に上手いですね。別にチェイサーでもないくせに」
「なんか言い方にトゲがあるなの」
「そりゃ散々追いかけ回した身ですから」
「ふふん!私日々ハンターさんの研究をしてるなの!誰が何が得意で何が苦手なのか調査してるなの!」
と言ってドヤ顔する麦わらの娘。可愛いな小突いてやりたい。
「成る程。それでやたら窓越えしてきたわけですか」
「無常さん窓越え苦手そうだったからやってみたなの。合っててよかったなの」
「勉強熱心なんですね。だから無咎がムキになって貴女に執着していたのか」
「黒さん最近よく会うなの。白さんとまともにゲームしたの初めてなの」
「ですよね。無咎も人が悪い。こんな憎たらしくも可愛らしいお嬢さんを独り占めするだなんて」
「もーっ!またからかってるなの!」
「すみません。貴女すぐに赤くなるからわかりやすくてつい」
「でもちょっと油断しすぎなの」
「え」
ガチャ、と向けられたのは銃だ。空軍の銃。
しまった。長く話をしすぎた。
起死回生が終わってしまったんだ。
そう言えば彼女はダウン前に道具箱を漁っていた。この銃が目当てだったのか!
ドカァァァン!
「ぐっ………!!」
見事に当てられて身動きが取れない。くそっ!しまった!
「たくさんおしゃべりしてくれてありがとうなの!おかげで逃げ切れるなの!」
「まっ、て」
「次の機会があったら黒さんについて聞きたいって言ってた質問に答えるわ!では、さよならなのー!」
そう言って彼女はあっさり近くにあったゲートから出て行ってしまった。
なんて事だ。無咎になんて説明すればいい?
ああ、悔しい。悔しいけれど楽しくて晴れやかな不思議な気分だ。
無咎、君もこんな気持ちになったから彼女を追い続けているのかな?きっとそうだろう。だって私達はよく似ているから。
「私もあの憎たらしい麦わらの娘を吊りたいです。自分の手で」
おわり
俺と憎っくき麦わら女の話
「うゔ、開始早々捕まってしまったわ……御免なさいみんな」
「ふ、俺の射程が短いと思って油断していたな」
風船に吊られて悔しそうに俺を睨む医師に俺はニヤリと笑い返してやった。
今日のゲーム場所は雪積もる工場だった。障害物が多くて苦手なマップだが開始してすぐに厄介な医師をダウンさせる事が出来て俺は上機嫌になる。
「さーて、あっちの方にイスがあったな」
「離してーー!」
「おい、暴れるな。歩きづらいだろ」
「それが目的よ!そのまま手元が狂って私を解放しなさい」
「嫌だね。お、そろそろイスが見えてきた」
少々道を外れた事もあったがイスに近づいてきた……と思ったらイスの前に誰かが居た。
「イスを壊すなの!」
ガチャガチャガチャ!
遠慮なくイスを壊しているのは……あの麦わら帽子は間違いない、庭師だった。
「はっ!俺の目の前でイスを壊すなんて無謀としか言えないな。このまま殴ってやる!」
「エマ!今からイスを壊すなんて無理よ!間に合わない!逃げて!!」
麦わら女は俺と医師の言葉には答えずに解体作業をしている。……いいだろう。なら恐怖の一撃を食らわせてやろうじゃないか。
俺は麦わら女の真後ろに立って構える。この距離ならば外さない。
「食らえ愚かな麦わら女」
「エマ!逃げて!このままだと一発でダウンしてしまうわ!」
俺が傘を振り下ろそうとした瞬間
「終了なの!」
そう言って麦わら女は立ち上がった。
「何!?この短時間で!?」
慌ててイスを確認したらバチバチと火花を散らして壊れていた。
俺が困惑していると麦わら女は自慢げに答えた。
「ふ、ふ、ふー!最初の方に壊れるギリギリまで作業を進めておいたなの。これなら必要な時にイスをすぐに壊せるなの!」
麦わら女の顔は俺が見下ろしているから麦わらのつばに隠れて口元くらいしか見えない。
けどわかる。
この女今滅茶苦茶ドヤ顔してるであろうと!
