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今日は2月1日、マーガレット・マカロンの誕生日である。
そんな日に名前は一人、森の中にいた。イーストン校内から近いこの森は、そこまで大きくはないが自然豊かで小動物の鳴き声が時折聞こえてくる心地の良い場所だった。
「フゥ……名前、待たせたわね」
そう言って乗っていたホウキから華麗に飛び降りたのはマーガレット・マカロン。前述の通り、今日誕生日を迎えた待ち合わせの相手であった。
「あら名前。いつもなら発声練習をして待っているのに……その様子だともう終わってしまったのかしら」
「はい、ちょっと早く着きすぎちゃいました」
「フフ、悪かったわね。じゃあ、始めましょうか」
マーガレットは自らの魔法でピアノを出し、その大きくしなやかな指で力強く鍵盤をたたき始める。名前は演奏している彼女の楽しそうな姿が好きだった。
「ん……調整もいい感じね。さぁ、アナタの歌声をこの森に響かせてちょうだい」
「はい! マーガレットさん」
名前はマーガレットのその言葉で一呼吸おいて、その水のように透き通る声をのびやかに奏ではじめた。
*
「今日も絶好調ねアナタ。また上手くなったんじゃないの?」
マーガレットに褒められて嬉しくないわけはない。名前はにやにやしながら喜びを噛み締める。
「ウフッ、相変わらずね。名前のその独特の喜び方。アナタ、いつも表情に出やすいクセに変に取り繕おうとするから変な顔になってるのよ」
「……こ、こどもっぽいと思われたくなくて」
「なぜ?」
「なぜって……」
それは、マーガレットさんの隣に相応しい者として立っていたいからです!なんて、名前に言う度胸はなかった。
それにマーガレットは愛する音楽を共に奏でる者として傍に置いてくれている。この美しいしらべに水を指すようなやましい感情は雑音でしかない。いつからか、この甘美な時間を共有するマーガレットへの感情は、特別なものとなっていたことに名前は気づいていた。
「……マーガレットさんは神覚者にも匹敵する実力を持っているオルカ寮の監督生です。わたしのせいで恥をかかせてはいけないので」
マーガレットはその回答に腕を組んで数秒考え込んだ後に、「そうね」と一言だけ静かに言った。まずい、何か気に食わないことを言ってしまっただろうか。
あたりには小鳥のさえずりが響き、その緩やかな時間を助長するように木々が風になびいていた。
「なんだか……アナタと出会ったきっかけを思い出すわ」
「……?」
「あの子たちにアナタを紹介されてから私はとても楽しかった」
名前はそのマーガレットからのもったいない言葉に目頭が熱くなる。
そう、きっかけは半年前。モルソー兄弟に名前がマーガレットを紹介してくれるように頼み込んだことだった。名前はマーガレットの演奏を初めて聴いた時から、その独創的な力強い音色に惚れ込み、どうしてもこの思いを伝えたいと思っていた。
それがまさか、声楽という形でセッションできる身に余る光栄を享受できるとは思わなかったが。
「あの子たちが紹介してくれる子だから、ガッカリすることはないとは思っていたけど……その分期待もしていなかったから、私にとっては掘り出し物だったってわけ。まっ、あのラブレターには驚いたけどね」
マーガレットは艶っぽい声でそう言って名前に微笑み、自分の頬に手を添えた。
に、してもラブレター。思わず、その言葉に恥ずかしくて火がでそうになる。
「す、すみません! あの時はもう心酔するマーガレットさんに思いを伝えたい一心で……。あぁ、穴があったら入りたいです……」
先程の理由からマーガレットの大ファンであった名前は、いつかちゃんと話すことが出来たらどれだけマーガレットの演奏が素晴らしいかを本人に伝えたいと思っていた。
――それがそう、マーガレットに揶揄されたラブレターである。
「ファンレターを貰うことはあっても、あれだけの情熱がつづられた手紙を貰うことはそうそうないわ」
「わ、わたしだって初めての手紙でしたよ! あぁもう、忘れてくださいよぉ!」
「イヤよ。……えぇと、なんだったかしら? 貴女の音はわたしの心臓を鷲掴みして離さない。わたしはもう既に貴女の虜に……」
「きゃあぁ!なんの辱めですか!うぅ……もう勘弁してくださいよマーガレットさぁん」
そんな名前の反応を楽しむようにマーガレットは口に手を当ててフフッと笑った。渡された方はいいかもしれないが、渡した本人は気が気ではない。
