弱音を吐く(社会人現パロ/ドット)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「弱音を吐く」ということについて考えてみたい。女性と男性で定義があるわけでもないが、女性より男性の方が弱音を吐いてはいけないという強迫観念があるのではないかと推測する。男性が弱音を吐くなんて、格好悪い、強くありなさいと周りが言うことで余計に言えなくて追い詰めてしまうなんてことが、多々ありそうだ。
「で、そこでわたしは敢えて言いたいのだけど」
「いや待て、唐突すぎてびびるわ。脈絡よ」
「ふとした時に、弱音を吐く男を推したい」
「……どゆこと?」
「だから、こういうことよ。いつもは隠してるくせに、このタイミングで弱いとこ見せてくれるんだ。きゅんって」
「そういうもん? ……女の子マジでわかんねぇ。だって、弱音吐いてばっかは嫌だろ?」
「そりゃね。こっちも頑張れって気持ちになってきちゃうし。でも、たまに見せられるとグッとくる。そうねー、いつもはしっかりしてて強い女の子がさ、『ちょっと疲れちゃった……』って、ドットくんに困った顔で甘えてきたら、どう?」
「は? それは好きだろ。ラブロマンスが始まる気配しかない、ってかその時点で自分に好意なくても好き確だわ」
「そういうことよ」
「そういうことか」
グッとグラスを飲み干し、氷がカランと揺れる。次の一杯はもう決めてるのよ。カクテルのテキーラ・サンライズ。店員さんを呼び止めて、お願いすればシェーカーですぐ作ってくれて。
「絶対、日本酒だと思った」
「カッコつけたい夜もあるってことよ」
「オレの前で今更カッコつけてどうすんだよ」
あー、もうそうやって、ケラケラ笑ってる顔が好き。わたしの頭をわしゃわしゃと撫でてくれる手が好き。こんな事してくれるのに、付き合ってないんだぜ。信じられるかい? 1個先輩の彼には入社時から、片想いの同期の子がいるのだ。わたしの方が早く出会っていたらと思わずにはいられない。
「後、さっきの話の続きだけど、ポイントは『特別感』だよ」
「特別感ねー。悪い気はしねぇよな、実際」
「そう! わたしの前だけとか、あなたの前だけ、とか自分以外にしていないっていう行為が、余計に心を鷲掴みにするの。いつもは見せない弱い部分を、わたしの前でだけ見せてくれる特別感、それ逆に然り!」
「というと?」
「自分が弱ってる時に、『いいよ、助けてあげる。他の人にはしないからね』って言葉にされたらもう……グラグラっすよ。1発K.O.」
「確かに! めっちゃいいシチュだわ、最高」
「もー、先輩にもしてあげればいいじゃん」
「アイツは仕事出来るからなー……オレがいなくても大丈夫って思っちまうんだよな。そりゃ、隙があれば助けたいけど!」
分かってないなー。仕事出来るからこの人に任せとけば大丈夫って思われる人は弱音吐けない典型だっつの。吐いちゃいけないって自分に呪いかけてるタイプ。
「アホだね、君は。救えないアホ」
「おい、先輩に向かってアホを連呼すんな」
「だって……そんなん、甘え下手なの分かんじゃん。そういうとこ先回りしてポイント稼がないでどーすんのよ? あの人、男性人気高いから、うかうかしてるととられちゃうぜ」
とられちゃえ! と思う自分はもちろんいるよ。邪魔はしないけど阻止したいがスタンスだから。でも、悲しむ彼の姿を見るのは、想像しただけで胸が傷むし、辛い。罪作りな男だ、君は。
「うっ、心配だからさりげなく一緒に残業したりはしてるけど……そうか、それとなく探ってみるわ。無理してるに決まってるもんな」
「君は! アホなんだから、絶対そういうこと言ってくるまでは自分から特別感とか手伝うとか出しちゃダメだかんね!」
「……はい。肝に銘じます」
「わたしのことはちゃんと見ててくれて、声掛けてくれるのにねー。何でそれが好きな人ってなると出来ないんだか」
