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爪の先まであなたへの愛で

自分の悲しみは知られたくないけど、彰人が悲しい時はそばにいたいと思う
「ミクが好きだ」と言われた時の苦しそうな顔が忘れられなくて、だから少しでもその苦しみを和らげることができればいいと思う
好きだと言ってくれて、大事にしてくれる彰人の想いに応えたい
でも、私がそれに応える資格があるのかも分からない
だって私には何もない
彰人がくれる想いに返せるものを、私は何も持っていない
だから、彰人の想いに応えられる自信がなくて
でも彰人はそんな私の不安を見抜いているかのように優しくしてくれるから
私はそれに甘えてばかりでそれが本当にいいのか分からなくて


「はぁ…」
思わずため息が出る
すると、後ろから突然声をかけられる

「ミク?」
「ひゃっ!?…って、彰人?」
「どうした?なんかあったか」

彰人は心配そうに私を見ている
私は慌てて首を振る

「ごめん、なんでもな…わっ!?」

すると突然、彰人に抱きしめられる
私は驚いて固まる
「あ、彰人!?」
「…ミクはさ、一人で抱える癖あるよな」
「え?」
「辛い時は、ちゃんと言ってくれ。お前が一人で抱え込んでるの見るの嫌だから」
「彰人…」

彰人の優しさに、胸がきゅっとなる
こうして優しくしてくれるから側に居たいと思ってしまう

「ありがとう、彰人。大丈夫、私は大丈夫だよ」

そう言って彰人に微笑みかけるが、彰人はまだ不安そうな顔をしている

「なんでいつも大丈夫なんて嘘つくんだよ」
「え?」
「大丈夫って言いながらなんでため息ついてんだ?」
「そ、それは…」

彰人は私をまっすぐ見つめる
その視線に耐えられず思わず目を逸らしてしまう
すると突然彰人が私の頬に手を添える
驚いて顔を上げると目の前には真剣な表情をした彰人の顔があった
その距離の近さに心臓が跳ねる

「あ、あきと…?」
「そういう性格だから仕方がないのは分かってる。でもオレはお前の本当の気持ちを知りたいんだよ」
「彰人…」

思わず言葉に詰まる
すると、彰人が私の頬から手を離した
そしてそのまま優しく抱きしめられる
突然の行動に頭が追いつかない

「あ、彰人……?」
「オレはさ、お前が本当に辛い時に側にいてやりたいんだ」
「え?」
「お前が一人で抱え込んで苦しんでる時、何もできない自分が悔しいんだよ。だからせめて側にいてやりたい」

彰人の言葉に胸が熱くなる
こんなにも想ってくれているなんて思わなかったから

「…でも、私は彰人に何も返せない」
「見返りなんて求めてねぇよ。少なからずお前もオレにとってはもう仲間だし、それに…」

彰人は私の耳元で囁く

「好きな奴の力になりたいって思うのは当たり前だろ」

そう言って微笑む彰人に胸が締め付けられるような感覚を覚える

「彰人…私、」
「ん?」
「…私だって彰人の力になりたいのに、出来ることは限られていて…それが、もどかしいって、思う。役目を果たせているのかも自分ではわからないから…」

私は彰人に自分の想いを打ち明ける
すると彰人は驚いたような顔をした後

「役目ってそんなに大事か?」

と聞いてきた

「え…?」
「もしかして、オレがしばらく来れなかったのを自分のせいにしてないか?」
「っ…!」

図星を突かれて思わず黙ってしまうそんな私を見て彰人はため息をついた後、また私を抱きしめる腕に力を込めた
私はそのまま彰人の腕の中に収まる形になる
そして、ゆっくりと口を開いた

「だって…彰人には憧れの人がすぐ近くに居るのもあって私は、もしかしたら必要がないのかもしれないって」
「はぁ?そんなわけねぇだろ。オレはお前だから好きになったんだ」
「え…?」

突然の告白に頭が真っ白になる
彰人はそんな私を見て、少し照れくさそうにしながら話を続けた

「ミクの歌声が綺麗だったから、ずっと聴いていたくて…色んな歌を歌いこなせるお前が凄いと思ったから。ボーカロイドだから当たり前だと言われたらそれまでだけど、でもオレはミクの歌声に惹かれたんだ」

彰人は真っ直ぐ私を見つめながら言う
その目は真剣で、嘘偽りのない言葉だと分かる

「だからオレは、ミクの歌声が好きだ」
「…っ」
「それに、ミクはオレのこと支えてくれてる。それだけでも十分すぎるくらい助かってるのにオレのわがまままで聞いてくれる。これ以上望んだらバチが当たるっての」
「彰人…」

私は思わず泣きそうになる
そんな私を見て彰人は小さく笑った後、私の目元に優しく触れる

「…お前の凛々しい瞳が、好きだ」
「え……?」
「強い意思を持ってるその瞳にオレは何度も助けられた。それに、お前の笑顔は可愛いと思うし、たまに見せる照れてる顔も好きだ。だから、そんなお前の隣に居たいって思うんだ」
「っ…!」