「というかマーガレットさん、何でそんなに内容を鮮明に覚えてるんですか? 書いたわたしでさえ、もうちゃんと覚えていないのに……」
マーガレットを伺うように見つめれば、その瞬間にざわざわと木々が揺れ、彼女の顔を光が柔らかく照らして。その問いに少し、沈黙したマーガレット・マカロンは特徴的なそのローブの懐から一通の封筒を取り出した。
「えっ! それ……!」
「そ、見覚えあるかしら?」
ひらひらとマーガレットの人差し指と中指に挟まれて揺れるその封筒に名前は見覚えがあった。当然だ。マーガレットに渡すために気合を入れてマーチェット通りにレターセットを買いに行ったのだから。
そんな封筒を絶対見間違えるはずがない。つまり、あれは私が渡したもので間違いない。
「……どうして」
「私がいつ何時も、マーガレット・マカロンとして一流の演奏をするためのおまじないみたいなものよ」
おまじない――。そう話すマーガレットの手で揺れた手紙は、渡した状態とは違い少し薄汚れていた。
でも、名前にはわかっていた。きっとマーガレットはずっと繰り返し、繰り返し、その手紙を読んでくれていたのだ。その事実だけが名前の心を震わせ、体をじんわりと内側から熱くさせた。
「マ、マーガレットさん……!」
「いつもアナタには助けられていたわ。ありがとう」
最有力神覚者候補であり、オルカ寮の監督生。魔力量と技術面で世界トップクラスの実力を持ち、一流の音楽家という二面性を持つ魅力的なマーガレット・マカロン。憧れの人に言われるその感謝の言葉に名前は涙が溢れた。
「そんな、そんな……」
「あら? 何泣いてるのよ。もう、可愛い顔が台無しよ」
「うっうっ、嬉しくて……」
「バカね。アナタが陰で隠れてコソコソ泣いてるのも知ってるんだから。泣き虫はいい加減卒業なさいな」
たしなめるようにそう言ったマーガレットはまた手元にあるピアノを弾き始めた。それはゆったりとした旋律で、名前を包み込むような優しい音だった。それに背中を押されるように名前は意を決して口を開く。
「……マーガレットさん、わたし言いたいことがあるんです」
「あら、奇遇ね。わたしもよ。しかたないわね、レディーファーストでお先にどうぞ?」
伸びた一音を最後に、再度鍵盤から指を離し、マーガレットは不敵に微笑んだ。
「……あ、あの、あの! マーガレットさんお誕生日おめでとうございます!」
「えっ」
「今日、お誕生日ですよね……。もう朝から言うタイミングをずっと狙ってました」
「やだわ、すっかり忘れてた……」
驚いたようにマーガレットは言い、口元を覆った。名前はそんな彼女に満面の笑みで二ヒヒと笑って。
「あのですね! 本当にマーガレットさんと出会えた日からわたし、凄く毎日がきらめいていて、こんな幸せがあるんだって思って……!」
「……」
「だけど!マーガレットさんが急にあんな事言うから嬉しい感情が溢れてきてぐちゃぐちゃになって……たくさん言いたいことあったのに全部忘れ……っ」
名前が最後まで言いきれなかったのは、マーガレットの柔らかい口調とは正反対のその屈強で力強い体に抱き寄せられたからだった。
「ちょ、ちょっとマーガレットさん? ……何を」
「本当に名前って鈍いわァ……言ったわよね、私。最初に出会ってアナタの歌声を聴いた時、『これからは私のために歌いなさい』って」
早鐘を打つ心臓が苦しい。状況を理解したくても理解出来ず、いやでもマーガレットの視線、声、息遣い、匂いを五感で感じ取ろうとしてしまう自分がやましくなってしまう。マーガレットは続ける。
「どうでもいい子に時間を割けるほど、私も暇じゃないの……アナタのその声で愛を囁かれたらどんなに気持ちいいのか知りたくなっちゃったのよ。虜になっちゃったのは私の方かもしれないわね」
マーガレットは名前の耳元でフッと息を吐き、「アナタでも、さすがにこの意味はわかるわよね?」と魅惑的な低い声で囁いた。その一連の情報量の多さに名前はもう息ができなくてギュッと目をつぶって。
「だから、プレゼントは名前……アナタよ。異論は認めないわ。たっぷり可愛がってあげるから覚悟なさい」
大好きな人の誕生日に自分が幸せになってもいいのだろうか。また溢れ出てきた涙を止められないまま、名前は何度も頷き「よろしくお願いします……」と返事をした。
マーガレットは尚も嗚咽をあげて泣き止まない名前に対し、赤ちゃんをあやすようによしよしと背中をさすってやって。