「いやいや……だって、お前は要領悪くてすぐ仕事溜め込むし、確認しないとミスするし、心配だからオレが見ててやらねぇとダメだろ」
「心配してくれてんの?」
「心配してあげてんの。名前じゃなきゃしねぇけど」
ニヤリと笑って言うドットくんに胸が高鳴ったなんて、絶対言いたくない。だって、嘘じゃん。冗談じゃん。顔を見ないようにして「先輩のことだって心配してるでしょ」と言えば、「種類が違ぇよ」と返されて。
「ふーん。先輩に対しては無理して欲しくない、守ってあげたいっていう心配で、わたしに対しては、要領悪くて仕事できないからフォローしてやらないとって心配ですか?」
「待て待て、拗ねんなって! そんなんじゃねぇから」
「じゃあ何よ!」
「名前の事は可愛くて大事だからじゃ、ダメ?」
雷がドーンと自分の中に落ちたような感覚。コイツ、本命以外にもこんな事するんだ。無自覚でたらしてる。最低だけど、最高だ。わたしの中のジェットコースターがさっきから、ずっとアップダウン激しいんだが。でもその可愛くて大事って、後輩だからなんでしょう。
「ったく……あんた、凄いわたしのこと下扱いするけど、同い年なのよ! 忘れないでね」
「確かにその設定忘れちまいがちだけど、可愛いのは事実なんだからしょーがねぇだろが。危なしくて、目が離せないんだよ」
どうして、こんなに。思わず顔を覆えば「え。何、酔い回っちゃった? 大丈夫かよ」と背中をさすられて。
さすられているこの状況ですら幸せを感じてしまうわたしは、彼に惹かれ過ぎている。手の体温が背中越しに伝わってきて、もうどうしようも無い衝動に襲われそうで。指の隙間から彼を覗けば、心配しているのが伝わってくる。もう、そんなんじゃわたしみたいのに付け込まれちゃうよ!
「やっぱり顔真っ赤じゃん。飲み慣れないの飲むからじゃねぇの? 辛くない?」
「辛い。すっごく……辛い」
「マジ? そんな?」
「ってことで、今日ドットくん奢りね♡」
「いやいや、何がまとまったんだよ。まぁいいけどよ……ほら送ってくから、支度しろ」
「はーい」
チェックのサインを店員に送って、そのままわたしはお会計を見ずにドアのベルを鳴らして外へ出た。
*
「ねぇねぇ、おんぶかだっこして」
「はぁ? ダメ、自分で歩け」
「酔っちゃって歩けない〜、してくれないならここに座っちゃうからね」
「おいおい! 女の子が道路の真ん中に座ろうとするんじゃありません! あぁもう、ほら!」
すっとしゃがみこんで見せてくれた背中はいつもより大きくて、逞しく見えた。何これ、萌える。死語? 遠慮なく、ぎゅっと首に抱きついて体重をかければ、ふわりと体が上がっていく。何これ、楽しい。安定感あるアトラクションみたい。それに、首元からいつも付けてるおしゃれな香水の良い匂いする! 電車の中とかでこの匂い嗅ぐと、ドットくん思い出しちゃうんだよね。口に出しているつもりはなかったが、全部思っていたことが、言葉になってしまっていたようで。
「……お前、オレが抵抗できない状態で勝手に匂い嗅ぐなよ」
「嗅いでないよ、香ってきてるから、吸い込んでる」
「一緒だろ! ……マジで恥ずかしいからやめろし」
「えー、可愛い」
「だから、やめろって! くそ!」
彼が顔を朱に染めているのを想像するだけで滾る。もちろん、前を向いているからあくまでも想像だけだが。
「ずっと四六時中嗅いでたいくらい、好きだよ」
「そこまでいくと怖ぇよ。……ま、ずっとオレのこと考えたいってことだったりしてな」
「……」
「おい。今のは冗談だろ、黙るなって! こっちからは全然表情見えないんだか、ら」
何で今、このタイミングで後ろ向くの。だって、言われたこと反射で否定できなかったんだから、仕方ないでしょ。本当のことなんだもん。ぱっと口を手の甲で隠したって、この頬の赤みは消えない。暗くてまだ良かったって言いたいのに、なぜ今街灯の下なの!
