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Metropolis Unknown Antiques

ビクターはエマに恋愛感情を持っていたのは誰の目からも明らかだった。
気付いてなかったのは、エマ本人だけだろう。彼女はジョゼフに監禁されて情報が制限されていた世間知らずだ。気付かなかったのも無理はない。

「え、このお花をエマに?」
「ん!」

ビクターは花が好きなエマによく花を贈っていた。メトロポリスの生花は貴重なので安くは無かったろうに……

「ありがとうなの!ビクターさん!」
「ん……」

花の値段なんて知らないエマは純粋に喜んだ。そして花瓶に飾っては枯れるまで精一杯世話をした。

「検索したらね、今日ビクターさんがくれたお花はとっても繊細な種類らしくて」
「ん」
「温度調整がとても重要らしいの。枯らさないように頑張らないとなの!」
「ん!」

その姿をビクターは眺めるのが好きな様だった。

「ビクターってあんなに可愛い所があったのね」

パトリシアは優しい表情で見守っていた。

「おいおい、いいのかルカ?」
「何がだい?」
「エマがビクターに取られるかもしれないぜ?」

ウィリアムの質問の意図がわからなかった。

「取られるとは?別に彼女は私の所有物ではないよ」
「いや、そうかもしんねーけどさ……」

彼には珍しく歯切れの悪い言葉だ。
ウィリアムが困っているとパトリシアが私に近づいてきて人差し指でデコピンしてきた。
なかなか強い衝撃だ。破損しているのでは?と一瞬本気で心配したぞ。

「な、何をするんだパトリシア」
「何でもない様に装いたいのならもうちょっとマシな顔をしなさいよ」

「えっ」


そうだ。あの時は気付かなかったが、もうこの時点で、もしかしたら初めて会った時から、私は彼女、エマの事が











『少しは落ち着いたかい?ルカ』
「……ホセ……」

エマが軍楽隊の元に行ってしまって一夜明けた。エマの歌声による強制命令書き換えにより私は無理やり一人でアジトに逃げ帰された。
一味のみんなに全て話した後、ウィリアム、パトリシア、ビクターの3人は軍楽隊の行方をすぐさま追ってくれた。
そしてまだエマの命令が生きており、混乱も強かった私はアジトで待機命令が出た。
そして夜明けになりホセがいつもの様にラジオから私に話しかけて来てくれたと言うわけだ。

「お陰様で、かなり落ち着いたよ。助かった」
『そうか。それなら良かったが』
「……なぁ、ホセ。一つ聞いていいかい?」
『なにかな?』



「裏切り者は誰かわかったのかい?」




『………やはり君は気付いてしまうか』

ボンボンの襲撃自体に違和感はあった。
探索機能もろくに持ってない殲滅用のロボットが何故我々のアジトを簡単に割り出す事が出来た?
エマに発信器は付けられてない事はスキャンをして確認済みだった。

そして今回の軍楽隊の襲撃。
時間はそれなりに空いていたが、今度はもっと見つかりにくい、探索機能があっても難しい場所をアジトにしていた。
何故なのか?
それは我々一味の中に裏切り者がいるからに他ならない。それしか解がないのだ。
ホセもそれを危惧した。
だから真っ先にジョゼフという親玉に襲撃に行かずにエマを隠した。
エマは世間知らずだが、別に記憶力が悪い訳ではない。自分が何処から逃げ出したのかの座標は覚えていた。ホセはそれを自分1人だけに教えて欲しいと言ったのだ。
誰かが先走ってジョゼフを襲撃しない為に。裏切り者が最悪のタイミングで裏切らない様に。

「私は裏切り者じゃない。そもそも私がエマを連れてきたのだから裏切るはずがない」

裏切り者候補は、ウィリアム、パトリシア、ビクターの中の3人のうちの誰かだ。
複数犯ではないだろう。さもないと今回の襲撃の時期が遅すぎるからだ。

「誰なんだい?私にはもう教えてくれてもいいだろう?」
『……そう聞きつつも、君はもう計算を終えているんだろう?』
「まぁね」

けれど、この計算は解きたくなかった。
だって私はこの一味がとても居心地の良いものだと思っていたから。



「裏切り者は、ビクターだ」









少し時系列は戻って深夜。
エマは軍楽隊の楽譜が散乱している狭い私室で穴の空いたボロいソファーに座らされていた。側に軍楽隊が居るが別に拘束はされていない。けど彼女が逃げる事はない。
逃げれば周りの人造人間達に被害が行くのを知っているからだ。

軍楽隊は上機嫌で深夜にも関わらずヴァイオリンを奏でていた。

「あんな酷い攻撃じゃなくて、こんなに素敵な音楽を奏でる事が出来るのね」
「そりゃ私は軍楽隊だからな。演奏はお手のものだ」
「軍楽隊さんはどうしてエマを捕まえにきたの?やっぱりジョゼフさんの命令?」
「まぁ、そんな所だ。酒代がなくて困っていた所に儲け話が転がり込んで来たから飛びついた」
「お酒!軍楽隊さんお酒飲んだ事があるのね!」
「軍楽隊は役職であって名前ではない。アントニオだ」
「アントニオさん、お酒ってどんな味なの?エマ、飲んだ事ないから気になるの」

先程までしょんぼりしていたのに、お酒の話に食いついて少し元気になったエマに驚きつつもアントニオは答えた。

「そんなに気になるなら飲んでみるか?」
「え、いいの?」
「お前のお陰で私は明日から酒三昧だから、安酒一杯くらいわけない。確か冷蔵庫に少しだけワインが残っていたはず」

突然通行人を襲う恐ろしい人造人間だと思っていたが、話せば案外良い人なのでは?と世間知らずのエマはそんな事を少しだけ思った。
けど、一番会いたくて側にいたいのはルカの元だった。
お酒は淋しさを紛らわせてくれるらしいとウィリアムが少し前に教えてくれた。
それを試してみたいと思ったのだ。

「あ、でもジョゼフさんに絶対お酒は飲むなって言われているんだった」
「相変わらずあの男はカタいな。一杯くらい飲んでしまえ。どうせ逃げ出した事で叱られるんだ。ネタが一つ増えた所であまり変わらないだろう」

ホラ、とアントニオがグラスに入れた赤ワインをエマに差し出す。
エマは恐る恐るそれを受け取った。

「それもそうなの。ありがとう、アントニオさん」
「金で雇われているとは言え、あの男がお前を監禁して居る事自体に何も思わないわけではない。私なりの意趣返しだ」
「エマにちょっと悪いことを教えるのが?」
「そうだ」
「ふふふ」
「なんだ。笑うな」

アントニオは照れ隠しなのか止まっていた演奏はをまた始めた。

「無差別にみんなを攻撃していた人がとっても細やかな意趣返しで、つい」
「ちゃんと電脳は破壊しないように調整はした。破損した奴らは今までよりも良いパーツをジョゼフが提供する」

本気で取り返しのつかない被害になってない事にエマは安堵した。けど、逃げようとは思えなかった。今度は取り返しのつかない事にならない保証がないからだ。

「そういえば、エマをすぐにジョゼフさんの所に連れて行かないのね」
「今日は花火大会があったりとあの男は処理で忙しかったからな。今メンテナンス中で連絡が取れない」
「そうなのね」

ここでようやくエマは手に持っていたグラスを傾け、ワインを口にした。
そして飲み干した瞬間






世界が真っ暗になった。




to be continued……?
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