彼女のその溢れ出る優しさと母性は、いつまでも名前を魅了してやまないのであった――。
そんな日に名前は一人、森の中にいた。イーストン校内から近いこの森は、そこまで大きくはないが自然豊かで小動物の鳴き声が時折聞こえてくる心地の良い場所だった。
「フゥ……名前、待たせたわね」
そう言って乗っていたホウキから華麗に飛び降りたのはマーガレット・マカロン。前述の通り、今日誕生日を迎えた待ち合わせの相手であった。
「あら名前。いつもなら発声練習をして待っているのに……その様子だともう終わってしまったのかしら」
「はい、ちょっと早く着きすぎちゃいました」
「フフ、悪かったわね。じゃあ、始めましょうか」
マーガレットは自らの魔法でピアノを出し、その大きくしなやかな指で力強く鍵盤をたたき始める。名前は演奏している彼女の楽しそうな姿が好きだった。
「ん……調整もいい感じね。さぁ、アナタの歌声をこの森に響かせてちょうだい」
「はい! マーガレットさん」
名前はマーガレットのその言葉で一呼吸おいて、その水のように透き通る声をのびやかに奏ではじめた。
*
「今日も絶好調ねアナタ。また上手くなったんじゃないの?」
マーガレットに褒められて嬉しくないわけはない。名前はにやにやしながら喜びを噛み締める。
「ウフッ、相変わらずね。名前のその独特の喜び方。アナタ、いつも表情に出やすいクセに変に取り繕おうとするから変な顔になってるのよ」
「……こ、こどもっぽいと思われたくなくて」
「なぜ?」
「なぜって……」
それは、マーガレットさんの隣に相応しい者として立っていたいからです!なんて、名前に言う度胸はなかった。
それにマーガレットは愛する音楽を共に奏でる者として傍に置いてくれている。この美しいしらべに水を指すようなやましい感情は雑音でしかない。いつからか、この甘美な時間を共有するマーガレットへの感情は、特別なものとなっていたことに名前は気づいていた。
「……マーガレットさんは神覚者にも匹敵する実力を持っているオルカ寮の監督生です。わたしのせいで恥をかかせてはいけないので」
マーガレットはその回答に腕を組んで数秒考え込んだ後に、「そうね」と一言だけ静かに言った。まずい、何か気に食わないことを言ってしまっただろうか。
あたりには小鳥のさえずりが響き、その緩やかな時間を助長するように木々が風になびいていた。
「なんだか……アナタと出会ったきっかけを思い出すわ」
「……?」
「あの子たちにアナタを紹介されてから私はとても楽しかった」
名前はそのマーガレットからのもったいない言葉に目頭が熱くなる。
そう、きっかけは半年前。モルソー兄弟に名前がマーガレットを紹介してくれるように頼み込んだことだった。名前はマーガレットの演奏を初めて聴いた時から、その独創的な力強い音色に惚れ込み、どうしてもこの思いを伝えたいと思っていた。
それがまさか、声楽という形でセッションできる身に余る光栄を享受できるとは思わなかったが。
「あの子たちが紹介してくれる子だから、ガッカリすることはないとは思っていたけど……その分期待もしていなかったから、私にとっては掘り出し物だったってわけ。まっ、あのラブレターには驚いたけどね」
マーガレットは艶っぽい声でそう言って名前に微笑み、自分の頬に手を添えた。
に、してもラブレター。思わず、その言葉に恥ずかしくて火がでそうになる。
「す、すみません! あの時はもう心酔するマーガレットさんに思いを伝えたい一心で……。あぁ、穴があったら入りたいです……」
先程の理由からマーガレットの大ファンであった名前は、いつかちゃんと話すことが出来たらどれだけマーガレットの演奏が素晴らしいかを本人に伝えたいと思っていた。
――それがそう、マーガレットに揶揄されたラブレターである。
「ファンレターを貰うことはあっても、あれだけの情熱がつづられた手紙を貰うことはそうそうないわ」
「わ、わたしだって初めての手紙でしたよ! あぁもう、忘れてくださいよぉ!」
「イヤよ。……えぇと、なんだったかしら? 貴女の音はわたしの心臓を鷲掴みして離さない。わたしはもう既に貴女の虜に……」
「きゃあぁ!なんの辱めですか!うぅ……もう勘弁してくださいよマーガレットさぁん」
そんな名前の反応を楽しむようにマーガレットは口に手を当ててフフッと笑った。渡された方はいいかもしれないが、渡した本人は気が気ではない。