彰人の言葉に顔が熱くなる

「あ、あきと…恥ずかしいよ」
「…悪い。でもこれは本心だ。オレはミクの全部が好きだ」
「っ…!」
「だから、オレの側にいてくれないか?これからもずっと」
「あ…あきと…」
「返事はいつでもいい。でももしお前がオレと同じ気持ちなら……考えて欲しい」

そう言って彰人は優しく微笑んだ
私はそんな彰人を見て胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚える

「わ…私…」
「ん?」
「これからもキミの歌を、隣で聴いていたい、成長を見届けたい…出来るならずっとキミの隣に立っていたい」

私の言葉に彰人は目を見開く
私はハッとして慌てて口を押さえた

「ご、ごめん…余計なこと…」
「…そのくらい一緒に居たいって言われたら応えるしかねぇよな?」

そう言って彰人は私の体を離すと私の腕を掴む
そしてそのまま引っ張られるようにして歩き出す

「わっ!?」
「今日この後予定ないだろ?ちょっと付き合え」
「えっ、あきと…!?」

彰人はそのまま返事も聞かずに歩き出す
私は手を引かれながら必死に後をついて行った
道中、これから何が起きるのかわからないことに緊張して不安なままになっていた
しかし不思議と抵抗しようという気持ちは湧かなかった
むしろ、彰人に引っ張られるまま着いて行くのが心地よかった

「着いたぞ」
「ここは…」

彰人に連れて来られた場所は初めて彼と愛し合った
場所だった

「ここなら邪魔も入らないし、ゆっくり出来るだろ?」
「あ、あの…彰人、今日は…」

私の言葉を遮り彰人が口を開く

「なぁミク。どうしてオレがここまですると思う?ただ単にお前が仲間だからって理由でここまで出来ると思うか?」
「えっ…?」
「お前だからだよ。お前だから、オレはここまでしてやりたくなるんだ」

彰人はそう言うと優しく微笑んだ
その笑顔に胸が高鳴る

「…でも私の役目は私じゃなくとも冬弥や杏やこはねでも務まるし、それに彰人の周りには知識を持っている人たちがいて私の役目は無いに等しい。だから私が居なくても大丈夫なはずなのに、どうして」

私は思わず呟くように問い掛ける
すると彰人は少し困ったように眉を下げた

「…オレがお前を必要としてるから、じゃダメか?」
「え…?」

思わぬ言葉に思わず目を見開く

「そりゃ確かにオレの周りは恵まれてると思う。知識も経験もあるやつらばかりで、オレには勿体無いくらい大事な仲間だ」

彰人の言葉に胸が痛む
やっぱり私じゃダメなんだ
そう思い俯いていると彰人が言葉を続けた

「でも、オレはお前と…ミクと一緒に歌うのが好きだしお前の歌声も好きだ。だからオレからお前への想いが無くなることはない」
「…!」

彰人の言葉に思わず顔を上げる彼は真っ直ぐに私を見つめていた
その瞳は真剣そのもので、嘘偽りのない言葉だとわかる

「オレはお前も大事な存在だと思ってる。たとえ人間じゃなくても、オレにとってはあいつらと同じくらい大事な存在なんだ」
「っ…」

その言葉に胸が苦しくなる
なんでそこまで想ってくれるのだろう
なんでそこまで大切にしてくれるんだろう
私は何も出来ないのに
どうして
そんな疑問ばかりが浮かんでくる
でも、その答えを聞くのは怖くて聞けなかった

「…ミクは、オレじゃ不満か?」
「え…?」

彰人の思わぬ言葉に目を見開く
彼はどこか不安そうな顔をしていた私は慌てて首を横に振る
すると彰人は安心したようにほっと息を吐いた後微笑んだ

「そっか。なら良かった」

そう言って彼は私を抱き寄せるとぽんぽんと背中を叩いてくれた
その温かさに涙が出そうになる

「お前は何もしてやれないって言ったけど…オレはお前にたくさん救われてるよ」
「なんで…?」
「だって、お前の歌でオレは上を目指そうと思えたし、お前と同じ土俵に立って歌えたらどれだけ楽しいだろうって思えたんだ。だからお前は何もしてないわけじゃない。むしろ、オレはお前に感謝してる」

彰人の言葉に胸が熱くなる
「だから気にすんな。役目とかそんなんに囚われなくていいから、お前はお前のままでいてくれよ」

彰人の言葉一つ一つが心に染み渡る
あぁ、やっぱり私はこの人のことが好きなんだと実感する
この人が喜ぶ顔をもっと見たい
この人が歌う姿がもっと見たい
この人の心から溢れる幸せを感じられる時に一緒に笑っていたい
その瞬間私は気付いてしまった
彰人のいない時がずっと寂しかったことも、今も彰人を求めていることも

