まっすぐみつめて
気が緩んでいた
いきなりミクからキスされるなんて思ってもみなかった
思わず「…え」と声を漏らすオレに、彰人のそんな顔初めて見たと楽しげにミクは笑っていて
「ね、どんな感じだった?」
「…わかんねーよそんなの」
「もしかして、照れてる?可愛い」
「あ゛ー!うっせぇ!」
揶揄うミクに半ばヤケになってそう叫ぶ
でもミクは変わらず楽しそうに笑ったままで
「ねぇ、もう一回していい?」
「…好きにしろ」
オレが頷くと、今度はゆっくりと唇が重ねられる
そしてミクは離れてまた満足そうに笑って、その笑顔は嬉しそうだった
「ふふ、嬉しいな。ちゃんとドキドキしてくれてるんだ」
「だから…あんま見んなって…」!
嬉しそうに笑うミクに目を逸らしながら呟く
気恥ずかしさについ顔が熱くなるのがわかった
そんなオレを見てか、ミクがまた顔を寄せてくる
「じゃあさ、もっと見ていいよね?」
「…好きにしろよ」
もうどうにでもなれと思って投げやりに答える
するとミクはくすくす笑ってもう一度オレの頬に手を当てて
「うん、好きにするね」
そう言って、オレの目を真っ直ぐ見た
その視線から逃れるように目を逸らす
けれどそれを許さないとばかりにミクの手が顔に当てられ、強引に視線を合わされた
「目逸らさないで、私の事だけ見ててよ」
じっと、こちらを見つめたままミクはそう言う
言われた通り目を逸らせずにいると、ふとミクの表情が変わった気がした
どこか真剣味を帯びたその表情に少し不安になる
何か怒らせるようなことしただろうかと考えているうちにミクが口を開く
「まだ好きで居てくれるんだね、私のこと」
今更、何を言うんだと思った
当たり前だろと返してやれば幸せそうに微笑んでくれるけど、どうにも釈然としないというかなんというか
そもそもオレは怒ってないし不満もない
ただちょっと気になっただけだ
どうしてそんな当たり前のことを聞くのかと
しかしそんなことをわざわざ聞く必要があるのか
、今の会話にはまるで脈絡がなかったように思える
それが何となく気に食わない気がして眉を顰めると、それに気付いたらしい彼女に慌てて謝罪された
違うんだよ、そんな顔をさせたいわけじゃないんだと言いたげに首を横に振る彼女の意図が読めないまま見つめ返す
一体なんだというのか
言葉を待つ間、沈黙が流れる
やがて観念したように彼女が小さく息を吐き出す音が聞こえたかと思えば、不意に視線が合った
その瞳の奥に揺らめく感情は一体何なのか、読み取ることが出来ないほどに複雑そうな色をしているように思う
「彰人が好きな私でありたいって思ってても本当は自信がなくて…だけどやっぱり諦められそうになくて…」
彼女はそこで一度言葉を区切ると悲しげに微笑んだ後目を伏せた
その様子からはいつもの明るさが全く感じられない
初めて見るその姿に戸惑いを覚えながらも黙って耳を傾けることしかできない自分が歯痒かった
何か言ってやりたいと思うものの、気の利いた台詞なんて思いつかないし、無理に慰めたって意味がないことは分かっているつもりだ
だからこそ余計に何も言えなくなってしまって口を噤むしかなかった
そんな自分の無力さに嫌気が差してしまう
ただ彼女が、そんな風に思い悩んでいるという事実だけが理解できただけ良かったとすら思える
「…はは、ごめん変な話しちゃって、気にしないで」
何でもないことのようにへらりと笑い飛ばしてみせるその姿にはやはり覇気がないように見える
そしてまた口を閉じて俯いてしまう
その様子はまるで泣いているようでもあって、何を言えばいいのかわからず押し黙ることしかできなかった
いつもの強気な態度が鳴りを潜めていることにも不安を覚えてしまう
何もしてあげられないのかと無力感に苛まれるばかりだ
「ごめんね」
ぽつりと呟かれた言葉
何に対して謝られているのかわからず困惑する
しかし彼女はそれ以上何も言おうとしなかった
ただ静かに微笑んでいるだけで、それが余計にこちらの焦燥感を煽る
何か言わなければと思うのに何も言葉が出てこない
そんな自分が情けなくて仕方なかった
「…彰人はさ、優しいよね」
不意に彼女が口を開く
その声色は穏やかでどこか寂しげに聞こえた
そしてまた沈黙が訪れるが今度は先程のように長くはない
ほんの数秒程の短いものだった
「でも私はその優しさに甘えたくないんだ」
言うと同時に抱きつかれる