「というかマーガレットさん、何でそんなに内容を鮮明に覚えてるんですか? 書いたわたしでさえ、もうちゃんと覚えていないのに……」
マーガレットを伺うように見つめれば、その瞬間にざわざわと木々が揺れ、彼女の顔を光が柔らかく照らして。その問いに少し、沈黙したマーガレット・マカロンは特徴的なそのローブの懐から一通の封筒を取り出した。
「えっ! それ……!」
「そ、見覚えあるかしら?」
ひらひらとマーガレットの人差し指と中指に挟まれて揺れるその封筒に名前は見覚えがあった。当然だ。マーガレットに渡すために気合を入れてマーチェット通りにレターセットを買いに行ったのだから。
そんな封筒を絶対見間違えるはずがない。つまり、あれは私が渡したもので間違いない。
「……どうして」
「私がいつ何時も、マーガレット・マカロンとして一流の演奏をするためのおまじないみたいなものよ」
おまじない――。そう話すマーガレットの手で揺れた手紙は、渡した状態とは違い少し薄汚れていた。
でも、名前にはわかっていた。きっとマーガレットはずっと繰り返し、繰り返し、その手紙を読んでくれていたのだ。その事実だけが名前の心を震わせ、体をじんわりと内側から熱くさせた。
「マ、マーガレットさん……!」
「いつもアナタには助けられていたわ。ありがとう」
最有力神覚者候補であり、オルカ寮の監督生。魔力量と技術面で世界トップクラスの実力を持ち、一流の音楽家という二面性を持つ魅力的なマーガレット・マカロン。憧れの人に言われるその感謝の言葉に名前は涙が溢れた。
「そんな、そんな……」
「あら? 何泣いてるのよ。もう、可愛い顔が台無しよ」
「うっうっ、嬉しくて……」
「バカね。アナタが陰で隠れてコソコソ泣いてるのも知ってるんだから。泣き虫はいい加減卒業なさいな」
たしなめるようにそう言ったマーガレットはまた手元にあるピアノを弾き始めた。それはゆったりとした旋律で、名前を包み込むような優しい音だった。それに背中を押されるように名前は意を決して口を開く。
「……マーガレットさん、わたし言いたいことがあるんです」
「あら、奇遇ね。わたしもよ。しかたないわね、レディーファーストでお先にどうぞ?」
伸びた一音を最後に、再度鍵盤から指を離し、マーガレットは不敵に微笑んだ。
「……あ、あの、あの! マーガレットさんお誕生日おめでとうございます!」
「えっ」
「今日、お誕生日ですよね……。もう朝から言うタイミングをずっと狙ってました」
「やだわ、すっかり忘れてた……」
驚いたようにマーガレットは言い、口元を覆った。名前はそんな彼女に満面の笑みで二ヒヒと笑って。
「あのですね! 本当にマーガレットさんと出会えた日からわたし、凄く毎日がきらめいていて、こんな幸せがあるんだって思って……!」
「……」
「だけど!マーガレットさんが急にあんな事言うから嬉しい感情が溢れてきてぐちゃぐちゃになって……たくさん言いたいことあったのに全部忘れ……っ」
名前が最後まで言いきれなかったのは、マーガレットの柔らかい口調とは正反対のその屈強で力強い体に抱き寄せられたからだった。
「ちょ、ちょっとマーガレットさん? ……何を」
「本当に名前って鈍いわァ……言ったわよね、私。最初に出会ってアナタの歌声を聴いた時、『これからは私のために歌いなさい』って」
早鐘を打つ心臓が苦しい。状況を理解したくても理解出来ず、いやでもマーガレットの視線、声、息遣い、匂いを五感で感じ取ろうとしてしまう自分がやましくなってしまう。マーガレットは続ける。
「どうでもいい子に時間を割けるほど、私も暇じゃないの……アナタのその声で愛を囁かれたらどんなに気持ちいいのか知りたくなっちゃったのよ。虜になっちゃったのは私の方かもしれないわね」
マーガレットは名前の耳元でフッと息を吐き、「アナタでも、さすがにこの意味はわかるわよね?」と魅惑的な低い声で囁いた。その一連の情報量の多さに名前はもう息ができなくてギュッと目をつぶって。
「だから、プレゼントは名前……アナタよ。異論は認めないわ。たっぷり可愛がってあげるから覚悟なさい」
大好きな人の誕生日に自分が幸せになってもいいのだろうか。また溢れ出てきた涙を止められないまま、名前は何度も頷き「よろしくお願いします……」と返事をした。
マーガレットは尚も嗚咽をあげて泣き止まない名前に対し、赤ちゃんをあやすようによしよしと背中をさすってやって。
彼女のその溢れ出る優しさと母性は、いつまでも名前を魅了してやまないのであった――。