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生まれ変わる
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「南無大慈大悲 救苦救難広大霊感!はァーーっ!悪霊退散ーーーー!」
今日もまた、鵺野先生の霊退治が始まった。
いい人なのだが、先生がこの学校に赴任してきてから今日まで、この類いが成功した姿を見たことがないために、またやっているのかと呆れ半分好奇心半分だ。
「聞け~い!音楽室の肖像画にとりつきし悪霊よ!夜になるとギョロギョロと目玉を動かし、低学年の子供たちをびびらせているようだなぁ!このぬ~べ~先生が退治してくれる!」
そう言って悪霊退散!と威勢良く声を張り上げる鵺野先生だが…ちょっと待ってほしい。
俺の感覚が正しければ、何故夜に学校にいることに突っ込みをしないのかが不思議だ。
普通なら夜中まで学校にいれば怒られる。そのことを失念しているのか…?
低学年の保護者からクレームが来ないことを祈るが…、この先生になら既にクレーム入ってそうで怖いな。
まぁ、この場合は先生もだが親もアレだとは思うけど…このご時世、何があってもおかしくないからな。そのうち後ろ指差されてひそひそ話が…そういや既に始まってたな。
閑話休題。先生の家に3億年前から伝わるという霊水晶を取り出し御払いをしようとして肝心の目を焼いてしまうというハプニング(?)が起きた。
ちなみに、誰もが一度は見たことがあるであろう1770~1827年に生き、難聴だったというあの人の肖像画だが…徐霊を頼んだ児童は端から頼りになどしていなかったようで、失敗したことをネタに笑いながら鵺野先生を追いかけている。
………なんか、校長先生が見てたけど大丈夫なのかな…?
あれ、給料から引かれて新しく買うことになるとかそんなんじゃないことを祈る。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「と、ゆーわけで、転校生の立野広くんだ!」
「広と呼んでくれ!よろしく!」
どうやら今日は転校生がいるらしく、活発そうな雰囲気の男子が新しくクラスのメンバーに加わった。
クラスメートが増えるのは純粋に嬉しいのだが、
「ちなみに、俺はご存じ鵺野鳴介。ぬ~べ~と呼んでくれ!よろしく!」
「先生が転校生より目立ってどうすんじゃい。」
鵺野先生のこのノリはまだ慣れない。貶したい訳じゃないが、まだこの先生に馴染めないんだよなぁ…。そして立野くん、ナイスだ。こういうことは、誰かがツッコミをしねぇと先生がただただ可哀想なだけだからな。
ちなみに俺はぬ~べ~と呼ぶことに抵抗感があるため、鵺野先生または先生と呼んでいる。
「ときに先生、今朝の騒ぎはなんだったの?!」
話が落ち着いたところで立野くんが先生に質問する。…そりゃそうだよな、転校初日に朝っぱらから不思議な先生を見て、その不思議な先生が担任だったのなら聞きたくもなる。
俺だったら見なかったふりしそうな気がするけど…うん。いや、絶対見なかったふりする。っていうかしてやる。
「あー、あれはな」
「霊能力よ!…先生は日本でただ一人の霊能力教師なのよ!」
気が付くと、クラスメートの稲葉さんが鵺野先生について語りだした。…左手に鬼の手。それは、いつも稲葉さんが言うことだが、もしもそれが本当だった場合、毛穴の有無や汗をかいたときにどうなるかがとてつもなく気になる俺は悪くないと思う。
鬼なんて見ることないし、ずっと手袋してるし、気になってもいい事案だと俺は勝手に思ってる。
というか、気にしたい。まぁ、鵺野先生が鬼の手を持っているっていうのは有名な話だ。それを聞くたびに気になってるんだけど、いつも聞くタイミング逃しちゃうんだよなぁ…。
「はははっ、まぁ信じる信じないは個人の自由だしー。」
「よかないわよ!クラスに一人でも信じてない人がいるなんて!」
信じていない様子の立野くんに、稲葉さんがキレる。さして、それを笑って誤魔化そうとした鵺野先生にキレる。若いうちから苦労してるなぁ…。いや、若いからこそ苦労してるのか?
ちょっとくだらない思考の渦に入りかけたところで、稲葉さんの声がクラス中に響いた。
「それじゃあ多数決で決めましょう!先生の霊能力を信じる人はこっち!信じない人はあっち!さぁ、別れて!!」
教卓を挟んで右が信じる、左が信じないという風に別れることになったが、俺は左に足を動かした。…俺の他に動いた奴等は全員左へ足を動かした。右へいるのは稲葉さんただ一人。
悪いな、俺は自分の目で見たことしか信じないんだ。
やはりというかそれは皆も同じだったらしく、徐霊が成功したところを1度も見ていないという理由で左に足を進めた児童も少なくなかった。
たしかに、面白い先生という部分では俺も好きだし、流石に嘘はついていないとは思うが…ちょっと、俺が信じるにはまだ足りない。
その様子に顔を歪ませつつ笑顔を保つ鵺野先生は、転校生に特技を見せるようにと言った。
…先生の顔にデカデカと「お前も恥をかけ」という字がかかれている気がするが…、気のせいか?なんかそんな顔してる。俺は、先生の顔を見なかったことにして立野くんを見ると、どこからともなくサッカーボールが!