驚いて硬直するオレを余所に彼女は言葉を続けた
それはまるで独り言のような響きを持っていて、だけどオレはその一言一句を聞き逃すまいと耳を澄ましてしまう
それがどんな内容であろうと聞き逃してはいけない気がしたからかもしれない
「だから…だから…っ、ごめん」
絞り出すような謝罪の声と共に背中に回された腕に力が込められるのを感じた
まるで離さないとでも言っているかのようだ
それに応えるようにそっと彼女の背に手を回せばびくりと肩が跳ね上がるのがわかった
それでも構わずに抱き締め返せば、やがて安心したかのように身体の力が抜けていく
「ごめんね」
「謝んなって」
「でも…」
「…いいから、もう黙れよ」
無力さに唇を噛みながら、それでもこの手を離すまいとして強く抱き締める
すると彼女は大人しく身を委ねてくれた
「ありがとう、彰人」
「別に礼なんていらねぇ」
ぶっきらぼうに返せばくすくすと笑われる
それが気に食わなくて腕の力を強めれば苦しいよと言いながらも嬉しそうだった
そんな様子に呆れながらもどこか安堵している自分に気付いて苦笑する
やっぱり彼女には笑っていてほしいと思うし、それが自分の隣ならなお良いとまで思えるから重症かもしれない
こんなにも好きなんだと思い知らされてしまって何だか悔しい気分になる
でも悪い気分ではなかった
「好きだよ、彰人」
「…おう」
耳元で囁くような甘い声に小さく返事をする
その一言だけで幸せになれるのだから不思議だと思う
きっとそれは相手が彼女だからだろう
「ねぇ、キスしてもいい?」
「…聞くなよ」
照れ隠しにぶっきらぼうに答えながらも、今度はオレの方から唇を重ねた
触れるだけの優しい口付け
それでも十分に満たされるものがある
「ふふ…可愛いね」
「…うっせ」
相変わらず揶揄ってくる彼女にぶっきらぼうな言葉を返す
それでも彼女は楽しそうに笑っていた
そんなやり取りをしつつも、彼女を抱き寄せる腕の力を緩めることはしない
どうせこれからも一緒に居るつもりだし、離れる必要もないだろうと思うから
だから今はただこうやって抱き締め合っていればそれでいいと思った
彼女の体温を感じていられるだけで十分すぎる程に幸せだ
「ねぇ、好きだよ」
「知ってる」
何度言われたって足りないくらいには、きっとオレだって彼女のことが好きなんだろう
だから何度だって言うし何度でも聞きたいと思うのだ
「愛してる」
「…オレも」
真っ直ぐに見つめられる視線に耐えられず僅かに目を逸らす
それでも照れ隠しだということくらいお見通しなのだろう、小さく笑う声が耳に届いた
それにもまた恥ずかしさを覚えずにはいられないけれど、それよりも彼女の笑顔が見れることの方が嬉しかったりするんだから相当だと思う
「ねぇ、彰人は言ってくれないの?」
「…言わなくてもわかってんだろうが」
拗ねたような口調で言えば、また楽しそうに笑う声
そして耳元に顔を寄せられる感覚にぞくりとする
その直後に甘く囁くような声が鼓膜を揺らした
「言葉にしてくれないと分からないこともあるんだよ」
「……」
顔を見ずとも分かるほどに彼女の声色には期待が込められている
それが分かるからこそ余計に恥ずかしかった
だがここで言わないわけにもいかないだろうと覚悟を決めて口を開くことにする
「…愛してる」
自分でもわかる程にぶっきらぼうな口調になってしまったが、それでも彼女は満足してくれたらしい
「嬉しい」と心底嬉しそうな声音で言われてしまえば恥ずかしさよりも愛おしさが勝ってしまった
我ながら現金だと思うものの、それも仕方ないと思うことにする
それだけ好きなのだ、彼女のことを
そっと視線を上げてみれば想像通り幸せそうな笑顔を見せられていて、胸が締め付けられるような感覚を覚えた
その表情が何よりも好きなんだと再認識させられてしまった気分だ
「ありがとう、彰人」
また礼を言って彼女は軽く触れるだけのキスをする
それからゆっくりと目を合わせられるが視線が離せなくなる程の射抜くような瞳に見つめられて息を呑んだ
何もかも見透かすような視線なのに不思議と嫌な気はしないのだ
むしろ全てを曝け出したいとすら思わされる
それくらい真っ直ぐに向けられる瞳は真剣で思わず息を飲む程だった
そのまましばし見つめ合っていれば、不意に彼女の手が頬へと伸びてきた
それを黙って受け入れれば指先で優しく輪郭をなぞるように撫でられる
