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カミサマ、この恋を

隣にいたミクが顔をじっと見つめてくるのでどうかしたのか聞くと

「彰人は瞳が綺麗だよね」

とさらに食い入るように見つめられた
ミクの顔があまりにも近くてドキッとする

「…ミクのが綺麗だと思うけど」
「え?」
「いや、なんでもねえ」

思わず口をついて出た言葉を慌てて誤魔化して、視線を落とす
ミクの目を見ていたらなんだか恥ずかしくなったのだ

「どうしたの。また何かあった?」

ミクは目をくりくりとさせながら心配そうな表情で覗き込んできた
こういう仕草がいちいち可愛くて、ついドキッとしてしまう

「別に何もねえよ」
「そう?ならいいけど…」

ミクは何か言いたげな表情をしていたが、それ以上追及してこなかった
無理に聞き出そうとしてこないのは、ありがたいような少し寂しいような

「もしかして、また何か悩んでるの?」
「いや、そういうわけじゃねえんだけど」
「本当に?私には何でも相談していいんだよ?」
「…別に、悩みとかそういうもんでもなくて」
「じゃあ何なの?」

そう問われて、思わず口ごもる
さすがに

「お前のこと考えてたんだよ」

などと口に出す勇気はなかった
そんな台詞は柄じゃないし、言って引かれたら普通にショックを受けそうだし

「ちょっとボーッとしてただけだ」
「…そっか」

ミクは納得してくれたのか、それ以上は何も言わなかった

「あ」
「どうしたの?」
「いや、なんでもねえ」

ふと、ある考えが頭をよぎる

「ミク」
「何?」
「…ちょっと目閉じろ」
「え?う、うん…」

ミクが目をぎゅっと閉じる
オレはその隙に、まじまじとミクの顔を眺める
長いまつ毛、整った鼻筋、柔らかそうな唇
自然と顔が近づいていく
唇と唇が触れ合うまで、あと数センチ

「…彰人…?」

ミクの不安そうな声にハッとして慌てて体を離す

「ご、ごめん」
「う、うん…大丈夫だけど…」

自分の行動を省みて一気に頰が熱くなる
何やってんだオレ
あー、くそ、恥ずかしすぎて死にそう


「そんなに私の顔見てたの?」
「…悪ぃか」

恥ずかしさから少しぶっきらぼうな言い方になる
ミクは

「別にいいけど…」

と言いつつ、どこか嬉しそうにしていた

「ねえ、彰人」
「ん?」
「じゃあ、さっきの続きしよっか」

そう言うと、ミクは目を閉じた
それって…そういうことだよな?
オレは覚悟を決めて再度顔を近づけた
心臓の音がうるさいほどに鳴っているのが分かる
そしてオレたちの唇はようやく触れ合った
別にミクとこうするのは初めてでは無いし、何度もしているのに何故か今日はいつもよりドキドキした

「…ねえ」
「なんだ?」

ミクは目を閉じたまま呟くように言った
その声色にはどこか切なさが含まれているように感じた

「私のこと好き…?」
「当たり前だろ」

即答する
ミクは嬉しそうに微笑むと、さらに続けた

「私も好きだよ。好きでたまらないんだ」

それは普段から言われ慣れていたはずの言葉なのに、何故か妙に切なさを覚えた
同時に、胸が締め付けられるような痛みを覚える

「…なんかあったのか?」
「え?なんで?」

ミクはきょとんとした表情で聞き返してきた
その反応を見て、オレは自分の考えすぎだと悟った

「…なんでもねえよ」

そう言って誤魔化したが、ミクは納得していない様子だった
そしてそのまましばらく黙っていたが、不意に口を開いた

「ねえ、彰人」
「ん?」
「…私、ずっとここで歌っていたいな」

その一言に込められた想いは計り知れなかった
オレはミクの手を握り、そっと引き寄せた
そのまま抱きしめると、彼女はオレの胸に顔を埋めてきた
そして小さな声で呟いたのだ