「この、麦わら女!」
「エミリーさん!今なの!」
「ええ!ありがとうエマ!」
「くそっ、暴れるなっ!」
俺は暴れる医師を風船から取り逃がしてしまった。
チッ!時間が立ち過ぎた!!
謝必安に変わってる時間はない。俺のままで走り去ろうとする医師を追いつつ、傘を構える。
この距離ならば届くだろう。
「逃すかっ!」
「きゃっ!」
医師と俺の間に麦わら女が入り込んできた所為で攻撃が麦わら女に当たった。
くそっ!邪魔だどけ!!
「す、すごく痛いなの〜!でも肉壁成功してよかったなの!」
「無茶しないでエマ!!」
「エミリー助けれて嬉しいなの!」
「あなたって子は……!」
おいなんだ俺とチェイスしながら女同士でイチャつくな腹立つ。
謝必安と代わるべきなのはわかっているが、意地になって自分で医師を追いかけてしまう。
その度に麦わら女に雪を投げられたりで妨害させられ、とうとう見失ってしまった。
「くそっ……!あの麦わら女!」
もういい。今日のゲームは負けてもいいがあの麦わら女だけは吊ってやる。絶対にだ!
俺はそう心に決め他のサバイバーを全無視して麦わら女を探した。
「ああっ!」
ゴーンゴーンと攻撃がヒットした音が響く。やったぞ。とうとう麦わら女をダウンさせる事が出来た。
「うゔ……鐘でスタンさせるなんて卑怯なの」
「それお前が言うのか?」
「私はいいなの。無常さんは駄目なの」
「はっ!どんな理屈だ。まぁ、どう言おうがお前が俺に今から吊られる事に変わりはない」
「ううう〜!」
うんうん。つばに隠れて口元しか見えなくてもわかるぞ。さぞかしお前は悔しい顔をしているんだろうな。気分がいい。リッパーみたいに鼻歌でも歌いたい気分だ。
「んじゃ麦わら女一名様イスにご案内〜」
「いーやー!」
この麦わら女のせいでイスが殆ど壊されてしまったので地下室に向かうしかない。まぁ、ここからなら逃げられずにイスまで行けるだろう。
そうだ。今なら麦わら女は風船に吊られているから俺よりも高い位置に顔があるんだから見えるんじゃないか?
そう思いついてしまい俺は無様に吊られている女の顔を見た。すると女も俺を見ていた。
「わぁ!無常さんとてもカッコいいお顔なの!背が高いからちゃんとお顔見れてなかったからビックリしたなの!」
「っ……!?!?」
程よく赤くて柔らかそうな頬にサラサラで綺麗な髪、そしてパッチリとした大きな瞳が俺を映す。
なんだこの麦わら女、イス壊したり肉壁したりと俺の邪魔ばっかりするからどんな憎たらしい顔をしてると思ったら結構か…………………………………………………………………………
「か、可愛いとか思ってないからなっ!!!!」
「何がなのっ!?」
思わず地下に到着する前に麦わら女を地面に落としてしまう。
「へ?へ?助けてくれるなの?」
「ち、ちがう!たまたま手元が狂っただけだ!」
「可愛いってなに?私の事可愛いって思ってくれたなの?」
「いや!違う!!そんなの思ってない!!勘違いするな!自意識過剰だぞ!」
「なら何が可愛かったの?」
「だから思ってないと言っている!!」
「えー?なら何故さっきの台詞が出てきたの?気になるのー!」
なんだ!?何故逃げずにグイグイと俺に説明を求めるんだ!?
「いいからさっさと逃げろまた吊るぞ麦わら女!!」
「きゃー!無常さんが怒ったなのー!」
素振りをすると麦わら女は走ってゲートに向かって逃げていった。
はぁ……このままなら全逃げ確定だな。情けない。謝必安になんて説明すればいいんだ……
「彼女、貴方の事をカッコいいって言ってたし脈あるんじゃない?」
「ふふふ。まぁ、頑張ってね〜」
と、いつの間にか俺の真後ろに居た祭司と調香師がそう言い捨ててワープを潜って去っていった。
「ぐっ……なんなんだあいつら!」
無性に恥ずかしい。そんな気持ちに襲われた。
なんで俺がこんな目に。それもこれも全部あの麦わら女のせいだ!!