「えー……何その反応。反則だろ。オレじゃなかったら勘違いしちまうぜ、それ」
「知らない! 別に! そんなんじゃないし」
「分かってるって。でも、他の男にはすんなよ」
何にも分かってないわ! ふざけんな! そんなことしないっつの! 全部声に出して叫びたかったけど、流石にそれを吐露することは出来ず我慢した。今が幸せだから、ひとまずは……と重たくなってくる瞼にわたしは抗うのをやめた。
「おーい…… 名前さーん?」
「……」
「返事がない、ただのしかばねのようだ」
「……殺すな」
「起きてたんかい。……あとちょっとだから寝んなよ」
「考えとく」
「考えるな、今感じろ」
「眠気を感じてる」
そう言えば、「お前ってやつは……」と喉を鳴らすように笑い声が聞こえてきて、自然とわたしの頬も緩むのだった。
「で、そこでわたしは敢えて言いたいのだけど」
「いや待て、唐突すぎてびびるわ。脈絡よ」
「ふとした時に、弱音を吐く男を推したい」
「……どゆこと?」
「だから、こういうことよ。いつもは隠してるくせに、このタイミングで弱いとこ見せてくれるんだ。きゅんって」
「そういうもん? ……女の子マジでわかんねぇ。だって、弱音吐いてばっかは嫌だろ?」
「そりゃね。こっちも頑張れって気持ちになってきちゃうし。でも、たまに見せられるとグッとくる。そうねー、いつもはしっかりしてて強い女の子がさ、『ちょっと疲れちゃった……』って、ドットくんに困った顔で甘えてきたら、どう?」
「は? それは好きだろ。ラブロマンスが始まる気配しかない、ってかその時点で自分に好意なくても好き確だわ」
「そういうことよ」
「そういうことか」
グッとグラスを飲み干し、氷がカランと揺れる。次の一杯はもう決めてるのよ。カクテルのテキーラ・サンライズ。店員さんを呼び止めて、お願いすればシェーカーですぐ作ってくれて。
「絶対、日本酒だと思った」
「カッコつけたい夜もあるってことよ」
「オレの前で今更カッコつけてどうすんだよ」
あー、もうそうやって、ケラケラ笑ってる顔が好き。わたしの頭をわしゃわしゃと撫でてくれる手が好き。こんな事してくれるのに、付き合ってないんだぜ。信じられるかい? 1個先輩の彼には入社時から、片想いの同期の子がいるのだ。わたしの方が早く出会っていたらと思わずにはいられない。
「後、さっきの話の続きだけど、ポイントは『特別感』だよ」
「特別感ねー。悪い気はしねぇよな、実際」
「そう! わたしの前だけとか、あなたの前だけ、とか自分以外にしていないっていう行為が、余計に心を鷲掴みにするの。いつもは見せない弱い部分を、わたしの前でだけ見せてくれる特別感、それ逆に然り!」
「というと?」
「自分が弱ってる時に、『いいよ、助けてあげる。他の人にはしないからね』って言葉にされたらもう……グラグラっすよ。1発K.O.」
「確かに! めっちゃいいシチュだわ、最高」
「もー、先輩にもしてあげればいいじゃん」
「アイツは仕事出来るからなー……オレがいなくても大丈夫って思っちまうんだよな。そりゃ、隙があれば助けたいけど!」
分かってないなー。仕事出来るからこの人に任せとけば大丈夫って思われる人は弱音吐けない典型だっつの。吐いちゃいけないって自分に呪いかけてるタイプ。
「アホだね、君は。救えないアホ」
「おい、先輩に向かってアホを連呼すんな」
「だって……そんなん、甘え下手なの分かんじゃん。そういうとこ先回りしてポイント稼がないでどーすんのよ? あの人、男性人気高いから、うかうかしてるととられちゃうぜ」
とられちゃえ! と思う自分はもちろんいるよ。邪魔はしないけど阻止したいがスタンスだから。でも、悲しむ彼の姿を見るのは、想像しただけで胸が傷むし、辛い。罪作りな男だ、君は。
「うっ、心配だからさりげなく一緒に残業したりはしてるけど……そうか、それとなく探ってみるわ。無理してるに決まってるもんな」
「君は! アホなんだから、絶対そういうこと言ってくるまでは自分から特別感とか手伝うとか出しちゃダメだかんね!」
「……はい。肝に銘じます」
「わたしのことはちゃんと見ててくれて、声掛けてくれるのにねー。何でそれが好きな人ってなると出来ないんだか」
「いやいや……だって、お前は要領悪くてすぐ仕事溜め込むし、確認しないとミスするし、心配だからオレが見ててやらねぇとダメだろ」
「心配してくれてんの?」
「心配してあげてんの。名前じゃなきゃしねぇけど」
ニヤリと笑って言うドットくんに胸が高鳴ったなんて、絶対言いたくない。だって、嘘じゃん。冗談じゃん。顔を見ないようにして「先輩のことだって心配してるでしょ」と言えば、「種類が違ぇよ」と返されて。
「ふーん。先輩に対しては無理して欲しくない、守ってあげたいっていう心配で、わたしに対しては、要領悪くて仕事できないからフォローしてやらないとって心配ですか?」
「待て待て、拗ねんなって! そんなんじゃねぇから」
「じゃあ何よ!」
「名前の事は可愛くて大事だからじゃ、ダメ?」
雷がドーンと自分の中に落ちたような感覚。コイツ、本命以外にもこんな事するんだ。無自覚でたらしてる。最低だけど、最高だ。わたしの中のジェットコースターがさっきから、ずっとアップダウン激しいんだが。でもその可愛くて大事って、後輩だからなんでしょう。
「ったく……あんた、凄いわたしのこと下扱いするけど、同い年なのよ! 忘れないでね」
「確かにその設定忘れちまいがちだけど、可愛いのは事実なんだからしょーがねぇだろが。危なしくて、目が離せないんだよ」
どうして、こんなに。思わず顔を覆えば「え。何、酔い回っちゃった? 大丈夫かよ」と背中をさすられて。
さすられているこの状況ですら幸せを感じてしまうわたしは、彼に惹かれ過ぎている。手の体温が背中越しに伝わってきて、もうどうしようも無い衝動に襲われそうで。指の隙間から彼を覗けば、心配しているのが伝わってくる。もう、そんなんじゃわたしみたいのに付け込まれちゃうよ!
