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【おまけ(ツララ)】
(そのまま、名前のマフラーを借りていいか聞いて、借りてきてしまったが……)
家で名前の優しさと温もりを思い出し、暖房のついた暖かい部屋でマフラーを巻いて顔をうずめる。「ううっ……なんで、こんなにあったかいんだろ? 特殊な繊維でも使っているのかな」ツララはマフラーをはずして上から下までまじまじと見たが、明らかにノーブランド品で。「今度会えたら……返すついでにどこで買ったのか教えてもらわなくちゃ。それで……自分の防寒着もそこで揃えようかなァ……」くしゃくしゃとマフラーを丸めて抱きしめるツララの夜は静かに更けてゆく。
今日、1月2日はツララ・ヘイルストーンの誕生日。
ツララはここ数週間仕事に忙殺され、自身の誕生日の事なんてすっかり忘れていたのだった。
「……はァ。ううっ、最近……任務の依頼多すぎだよ」
そんな中で久々の休み、何も入っていない休み。本人には己の誕生日である認識はなく、間に挟まれた休息と認識でしかなかった。実際はライオが気を利かせてくれていたということを後で知ることになるのだが。
ツララはふわぁと伸びをして、特注のふかふかベッドにポスンとダイブし、自身の体がゆっくりと沈んでいく充足感をこれでもかというほど堪能していた。
「んん……。あ。そういえば、名前にマフラーずっと借りたままだったや……」
あの日から直近で都合をつけて会える日を探していたツララだったが、結局名前とのスケジュールが合わず、その予定は保留となっていたのだった。ほこりが被らないように綺麗にクリーニングされたそれは、ひと目でツララが大事に扱っていたことがわかる。
「……会いたいな」
名前を思い、意識せずにこぼれ落ちたその言葉にツララは自分でも驚いた。なぜ会いたいのかと思ったが、それは随分と簡単な問いだった。なぜならそう、目的はひとつ。マフラーを返すためだ。
そして、その時に彼女から借りたマフラーについて、『特殊な繊維を使用しているのかどうか』と『どこで買ったのか』を聞き出すとツララは決めていた。これについては秘密を解き明かす必要がある。
でも、それだけじゃないような……。自分のもやもやする気持ちがよくわからず、反射的に隣にあったもこもこのくまのぬいぐるみに顔をうずめる。
「もぉ、なんなの……」
そんなツララの気持ちを知ってか知らずか、自分を呼ぶ伝言ウサギの声が部屋に突然響いた。ムッとしたツララが、どうせ呼び出しだろうと思って不機嫌そうに「もしもし」と電話に出れば、その態度に驚いたように「もしもし」と帰ってきた相手の声。それはたった今、想っていた人の声だった。
その相手にツララはすぐ向かうことを伝え、電話を切った。――その電話相手の可愛い声に頬が緩んでいたのを自らで気づくことはなかった。
*
ササッと支度をし、ガチャっとドアを開けて飛び出したツララは目を丸くした。
「えっ、なんで、」
「あれ? わたし、ツララちゃんのおうちの近くにいますからって言いましたよね?」
言われてみれば、言っていた気もする。ちゃんと名前の話を最後まで聞いてから切ったつもりだったが、気持ちが浮ついていたかもしれないとツララは反省した。
「ううっ……ごめん……ちょっと浮ついてたかも」
「? あら、なんかいいことでも?」
「へっ? や、別に……なにも、ないけど」
そう口ごもるツララを見て名前は「変なの」と言ってフフッと微笑んだ。おかしい。どうして自分へ向けて笑っただけなのに、こんなに胸が切なくなるのだろう。そもそもなぜ浮ついているのかもわからない。
きっと防寒具の備えが足りないのだとツララは考え、携帯していたカイロやらハンドウォーマーやらをいそいそと巻き付ける。既に何重にもして準備万端だが、震える身体は己では止められない。
「ツララちゃん、寒いですか?ごめんね、気がつかなくて」
「いや、あの、そんな……えと、」
「?」
「だ、大丈夫だよ……」
ツララ・ヘイルストーンは名前の前でのコミュ障ぶりに辟易した。どうして? この間はもっとすらすらと話せていたはず。なぜこの間と同じようにできないのだろう。