「彰人は可愛いね」
「うっせ」
反射的に悪態を吐くもののそれすらも愛おしいと言わんばかりの表情で見つめられては何も言えなくなる
結局何も言い返せないまま黙っていれば、また小さく笑われた後に今度はゆっくりと唇を重ねられた
触れるだけの優しい口付けだったが、それだけで十分すぎる程に満たされていくのを感じることができる
「ふふ、可愛い」
「…だからそれやめろ」
揶揄うような口調で言う彼女に対してぶっきらぼうに返せば、それでも彼女は楽しげに笑うだけだった
そんな彼女を見ていると自然とこちらも笑みが溢れてしまうのだから不思議なもので
彼女という存在の大きさを改めて実感させられたような気がして苦笑しつつ彼女を強く抱き締めると、また「苦しいってば」という抗議の声と共に背中を叩かれて笑われた
でも今だけはその痛みすらも愛おしいと思うから不思議だ
「…どこにも行かないでくれ」
思わずそんな願いを口に出せば驚いたように目を丸くされた後に優しく頭を撫でられる
そして彼女は優しく微笑んでみせた後、小さく頷いた後で答えた
「うん、何処にも行かないよ」
その答えを聞いて安堵すると同時に胸の奥底から込み上げて来るものがあったが、それを悟られぬようにと彼女の肩に顔を埋める
「彰人、ありがとう。大好きだよ」
「オレも、愛してる…」
耳元で囁くように告げられた言葉にそう返すと、彼女は嬉しそうに笑ってくれたのが気配で分かった
それが嬉しくて堪らない気持ちになると同時に、目頭が熱くなっていくのを感じて唇を噛み締める
そんなオレの心情を察したかのように、彼女の手が優しく背中をさすってくれるものだから余計に涙腺が緩んでしまったようで、涙が頬を伝って落ちていったのがわかった
あぁ、今、オレは泣いてるんだな
そう自覚すれば後はもう止められなくて嗚咽混じりに泣き続けた
その間ずっと彼女は優しく背中を摩ってくれていて、それが余計に涙腺を刺激する要因になってしまっているようだ
「泣き虫さんだね」
なんて言われてしまうものの、反論する余裕もない程に泣いてしまっているためただ黙って俯くことしかできない自分が情けなかった
「私が悩んでたのにね、気づいたら逆になってた」
耳元からはくすくすと笑う声が聞こえるが、それに応える余裕なんてない
ただ黙って彼女の肩に顔を埋めたままでいると、優しく頭を撫でられた後にまたそっと抱き締められる
「ありがとう彰人、本当に」
そう言いながら優しく髪を撫でられるものだからまたじわりと目頭が熱くなって
それを誤魔化すように彼女の肩に額を押し付けた
「彰人、顔上げて」
言われるままに顔を上げれば彼女はそっと唇を重ねてくる
そしてそのまま暫くの間啄むようなキスを繰り返された後ゆっくりと離れていった
「やっぱり、泣いててもかっこいいんだね」
目を細めて笑う彼女に胸が締め付けられるような感覚を覚えつつ、それを悟られないようにと顔を背ける
「うるせぇ」
照れ隠しにぶっきらぼうな口調で返すものの、彼女は特に気にした様子もなかった
それどころかまた小さく笑ってみせるだけで
「あ、照れてる」
「…うっせぇ」
照れ隠しにもう一度そう言ってやればまたくすくすと笑う声が聞こえた
そしてそのままぎゅっと抱き寄せられて耳元で囁かれる
「ずっと隣に居るよ」
その言葉に答えるように抱き返してやれば彼女の温もりが更に強く感じられた
その感触だけで心が満たされていくのを感じて自然と笑みが溢れてくる
あぁ、本当に幸せだ
この時間が永遠に続けばいいと願う程には、きっとオレは彼女のことを愛してるんだろうと思う
だからもう少しだけこのままで居させてほしい
そう願いながら、もう一度強く彼女を抱き締めたのだった
いきなりミクからキスされるなんて思ってもみなかった
思わず「…え」と声を漏らすオレに、彰人のそんな顔初めて見たと楽しげにミクは笑っていて
「ね、どんな感じだった?」
「…わかんねーよそんなの」
「もしかして、照れてる?可愛い」
「あ゛ー!うっせぇ!」
揶揄うミクに半ばヤケになってそう叫ぶ
でもミクは変わらず楽しそうに笑ったままで
「ねぇ、もう一回していい?」
「…好きにしろ」
オレが頷くと、今度はゆっくりと唇が重ねられる
そしてミクは離れてまた満足そうに笑って、その笑顔は嬉しそうだった
「ふふ、嬉しいな。ちゃんとドキドキしてくれてるんだ」
「だから…あんま見んなって…」!