「彰人はさ、お人好しだよね」
「なんだよ急に」
「普通はこんなことしないよ。ましてや相手が人間じゃない存在ならなおさら」

私は自嘲気味に笑う
すると彰人は呆れたようにため息をつく

「別に、理由なんてなんでもいいだろ。とにかくオレはお前を手放したくないって思っただけだ」

彰人はそう言って私に顔を近づけると唇を重ねてきた
いきなりのことで驚くが、すぐに受け入れるように目を閉じる
しばらくして唇が離れると、

「オレはお前が違う男と一緒にいるところを見るだけで気が狂いそうなくらい嫉妬するんだぞ。それくらい惚れてるんだ。いい加減自覚しろ」

と言われてしまった
それを聞いて頬が熱くなるのを感じた
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったからだ
「ふふっ、彰人ってば意外と独占欲が強いんだね」

恥ずかしさを隠すために冗談めかして言うと、彰人はムッとする
どうやら怒らせてしまったようだ

「そうだよ。オレはお前のことになると余裕なくなるし束縛したくもなる。こんな気持ちになるのは初めてなんだから仕方ないだろ」

拗ねたように言う彼が可愛くてつい笑みが溢れてしまう

「じゃあ、責任取らないとだね」
「何をするつもりだよ」

彰人の問いに答える代わりに彼に向かって両手を広げる
それを見た彰人は一瞬戸惑ったような表情を見せたあと、そっと抱きしめてきた
彼の温もりを感じて安心すると同時に愛おしさが湧いてくる

(好き、だなぁ)
そう思った瞬間ぎゅっと抱きしめ返したくなったので実行することにした
さっきよりも強く抱きつき首元に顔を埋めるように擦り付ける
すると彰人の身体がぴくりと震えた気がした
不思議に思って顔を見ると耳まで真っ赤に染めていた
その表情はまるで生娘のような初々しさを感じさせるもので、不覚にもときめいてしまった
普段はかっこいいくせに、こういう時だけ可愛げを見せるのだからずるい人だと思いながら、温もりを噛み締めて目を閉じたのだった
その後お互い何も言わずに抱き合っていたが、不意に沈黙を破るようにして声を発したのは彼の方だった

「あのさ、お願いがあるんだけどいいか?」

彰人の声は緊張しているようだった
何かあったのだろうかと思い首を傾げたものの続きを促すことにした
どんな内容なのかはわからないが聞くだけならタダなので素直に頷くと彰人は、一度深呼吸をした後真剣な表情になってこちらを見た。どうしたのだろうと見つめ返すと意を決したように話し始めた

「まだ時間があるなら1曲歌ってくれないか?」

思いがけない申し出に目をぱちくりさせていると彰人は慌てて弁解し始めた

「いや、無理にとは言ねぇけど、久しぶりに聴きたくなったというかなんというか…」

歯切れの悪い物言いだったが言いたいことはよくわかったため特に問題はないと判断した
そもそも断る理由もないので了承の意味を込めてこくりと頷く
それを確認した彰人の表情がぱっと明るくなり、嬉しそうな表情を浮かべたかと思うと、今度は照れ臭そうな顔をするという器用なことをしていた
見ていて飽きないなと思いつつ準備をするべく立ち上がる
あ、あ、と発声練習をして喉の状態を確認する
うん、大丈夫だと判断してから目を閉じて集中する
意識を音に乗せて声を紡いでいく
彼を想いながら歌い続けるうちに段々と心が軽くなっていくような気がした
最後のフレーズを歌い終える頃には晴れやかな気分になっていた
ふぅっと息を吐くとパチパチという音が聞こえてきた
音の出所を探すと彰人が拍手をしている姿が目に入った
その姿を見た瞬間なんだか嬉しくなって自然と笑みが浮かぶのがわかった
彰人の方を向くと彼もまた嬉しそうに微笑んでいた

「やっぱいいな、お前の歌声は。ずっと聞いていられる」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」

素直に感謝の気持ちを伝える
すると彰人は照れたように頬をかいた後、少し躊躇う素振りを見せた後口を開いた

「…オレはまだお前のようにはなれねぇけど、少しずつでもお前に追いつきたいし、追い越したいと思ってる」

彰人は真っ直ぐに私を見つめたまま続ける
その瞳からは強い意志のようなものを感じ取れた

「だからこれからもオレたちを支えてくれないか」

そう言って手を差し出してくる彰人に一瞬面食らうも、すぐに笑顔になりその手を取った

「もちろんだよ、彰人」

私がそう答えると彼もまた嬉しそうに笑ってくれた
その笑顔を見ると胸が温かくなり幸せな気持ちになれる

「…ありがとう」

ぽつりと呟くように言ったその言葉は小さくて誰の耳にも届かなかったと思うけど、それでも私は満足していた
だってその言葉は紛れもない本心だから
だから何度でも言うよ
ありがとう、彰人
大丈夫だよ、キミならきっとできると信じているから
頑張ってね、私の大切な人
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