名前が自分を心配してくれているのに目を合わせることも、ましてや話を広げることもできないなんて。あぁ、せっかく会えたのにな。
ツララがもじもじしてうつむいていれば、名前に右肩を軽くたたかれ、名前を呼ばれた。なんだろうと顔をあげた瞬間、淡いブラウンが美しいストールにファサッと自身が包み込まれて。ツララはその事に驚くと同時に、名前が嬉しそうに満面の笑みで立っていたことにもドキリとした。
「やっぱりこの色、ツララちゃんにぴったりだ」
「えっ……なに、これ、」
「ツララちゃん、今日お誕生日じゃないですか。お祝いしたくってきたんですよ。自分で言うのもなんですが、とっても似合ってます。わたしの見立て通り!」
得意げに自画自賛した名前はツララのじっと見つめる視線に気づき、ちょっと照れたようにはにかんだ。
「……な、何も言ってくれないと恥ずかしくなっちゃいます。気に入らなかったですか?」
「や、そうじゃなくて……。びっくりして」
「ふふん。暖かくて軽い最高級生地、繊維の宝石と呼ばれるカシミヤですよ。でも、どうしても欲しくて……奮発しちゃいました」
興奮しながら話す名前が、一生懸命自分の為に選んでくれたもの。決して安い買い物ではない。それは自分でもカシミヤ生地の防寒具を購入するツララが一番よく分かっていた。
「……」
「……ツ、ツララちゃん?」
ツララ・ヘイルストーンは誕生日なんて、今日の今日まで忘れていた。
自分の生まれてきた日なんて、所詮生まれてきた日というだけで特段固執していないのに。名前にこんなことされたら今日一日が特別になっちゃうじゃないか。
「……なんで、そこまで」
「そんなの!ツララちゃんの喜ぶ顔が見たいからだよ。そうじゃなきゃ買いません……! って、ここまで言わせちゃうのですか? ツララちゃんてば、もう……」
名前の照れくさそうな表情がツララに向けられている。自分に喜んで欲しいと思って、わざわざ家の近くまで足を運んでくれた事実。先程のもやもやした気持ちも浮ついた気持ちもどこかへ飛んでいってしまったようだった。
そんなツララに名前はコホンと咳払いし、「ツララちゃん、お誕生日おめでとうございます!」と優しく微笑んだ。ツララはそのあたたかい気持ちに素直に寄り添う。
「名前……すごく、すごく嬉しい……ありがとう……」
「当然です。大好きなツララちゃんの生まれてきてくれた日ですもの。わたしもとっても嬉しいですよ」
その言葉に胸がギュッと苦しくなり、愛しく思う感情が広がる。でも、その感情に向き合うより先に、名前に聞くべきことが今日はある。
「あ、あのさ……名前」
「はい」
「この間のマフラー、返したくて……ここに、あるんだけどね?これってその、特殊な繊維とかでは……ないのかな? どこで……買ってるのかなって、思って」
「全然!普通の安物ですよ。どこで買ったか、忘れてしまったくらいの」
あっけらかんと首を振って名前から告げられた回答に、ツララは衝撃を受けていたが――そこはさすが魔法研究管理局局長、氷の神杖を持つ神覚者。その驚きをおくびにも出さずに平静を装った。
心中では、じゃあなぜあの時あったかく感じたんだとバタバタしていたが。そんな自身の心を落ち着かせるべく、ツララは次のような行動をとることに決めた。
「……ふぅ。名前、良かったら家に上がっていって」
「え、そんな悪いです。だってようやく今日、お休み取れたってライオさんから伺いましたよ?ごめんなさい、連絡取れないから心配で」
あ、そこまで把握してるんだ。連絡を滞らせたことを怒るでもなく、心配して先回りしてくれる名前の優しさに胸がトクンと脈を打つ。
「ん。いいから……自分がもっと、一緒にいたいの……」
「へっ……?」
「……ダメだよ、二度目は言わない」
ツララ・ヘイルストーンはようやく自覚した。これは名前だけに対する感情。
固有魔法の影響で、常に体感温度がマイナス5度の状態のツララの頬に朱がさすなんてことはまずありえない。だが、今、そのありえないことが起きていた。ストールに顔をうずめるツララ自身もそれを見ている名前も気が付いてはいなかったが。
――ツララの胸に植えられた特別な感情の種。その種が今、自覚したことで静かに芽吹き始めたのであった。