「…どこにも行かないでね」

それは彼女にとって紛れもない本心だとわかった

「ああ」

オレはそれだけ言って、ミクの頭を優しく撫でた

「…ねえ、彰人」
「ん?」
「…ううん。なんでもない」

そう言って笑うミクの表情はどこか悲しげだった
どうしてそんな顔をしたのかわからない
だけど、なぜか胸騒ぎが止まらなかった



次の日、オレは学校が終わってすぐにセカイへ向かった
理由なんて特にない
ただなんとなくミクに会いたくて仕方がなかったのだ

「あ」

セカイには既にミクの姿があった
昨日の胸騒ぎは杞憂だったのだろうか、そう思った矢先だった

「おはよう、彰人」

そう言って笑うミクの顔はどこかぎこちない感じがしたのだ
まるで何かを隠すような笑顔だと感じたのは気のせいだろうか?

「…おう」

オレは平静を装って返事をする
そしてそのまま彼女の隣に腰掛けた
しかし、会話は一向に続かない
ミクも何か言いたげにしているが、なかなか口を開こうとしなかった

「…なんかあったか?」

そんな沈黙に耐えかねたのか、先に口を開いたのはオレだった
すると彼女は少し驚いたような顔をした後、小さく首を横に振った

「別に何もないよ」

嘘だとすぐにわかったが、それ以上追及することはできなかった

「ならいいんだけどよ」

オレはそれだけ言うと再び黙り込んだ
しかし、やはりどこか居心地が悪い感じは否めなかった
そんなオレの様子を見兼ねたのか、ミクが口を開いたのだ

「ねえ」
「ん?」
「好きだよ」

その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた
今すぐ抱きしめてやりたい衝動に駆られるが、ぐっと堪える
すると今度はミクの方から近づいてきてオレの首に腕を回してきたのだ
突然のことに動揺したが、どうにか平静を装って口を開く

「…珍しいな」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃねえけど」

むしろ嬉しいくらいだ
だがそれを口に出すのはなんだか恥ずかしくて、ついぶっきらぼうな言い方になってしまう
しかしミクは特に気にする様子はなく、そのままオレの耳元に顔を寄せてきた
そして囁くようにこう続けたのだ

「好きだよ、ごめんね」
「は?」

なんで謝るんだよ、そう言いたかったが言葉が出なかった
ミクはオレの反応などお構いなしに続ける

「ありがとう」

そして最後に、こう言って笑った
その笑顔を見た瞬間、オレの心臓は大きく跳ね上がったのだ
それは今までに見たことがないくらい綺麗な笑顔だった

「ミク…?」

思わず名前を呼ぶが返事はない
彼女はただ微笑んでいるだけだった
その微笑みには寂しさと諦めが入り混じっているような印象を受けた

「おい、ミク!」

思わず肩を掴むと彼女はハッとした表情を見せた後、申し訳なさそうに目を伏せた
そしてゆっくりと口を開いたのだ

「ごめんね」

もう一度、先ほどと同じ言葉を繰り返す
何に対する謝罪なのか問おうとした時、彼女は静かに首を横に振った

「なんでもない」

そう言って笑う彼女の笑顔はどこか痛々しく見えたのだ
思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、どうにか堪える
そして代わりに彼女の手を取った

「…どうしたの?」

ミクは不思議そうに首を傾げる
オレは何も言わずただ黙って彼女の手を握り続けた

彼女はしばらく戸惑った様子だったが、やがてオレの手を握り返してきたのだ
それが嬉しくてつい口元を緩めてしまうと、彼女は不思議そうな表情を浮かべた

「変なの」

そんなやり取りをしているうちに段々と緊張が解けてきたようだ
ミクの表情も柔らかくなりつつあった
しかし、それでもまだどこか不安げな様子に見えるのは気のせいではないだろう

「ねえ、彰人」
「なんだ?」
「私のこと好き?」

唐突にそんなことを聞かれて少し驚いたが、答えは考えるまでもない
むしろその逆なのだから
オレは迷わずこう答えたのだ

「当たり前だろ」

そう答えると彼女はホッとしたような表情を浮かべた後、嬉しそうに笑ったのだった
その笑顔を見た瞬間、胸が高鳴ったのは言うまでもない
しかしそれと同時に不安な気持ちも湧き上がってくる
一体彼女は何を思い悩んでいるのか、それを聞き出さなければと思った
だが、それを口にするより先に彼女が先に口を開いた