なるほど!特技は手品か!…活発少年だからこそサッカーボールが出現。うん、俺は結構好きだぞ。…そう思ったのも束の間で、華麗なリフティングが始まった。
どうやら、特技は手品ではなくリフティングだったらしい。…クソ!ボールは、綺麗な弧を描き掃除用バケツに納まった。教室の端から端でのボールさばきは見事という他ない。
………なんで上から目線で話してんだ?
やっぱ、年齢的なものが関係してんだろうか…?気を付けねぇと。
それにしても、サッカーボールを出す手品はどうやったのか…リフティングより気になるわ。
いや、だってさ、あれが出来るようになれば、役に立つかも知れねぇし?
立野くんのリフティングの上手さに、クラスの奴等はテンションが上がったらしく矢継ぎ早に褒め称える。…俺も
スゴいと思ったんだが、立野くんの様子がおかしいために声を掛けるべきか悩んだ。
掛けたくないわけじゃないけど、嬉しそうにして言葉を受け取っていた立野くんが、サッカー部に入ることを否定してから様子がおかしいんだ。
「なんでだよ、そんなに上手いのに!」
「そうよ!もったいないわよ!!」
「絶対入るべきだよ!入らなきゃダメだ!」
「う…」
あ、ヤバい…止めねぇと!
そう思ったが、俺が止めるよりも早く、立野くんの表情が更に変わった。
「…っせーな!俺の勝手だろーが!!」
近くにあったロッカーに思いきり拳を叩きつけ、凹ませる。その衝撃にロッカーが激しい音をたて、さっきまで騒いでいたクラスメート達は一斉に静かになった。
……それにしても、見事なもんだよ、俺にはできない。…くっきりと分かるくらいにロッカー凹ませるとか、流石動いてるだけある。ただ、肩とか手とか痛めてねぇと良いけど、見る限りそんな様子はなくて安心した。
「い、いやその…俺、実は膝痛めててさ…。治ったら…入るつもりだから…うん。」
気まずそうに言う立野くんに、皆がどう反応すれば良いか分からなくなり静かになった時、図ったかのようにチャイムが鳴った。
「あっ、休み時間だ。」
「よーっし!じゃ、今日は広くんの歓迎ドッジ大会といこうか!」
「賛成!」
「行こ行こー!」
先程までの気まずさはなんだったのかと言いたくなるような変わり身の早さでボールを持って駆け出すが、俺はいつも参加せずに本を読んでいた。球技が苦手ということもあり、今日も本を読もうと、机の中から仕舞っていた本を取り出す。…だが、今日は違った。
「なぁ、一緒にやろうぜ。」
転校してきたばかりの立野くんが俺に声をかけてきた。そうか、俺がいつも参加してないことを知らないのか。
「え、いや…でも、」
「広、早く行こうぜ。…蓮はいつもそんなんだからよ、おどおどしてて、何考えてるかわかんねぇから。」
「それに、ソイツはボール苦手だし、ツマンネェよ。」
そう。
ノリについて行きにくくて物静かな子を演じているうちに、いつのまにかそれが板についちまって気がつけば俺はハブられキャラになってたんだよな。今まで気にしてなかったが、そういえば女子がちょくちょく俺のこと誘ってたが、それも原因に含まれてるかもしんねぇ。最近の小学生がませすぎてる件についてで小論文書けそうな勢いだ、書かねぇけど。
「俺はいいよ…その、俺がいても楽しくないだろうし。」
「何言ってんだよ、やろうぜ?な?」
「そうよ!行きましょう?」
それからも女子から誘いの声が多くかかり、男子からもチラホラと声がかかる。流石に貴重な休み時間を俺のせいで奪うわけにもいかず、俺はついていくことにした。
ボールは本当に苦手なんだ。どう苦手かと聞かれると困るが、とにかく狙いが定まらない。ボールを取るのに顔面キャッチは当たり前だ。…球技以外なら出来るが、なんでこんなに壊滅しているのか不思議で仕方がない。ちなみに、兄も球技は苦手だったがそこまでではなかったし、父に至っては学生時代にバレーボールをしていた写真とトロフィーが家に飾られていた。…母か?母が壊滅していたのか?
閑話休題。
チームも分けて早速試合!というところで先程スゴい足技を見せてくれて俺を誘ってくれた立野くんの活躍が凄かった。自分だけでやる訳じゃなく、ちゃんとボールは他の奴に渡したりしていながら、自分が投げるときは相手チームに次々に当てていく。それに比べて俺は…
「ふぎゃ!」
「うお……あ!!」
「グェッ…。」
顔面キャッチを続けていた。
鼻血が出ていないことが唯一の救いだ。めっちゃしんどいけど、一応顔面から落ちてきたボールは掴んでるからセーフだ。…しんどいけど!ホントにヤバいけど!…こんなことなら見学にすればよかった…。
「お、おい大丈夫か?」
「顔赤いぞ?…というよりも、何で腹付近に向かったボールを顔で受けとるんだよ!」
「わ、悪い、俺もわかんない。」
俺だけいろいろ大変なことになってはいるが、他の奴らの活躍によってこのままいけば勝てるんじゃないかと思ったとき、事件が起こった……。