(そのまま、名前のマフラーを借りていいか聞いて、借りてきてしまったが……)
家で名前の優しさと温もりを思い出し、暖房のついた暖かい部屋でマフラーを巻いて顔をうずめる。「ううっ……なんで、こんなにあったかいんだろ? 特殊な繊維でも使っているのかな」ツララはマフラーをはずして上から下までまじまじと見たが、明らかにノーブランド品で。「今度会えたら……返すついでにどこで買ったのか教えてもらわなくちゃ。それで……自分の防寒着もそこで揃えようかなァ……」くしゃくしゃとマフラーを丸めて抱きしめるツララの夜は静かに更けてゆく。
今日、1月2日はツララ・ヘイルストーンの誕生日。
ツララはここ数週間仕事に忙殺され、自身の誕生日の事なんてすっかり忘れていたのだった。
「……はァ。ううっ、最近……任務の依頼多すぎだよ」
そんな中で久々の休み、何も入っていない休み。本人には己の誕生日である認識はなく、間に挟まれた休息と認識でしかなかった。実際はライオが気を利かせてくれていたということを後で知ることになるのだが。
ツララはふわぁと伸びをして、特注のふかふかベッドにポスンとダイブし、自身の体がゆっくりと沈んでいく充足感をこれでもかというほど堪能していた。
「んん……。あ。そういえば、名前にマフラーずっと借りたままだったや……」
あの日から直近で都合をつけて会える日を探していたツララだったが、結局名前とのスケジュールが合わず、その予定は保留となっていたのだった。ほこりが被らないように綺麗にクリーニングされたそれは、ひと目でツララが大事に扱っていたことがわかる。
「……会いたいな」
名前を思い、意識せずにこぼれ落ちたその言葉にツララは自分でも驚いた。なぜ会いたいのかと思ったが、それは随分と簡単な問いだった。なぜならそう、目的はひとつ。マフラーを返すためだ。
そして、その時に彼女から借りたマフラーについて、『特殊な繊維を使用しているのかどうか』と『どこで買ったのか』を聞き出すとツララは決めていた。これについては秘密を解き明かす必要がある。
でも、それだけじゃないような……。自分のもやもやする気持ちがよくわからず、反射的に隣にあったもこもこのくまのぬいぐるみに顔をうずめる。
「もぉ、なんなの……」
そんなツララの気持ちを知ってか知らずか、自分を呼ぶ伝言ウサギの声が部屋に突然響いた。ムッとしたツララが、どうせ呼び出しだろうと思って不機嫌そうに「もしもし」と電話に出れば、その態度に驚いたように「もしもし」と帰ってきた相手の声。それはたった今、想っていた人の声だった。
その相手にツララはすぐ向かうことを伝え、電話を切った。――その電話相手の可愛い声に頬が緩んでいたのを自らで気づくことはなかった。
*
ササッと支度をし、ガチャっとドアを開けて飛び出したツララは目を丸くした。
「えっ、なんで、」
「あれ? わたし、ツララちゃんのおうちの近くにいますからって言いましたよね?」
言われてみれば、言っていた気もする。ちゃんと名前の話を最後まで聞いてから切ったつもりだったが、気持ちが浮ついていたかもしれないとツララは反省した。
「ううっ……ごめん……ちょっと浮ついてたかも」
「? あら、なんかいいことでも?」
「へっ? や、別に……なにも、ないけど」
そう口ごもるツララを見て名前は「変なの」と言ってフフッと微笑んだ。おかしい。どうして自分へ向けて笑っただけなのに、こんなに胸が切なくなるのだろう。そもそもなぜ浮ついているのかもわからない。
きっと防寒具の備えが足りないのだとツララは考え、携帯していたカイロやらハンドウォーマーやらをいそいそと巻き付ける。既に何重にもして準備万端だが、震える身体は己では止められない。
「ツララちゃん、寒いですか?ごめんね、気がつかなくて」
「いや、あの、そんな……えと、」
「?」
「だ、大丈夫だよ……」
ツララ・ヘイルストーンは名前の前でのコミュ障ぶりに辟易した。どうして? この間はもっとすらすらと話せていたはず。なぜこの間と同じようにできないのだろう。
名前が自分を心配してくれているのに目を合わせることも、ましてや話を広げることもできないなんて。あぁ、せっかく会えたのにな。