嬉しそうに笑うミクに目を逸らしながら呟く
気恥ずかしさについ顔が熱くなるのがわかった
そんなオレを見てか、ミクがまた顔を寄せてくる
「じゃあさ、もっと見ていいよね?」
「…好きにしろよ」
もうどうにでもなれと思って投げやりに答える
するとミクはくすくす笑ってもう一度オレの頬に手を当てて
「うん、好きにするね」
そう言って、オレの目を真っ直ぐ見た
その視線から逃れるように目を逸らす
けれどそれを許さないとばかりにミクの手が顔に当てられ、強引に視線を合わされた
「目逸らさないで、私の事だけ見ててよ」
じっと、こちらを見つめたままミクはそう言う
言われた通り目を逸らせずにいると、ふとミクの表情が変わった気がした
どこか真剣味を帯びたその表情に少し不安になる
何か怒らせるようなことしただろうかと考えているうちにミクが口を開く
「まだ好きで居てくれるんだね、私のこと」
今更、何を言うんだと思った
当たり前だろと返してやれば幸せそうに微笑んでくれるけど、どうにも釈然としないというかなんというか
そもそもオレは怒ってないし不満もない
ただちょっと気になっただけだ
どうしてそんな当たり前のことを聞くのかと
しかしそんなことをわざわざ聞く必要があるのか
、今の会話にはまるで脈絡がなかったように思える
それが何となく気に食わない気がして眉を顰めると、それに気付いたらしい彼女に慌てて謝罪された
違うんだよ、そんな顔をさせたいわけじゃないんだと言いたげに首を横に振る彼女の意図が読めないまま見つめ返す
一体なんだというのか
言葉を待つ間、沈黙が流れる
やがて観念したように彼女が小さく息を吐き出す音が聞こえたかと思えば、不意に視線が合った
その瞳の奥に揺らめく感情は一体何なのか、読み取ることが出来ないほどに複雑そうな色をしているように思う
「彰人が好きな私でありたいって思ってても本当は自信がなくて…だけどやっぱり諦められそうになくて…」
彼女はそこで一度言葉を区切ると悲しげに微笑んだ後目を伏せた
その様子からはいつもの明るさが全く感じられない
初めて見るその姿に戸惑いを覚えながらも黙って耳を傾けることしかできない自分が歯痒かった
何か言ってやりたいと思うものの、気の利いた台詞なんて思いつかないし、無理に慰めたって意味がないことは分かっているつもりだ
だからこそ余計に何も言えなくなってしまって口を噤むしかなかった
そんな自分の無力さに嫌気が差してしまう
ただ彼女が、そんな風に思い悩んでいるという事実だけが理解できただけ良かったとすら思える
「…はは、ごめん変な話しちゃって、気にしないで」
何でもないことのようにへらりと笑い飛ばしてみせるその姿にはやはり覇気がないように見える
そしてまた口を閉じて俯いてしまう
その様子はまるで泣いているようでもあって、何を言えばいいのかわからず押し黙ることしかできなかった
いつもの強気な態度が鳴りを潜めていることにも不安を覚えてしまう
何もしてあげられないのかと無力感に苛まれるばかりだ
「ごめんね」
ぽつりと呟かれた言葉
何に対して謝られているのかわからず困惑する
しかし彼女はそれ以上何も言おうとしなかった
ただ静かに微笑んでいるだけで、それが余計にこちらの焦燥感を煽る
何か言わなければと思うのに何も言葉が出てこない
そんな自分が情けなくて仕方なかった
「…彰人はさ、優しいよね」
不意に彼女が口を開く
その声色は穏やかでどこか寂しげに聞こえた
そしてまた沈黙が訪れるが今度は先程のように長くはない
ほんの数秒程の短いものだった
「でも私はその優しさに甘えたくないんだ」
言うと同時に抱きつかれる
驚いて硬直するオレを余所に彼女は言葉を続けた
それはまるで独り言のような響きを持っていて、だけどオレはその一言一句を聞き逃すまいと耳を澄ましてしまう
それがどんな内容であろうと聞き逃してはいけない気がしたからかもしれない
「だから…だから…っ、ごめん」