「やっぱり顔真っ赤じゃん。飲み慣れないの飲むからじゃねぇの? 辛くない?」
「辛い。すっごく……辛い」
「マジ? そんな?」
「ってことで、今日ドットくん奢りね♡」
「いやいや、何がまとまったんだよ。まぁいいけどよ……ほら送ってくから、支度しろ」
「はーい」
チェックのサインを店員に送って、そのままわたしはお会計を見ずにドアのベルを鳴らして外へ出た。
*
「ねぇねぇ、おんぶかだっこして」
「はぁ? ダメ、自分で歩け」
「酔っちゃって歩けない〜、してくれないならここに座っちゃうからね」
「おいおい! 女の子が道路の真ん中に座ろうとするんじゃありません! あぁもう、ほら!」
すっとしゃがみこんで見せてくれた背中はいつもより大きくて、逞しく見えた。何これ、萌える。死語? 遠慮なく、ぎゅっと首に抱きついて体重をかければ、ふわりと体が上がっていく。何これ、楽しい。安定感あるアトラクションみたい。それに、首元からいつも付けてるおしゃれな香水の良い匂いする! 電車の中とかでこの匂い嗅ぐと、ドットくん思い出しちゃうんだよね。口に出しているつもりはなかったが、全部思っていたことが、言葉になってしまっていたようで。
「……お前、オレが抵抗できない状態で勝手に匂い嗅ぐなよ」
「嗅いでないよ、香ってきてるから、吸い込んでる」
「一緒だろ! ……マジで恥ずかしいからやめろし」
「えー、可愛い」
「だから、やめろって! くそ!」
彼が顔を朱に染めているのを想像するだけで滾る。もちろん、前を向いているからあくまでも想像だけだが。
「ずっと四六時中嗅いでたいくらい、好きだよ」
「そこまでいくと怖ぇよ。……ま、ずっとオレのこと考えたいってことだったりしてな」
「……」
「おい。今のは冗談だろ、黙るなって! こっちからは全然表情見えないんだか、ら」
何で今、このタイミングで後ろ向くの。だって、言われたこと反射で否定できなかったんだから、仕方ないでしょ。本当のことなんだもん。ぱっと口を手の甲で隠したって、この頬の赤みは消えない。暗くてまだ良かったって言いたいのに、なぜ今街灯の下なの!
「えー……何その反応。反則だろ。オレじゃなかったら勘違いしちまうぜ、それ」
「知らない! 別に! そんなんじゃないし」
「分かってるって。でも、他の男にはすんなよ」
何にも分かってないわ! ふざけんな! そんなことしないっつの! 全部声に出して叫びたかったけど、流石にそれを吐露することは出来ず我慢した。今が幸せだから、ひとまずは……と重たくなってくる瞼にわたしは抗うのをやめた。
「おーい…… 名前さーん?」
「……」
「返事がない、ただのしかばねのようだ」
「……殺すな」
「起きてたんかい。……あとちょっとだから寝んなよ」
「考えとく」
「考えるな、今感じろ」
「眠気を感じてる」
そう言えば、「お前ってやつは……」と喉を鳴らすように笑い声が聞こえてきて、自然とわたしの頬も緩むのだった。
1/1ページ