ツララがもじもじしてうつむいていれば、名前に右肩を軽くたたかれ、名前を呼ばれた。なんだろうと顔をあげた瞬間、淡いブラウンが美しいストールにファサッと自身が包み込まれて。ツララはその事に驚くと同時に、名前が嬉しそうに満面の笑みで立っていたことにもドキリとした。
「やっぱりこの色、ツララちゃんにぴったりだ」
「えっ……なに、これ、」
「ツララちゃん、今日お誕生日じゃないですか。お祝いしたくってきたんですよ。自分で言うのもなんですが、とっても似合ってます。わたしの見立て通り!」
得意げに自画自賛した名前はツララのじっと見つめる視線に気づき、ちょっと照れたようにはにかんだ。
「……な、何も言ってくれないと恥ずかしくなっちゃいます。気に入らなかったですか?」
「や、そうじゃなくて……。びっくりして」
「ふふん。暖かくて軽い最高級生地、繊維の宝石と呼ばれるカシミヤですよ。でも、どうしても欲しくて……奮発しちゃいました」
興奮しながら話す名前が、一生懸命自分の為に選んでくれたもの。決して安い買い物ではない。それは自分でもカシミヤ生地の防寒具を購入するツララが一番よく分かっていた。
「……」
「……ツ、ツララちゃん?」
ツララ・ヘイルストーンは誕生日なんて、今日の今日まで忘れていた。
自分の生まれてきた日なんて、所詮生まれてきた日というだけで特段固執していないのに。名前にこんなことされたら今日一日が特別になっちゃうじゃないか。
「……なんで、そこまで」
「そんなの!ツララちゃんの喜ぶ顔が見たいからだよ。そうじゃなきゃ買いません……! って、ここまで言わせちゃうのですか? ツララちゃんてば、もう……」
名前の照れくさそうな表情がツララに向けられている。自分に喜んで欲しいと思って、わざわざ家の近くまで足を運んでくれた事実。先程のもやもやした気持ちも浮ついた気持ちもどこかへ飛んでいってしまったようだった。
そんなツララに名前はコホンと咳払いし、「ツララちゃん、お誕生日おめでとうございます!」と優しく微笑んだ。ツララはそのあたたかい気持ちに素直に寄り添う。
「名前……すごく、すごく嬉しい……ありがとう……」
「当然です。大好きなツララちゃんの生まれてきてくれた日ですもの。わたしもとっても嬉しいですよ」
その言葉に胸がギュッと苦しくなり、愛しく思う感情が広がる。でも、その感情に向き合うより先に、名前に聞くべきことが今日はある。
「あ、あのさ……名前」
「はい」
「この間のマフラー、返したくて……ここに、あるんだけどね?これってその、特殊な繊維とかでは……ないのかな? どこで……買ってるのかなって、思って」
「全然!普通の安物ですよ。どこで買ったか、忘れてしまったくらいの」
あっけらかんと首を振って名前から告げられた回答に、ツララは衝撃を受けていたが――そこはさすが魔法研究管理局局長、氷の神杖を持つ神覚者。その驚きをおくびにも出さずに平静を装った。
心中では、じゃあなぜあの時あったかく感じたんだとバタバタしていたが。そんな自身の心を落ち着かせるべく、ツララは次のような行動をとることに決めた。
「……ふぅ。名前、良かったら家に上がっていって」
「え、そんな悪いです。だってようやく今日、お休み取れたってライオさんから伺いましたよ?ごめんなさい、連絡取れないから心配で」
あ、そこまで把握してるんだ。連絡を滞らせたことを怒るでもなく、心配して先回りしてくれる名前の優しさに胸がトクンと脈を打つ。
「ん。いいから……自分がもっと、一緒にいたいの……」
「へっ……?」
「……ダメだよ、二度目は言わない」
ツララ・ヘイルストーンはようやく自覚した。これは名前だけに対する感情。
固有魔法の影響で、常に体感温度がマイナス5度の状態のツララの頬に朱がさすなんてことはまずありえない。だが、今、そのありえないことが起きていた。ストールに顔をうずめるツララ自身もそれを見ている名前も気が付いてはいなかったが。
――ツララの胸に植えられた特別な感情の種。その種が今、自覚したことで静かに芽吹き始めたのであった。
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