今度こそ吊ってやる!!
そう!俺の手で捕まえて吊って飛ばしてやる!!
そう心に決めた。
×××××
最近無咎の様子がおかしい。
そう気づくのに時間はかからなかった。
私と憎たらしい麦わらの娘の話
ゲーム中、無咎と変わった後にそのまま一度も自分に変わらずにゲームを終了する事が増えた。
そしてその時は負けている事が多い。
これは由々しき事態だと思い無咎と手紙で説明を求めた。すると彼は
『すまない。君と変わるべき場面が沢山あるのもわかっている。しかし、どうしても俺はあの憎っくき麦わら女を自分で吊りたいんだ』
という返事が返ってきた。
憎っくき麦わら女??……ああ、確かに麦わら帽子を被った女性サバイバーが居たような。庭師だったか。しかし、たかがサバイバー一人、しかもイスを壊すだけの特技しかないあの娘がそこまでの人物なのだろうか?正直疑問だった。
ハンターの動きを阻害する空軍やオフェンス、遠距離のワープができる召喚師、自己回復のできる医師ならまだわかるのだが。
「少し、調べてみるか」
彼女がどの様な人物で無咎とどの様な関係なのか知る必要があると思った。
「と言うわけで、無咎と彼女について教えてくださいませんか?」
「こんな状況でよくそんな事聞けたわね貴方」
教会でのゲームにて、おそらく麦わらの娘と1番親しそうであろう医師を吊る事が出来たのでキャンプがてらに聞いてみた。
「いいではないですか。どうせ救援が来るまで暇でしょう?」
「貴方こそ私にカマかけてていいのかしら。相棒の方がキャンプに向いてるんじゃない?」
「今日は無咎と交代しないと決めていますので」
「ああ、その方がいいかも。あの人エマがいると冷静じゃ居られないみたいだから。私たちは助かっていたのだけどね」
「そう、そこです。あの麦わらの娘は無咎に何をしたんですか?」
女性で背が低く麦わらのつばで顔がほとんど見えない為どんな顔なのか全く覚えていないが……無咎が憎むくらい凶暴な娘だったのだろうか。事と次第によっては彼女はただ吊るすだけでは済ませないと思っているのだが
「ふふっ、何もしてないわよ。普通にゲームしてるだけ。他のみんなと変わらないわ」
「なら何故無咎は麦わらの娘の事をあそこまで執着しているのです?」
「それは私の口から言うのは野暮というものだわ」
なんなんだ。その微笑ましいものを見るような眼差しは。
「野暮とはどういうことです?」
「野暮は野暮よ。私を問い詰めたいんでしょうけど時間切れよ。また別のゲームでね、ハンターさん。エマをよろしく」
拘束時間が終わり医師は空の彼方に飛んで行った。
くそ。次からは吊るのではなくダウン状態で話を聞くことにしよう。
「ああっ!エミリー!間に合わなかったなの」
そしてノコノコと私の前に現れたのは麦わらの娘だった。九割救助を目指して医師を助けに来たのだろうが間に合わなかったようだ。
これは好都合。
「仕方ない。直接本人に話を聞きましょうか」
「きゃーっ!逃げるなのーっ!」
慌てて教会の中に入り逃げる麦わらの娘を追いかける。こら、窓を使って逃げるな私は窓越えが苦手なんだ。吸魂しようにもちょこまか動いて上手く吸いきれない。ぐっ。この娘、厄介だ。
「止まって!大人しく私に捕まりなさい!」
「そんなの絶対ごめんなのーーー!」
無咎よりチェイスは得意だし攻撃射程も長いが一回の攻撃が遅い私の特性をついて麦わらの娘は本当にちょこまか動く。
なんかだんだん意地になってきた。
「このっ……待て!麦わらの娘っ!」
「嫌なのーー!」
こうして200秒越えチェイスを麦わらの娘に費やしてしまったのであった。
「うゔゔ、痛いなの……ひどいなの」