絞り出すような謝罪の声と共に背中に回された腕に力が込められるのを感じた
まるで離さないとでも言っているかのようだ
それに応えるようにそっと彼女の背に手を回せばびくりと肩が跳ね上がるのがわかった
それでも構わずに抱き締め返せば、やがて安心したかのように身体の力が抜けていく
「ごめんね」
「謝んなって」
「でも…」
「…いいから、もう黙れよ」
無力さに唇を噛みながら、それでもこの手を離すまいとして強く抱き締める
すると彼女は大人しく身を委ねてくれた
「ありがとう、彰人」
「別に礼なんていらねぇ」
ぶっきらぼうに返せばくすくすと笑われる
それが気に食わなくて腕の力を強めれば苦しいよと言いながらも嬉しそうだった
そんな様子に呆れながらもどこか安堵している自分に気付いて苦笑する
やっぱり彼女には笑っていてほしいと思うし、それが自分の隣ならなお良いとまで思えるから重症かもしれない
こんなにも好きなんだと思い知らされてしまって何だか悔しい気分になる
でも悪い気分ではなかった
「好きだよ、彰人」
「…おう」
耳元で囁くような甘い声に小さく返事をする
その一言だけで幸せになれるのだから不思議だと思う
きっとそれは相手が彼女だからだろう
「ねぇ、キスしてもいい?」
「…聞くなよ」
照れ隠しにぶっきらぼうに答えながらも、今度はオレの方から唇を重ねた
触れるだけの優しい口付け
それでも十分に満たされるものがある
「ふふ…可愛いね」
「…うっせ」
相変わらず揶揄ってくる彼女にぶっきらぼうな言葉を返す
それでも彼女は楽しそうに笑っていた
そんなやり取りをしつつも、彼女を抱き寄せる腕の力を緩めることはしない
どうせこれからも一緒に居るつもりだし、離れる必要もないだろうと思うから
だから今はただこうやって抱き締め合っていればそれでいいと思った
彼女の体温を感じていられるだけで十分すぎる程に幸せだ
「ねぇ、好きだよ」
「知ってる」
何度言われたって足りないくらいには、きっとオレだって彼女のことが好きなんだろう
だから何度だって言うし何度でも聞きたいと思うのだ
「愛してる」
「…オレも」
真っ直ぐに見つめられる視線に耐えられず僅かに目を逸らす
それでも照れ隠しだということくらいお見通しなのだろう、小さく笑う声が耳に届いた
それにもまた恥ずかしさを覚えずにはいられないけれど、それよりも彼女の笑顔が見れることの方が嬉しかったりするんだから相当だと思う
「ねぇ、彰人は言ってくれないの?」
「…言わなくてもわかってんだろうが」
拗ねたような口調で言えば、また楽しそうに笑う声
そして耳元に顔を寄せられる感覚にぞくりとする
その直後に甘く囁くような声が鼓膜を揺らした
「言葉にしてくれないと分からないこともあるんだよ」
「……」
顔を見ずとも分かるほどに彼女の声色には期待が込められている
それが分かるからこそ余計に恥ずかしかった
だがここで言わないわけにもいかないだろうと覚悟を決めて口を開くことにする
「…愛してる」
自分でもわかる程にぶっきらぼうな口調になってしまったが、それでも彼女は満足してくれたらしい
「嬉しい」と心底嬉しそうな声音で言われてしまえば恥ずかしさよりも愛おしさが勝ってしまった
我ながら現金だと思うものの、それも仕方ないと思うことにする
それだけ好きなのだ、彼女のことを
そっと視線を上げてみれば想像通り幸せそうな笑顔を見せられていて、胸が締め付けられるような感覚を覚えた
その表情が何よりも好きなんだと再認識させられてしまった気分だ
「ありがとう、彰人」
また礼を言って彼女は軽く触れるだけのキスをする
それからゆっくりと目を合わせられるが視線が離せなくなる程の射抜くような瞳に見つめられて息を呑んだ
何もかも見透かすような視線なのに不思議と嫌な気はしないのだ
むしろ全てを曝け出したいとすら思わされる
それくらい真っ直ぐに向けられる瞳は真剣で思わず息を飲む程だった