「そんな恨みがましく見ないでください。こういうゲームなんですから」
時間を犠牲にしてようやく私は麦わらの娘をダウンさせる事が出来た。
おかげで他のサバイバーは逃げられてしまったが、この娘を吊れば相打ちなので良しとしよう。
しかし散々チェイスした後に道具箱漁ってる所を見つかって殴られるとか、結構間抜けな娘なのだろうか。
「………?白無常さん私を吊らないなの?」
動かない私に彼女は疑問を持ったようだ。頭を抱えつつもチラリとこちらを見る。しかしこちらからはまだよく顔が見えない。仕方ない、私はしゃがんで彼女に視線を合わせた。
「貴女に聞きたい事があるのですが」
「何が聞きたいの?」
「無咎のこと、で……」
そこでようやく私は麦わらの娘の顔をまともに見た。
「白無常さん?」
無咎の憎っくき麦わらの女発言と、今までのうざったいチェイスの所為でキツめの意地悪そうな顔を想像していたのだが、全然違った。
ダメージを受けて涙目な丸い瞳が僕を映す。
「貴女結構可愛らしい顔をしていたんですね」
「へ!?」
「正直驚きました。どんな憎たらしい顔をしているのかと思いきやこんなに可愛いお嬢さんだったとは」
「えっ、えっ、あのっ」
「おや。赤くなってる。ますます可愛いですね」
「からかわないでほしいなの!!」
「バレてしまいましたか」
「んもー!」
「でも可愛いと思ったのは本当ですよ?」
「そ、そういうのやめてほしいなの!!」
「ふふふ」
なんだろう。さっきのチェイスの憎たらしさも相まってこの麦わらの娘をからかうのが楽しくて仕方ない。
「しかし貴女チェイスは本当に上手いですね。別にチェイサーでもないくせに」
「なんか言い方にトゲがあるなの」
「そりゃ散々追いかけ回した身ですから」
「ふふん!私日々ハンターさんの研究をしてるなの!誰が何が得意で何が苦手なのか調査してるなの!」
と言ってドヤ顔する麦わらの娘。可愛いな小突いてやりたい。
「成る程。それでやたら窓越えしてきたわけですか」
「無常さん窓越え苦手そうだったからやってみたなの。合っててよかったなの」
「勉強熱心なんですね。だから無咎がムキになって貴女に執着していたのか」
「黒さん最近よく会うなの。白さんとまともにゲームしたの初めてなの」
「ですよね。無咎も人が悪い。こんな憎たらしくも可愛らしいお嬢さんを独り占めするだなんて」
「もーっ!またからかってるなの!」
「すみません。貴女すぐに赤くなるからわかりやすくてつい」
「でもちょっと油断しすぎなの」
「え」
ガチャ、と向けられたのは銃だ。空軍の銃。
しまった。長く話をしすぎた。
起死回生が終わってしまったんだ。
そう言えば彼女はダウン前に道具箱を漁っていた。この銃が目当てだったのか!
ドカァァァン!
「ぐっ………!!」
見事に当てられて身動きが取れない。くそっ!しまった!
「たくさんおしゃべりしてくれてありがとうなの!おかげで逃げ切れるなの!」
「まっ、て」
「次の機会があったら黒さんについて聞きたいって言ってた質問に答えるわ!では、さよならなのー!」
そう言って彼女はあっさり近くにあったゲートから出て行ってしまった。
なんて事だ。無咎になんて説明すればいい?
ああ、悔しい。悔しいけれど楽しくて晴れやかな不思議な気分だ。
無咎、君もこんな気持ちになったから彼女を追い続けているのかな?きっとそうだろう。だって私達はよく似ているから。
「私もあの憎たらしい麦わらの娘を吊りたいです。自分の手で」
おわり
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