そのまましばし見つめ合っていれば、不意に彼女の手が頬へと伸びてきた
それを黙って受け入れれば指先で優しく輪郭をなぞるように撫でられる
「彰人は可愛いね」
「うっせ」
反射的に悪態を吐くもののそれすらも愛おしいと言わんばかりの表情で見つめられては何も言えなくなる
結局何も言い返せないまま黙っていれば、また小さく笑われた後に今度はゆっくりと唇を重ねられた
触れるだけの優しい口付けだったが、それだけで十分すぎる程に満たされていくのを感じることができる
「ふふ、可愛い」
「…だからそれやめろ」
揶揄うような口調で言う彼女に対してぶっきらぼうに返せば、それでも彼女は楽しげに笑うだけだった
そんな彼女を見ていると自然とこちらも笑みが溢れてしまうのだから不思議なもので
彼女という存在の大きさを改めて実感させられたような気がして苦笑しつつ彼女を強く抱き締めると、また「苦しいってば」という抗議の声と共に背中を叩かれて笑われた
でも今だけはその痛みすらも愛おしいと思うから不思議だ
「…どこにも行かないでくれ」
思わずそんな願いを口に出せば驚いたように目を丸くされた後に優しく頭を撫でられる
そして彼女は優しく微笑んでみせた後、小さく頷いた後で答えた
「うん、何処にも行かないよ」
その答えを聞いて安堵すると同時に胸の奥底から込み上げて来るものがあったが、それを悟られぬようにと彼女の肩に顔を埋める
「彰人、ありがとう。大好きだよ」
「オレも、愛してる…」
耳元で囁くように告げられた言葉にそう返すと、彼女は嬉しそうに笑ってくれたのが気配で分かった
それが嬉しくて堪らない気持ちになると同時に、目頭が熱くなっていくのを感じて唇を噛み締める
そんなオレの心情を察したかのように、彼女の手が優しく背中をさすってくれるものだから余計に涙腺が緩んでしまったようで、涙が頬を伝って落ちていったのがわかった
あぁ、今、オレは泣いてるんだな
そう自覚すれば後はもう止められなくて嗚咽混じりに泣き続けた
その間ずっと彼女は優しく背中を摩ってくれていて、それが余計に涙腺を刺激する要因になってしまっているようだ
「泣き虫さんだね」
なんて言われてしまうものの、反論する余裕もない程に泣いてしまっているためただ黙って俯くことしかできない自分が情けなかった
「私が悩んでたのにね、気づいたら逆になってた」
耳元からはくすくすと笑う声が聞こえるが、それに応える余裕なんてない
ただ黙って彼女の肩に顔を埋めたままでいると、優しく頭を撫でられた後にまたそっと抱き締められる
「ありがとう彰人、本当に」
そう言いながら優しく髪を撫でられるものだからまたじわりと目頭が熱くなって
それを誤魔化すように彼女の肩に額を押し付けた
「彰人、顔上げて」
言われるままに顔を上げれば彼女はそっと唇を重ねてくる
そしてそのまま暫くの間啄むようなキスを繰り返された後ゆっくりと離れていった
「やっぱり、泣いててもかっこいいんだね」
目を細めて笑う彼女に胸が締め付けられるような感覚を覚えつつ、それを悟られないようにと顔を背ける
「うるせぇ」
照れ隠しにぶっきらぼうな口調で返すものの、彼女は特に気にした様子もなかった
それどころかまた小さく笑ってみせるだけで
「あ、照れてる」
「…うっせぇ」
照れ隠しにもう一度そう言ってやればまたくすくすと笑う声が聞こえた
そしてそのままぎゅっと抱き寄せられて耳元で囁かれる
「ずっと隣に居るよ」
その言葉に答えるように抱き返してやれば彼女の温もりが更に強く感じられた
その感触だけで心が満たされていくのを感じて自然と笑みが溢れてくる
あぁ、本当に幸せだ
この時間が永遠に続けばいいと願う程には、きっとオレは彼女のことを愛してるんだろうと思う
だからもう少しだけこのままで居させてほしい
そう願いながら、もう一度強く彼女を抱き締めたのだった
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