「彰人はさ、私とこういう関係になってから、何か変わった?」

そう尋ねるミクの声はやけに真剣味を帯びている気がした

「…どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ」
「そのままの意味って…」

意味が分からず困惑していると、彼女はさらに続けた

「きっとこの先もずっと変わらないって言い切れる?」
「それは…」

思わず口ごもる
正直言って、その質問に対する答えは見つからなかったからだ
すると彼女は悲しげな表情を浮かべた後、ゆっくりと首を横に振った

「ごめんね」

それだけ言って黙ってしまう
一体どういう意味なのか気になったが、聞けるような雰囲気ではなかった
だからオレは黙ったまま彼女の言葉を待つことにしたのだ
すると少し間を置いてから再び口を開いた彼女の表情はどこか寂しそうだった

「…彰人の事を思うならこのままの関係では居られないと思う」
「え?」

その言葉を聞いた瞬間、胸がざわついたのを感じた嫌な予感が脳裏をよぎる
オレは慌ててミクの肩を掴んだ
すると彼女は驚いたように目を丸くしていたがすぐに困ったような笑みを浮かべたのだ

「大丈夫だよ」

そう言ってオレの手を取り優しく握りしめる
その笑顔はやはりどこか寂しげで、見ているだけで胸が締め付けられるような感覚が襲ってくる
だが、それでも聞かずにはいられなかった

「…なんで」
「…?」

ミクは不思議そうな表情を浮かべていた
オレは深呼吸をしてからもう一度口を開いたのだ
そしてこう尋ねたのである

「どうしてそんなことを言うのか、理由を教えてくれないか」

と すると彼女はしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた

「この先、彰人の人生に私は必要なのかな」
「は?」

思わず間抜けな声を出してしまう
一体何を言っているんだ?そんなオレの反応を見てか、ミクは悲しげに目を伏せるだけだった
その様子を見てますます訳がわからなくなったオレはつい声を荒げてしまう

「何言ってんだよ!お前が必要なのかって…そんなの決まってんじゃねえか!」

自分の声の大きさに驚いたが、それ以上にミクの方が驚いた顔をしていた
そしてそのまま俯いてしまったのだ
オレは慌てて謝ろうと口を開いたが、その前に彼女が先に口を開いたのだ

「ごめんね」

そう言ってまた笑うのだ
どうして謝るんだよ、謝らなきゃいけないことなのかよ
そんな想いばかりが頭の中を駆け巡っていた

「私の我儘に付き合ってくれてありがとう」
「…え?」

予想外の言葉に動揺してしまう
付き合ってくれてありがとう、だと?それはどういう意味なのか
まさか別れ話を切り出されるのか
そんな不安が胸中を埋め尽くす中、彼女はさらに続けた

「…別れるとかじゃないんだよ」

その言葉にほっと胸を撫で下ろす
だがそれと同時に疑問が生まれたのだ
では何故こんなことを言い出したのか、その理由が知りたかったのだ
するとミクはゆっくりと話し出した

「私さ、ずっと考えてたんだ」
「何をだよ?」

そう尋ねると彼女は一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐに口を開いた

「本当に私で良いのかって…もしかしたら他にもっと相応しい人がいるんじゃないかって」

その一言に衝撃を受けた
まさかそんなことを考えていたなんて思いもしなかったからだ
だがそれと同時に納得もできた
彼女が何を考え、何に悩んでいたのかをようやく理解できた気がしたのだ
しかし同時に怒りにも似た感情が湧いてきたのも事実だった
どうしてもっと早く言ってくれなかったのか
いや、違う
どうして気付いてあげられなかったのかと自分を責める気持ちが溢れ出してくる
そんな複雑な心境のまま黙り込んでいると、彼女は申し訳なさそうに俯いたまま話を続けた

「…こんな事言うつもりなんて無かったんだけど」
「…」
「やっぱりどうしても伝えたくて」

そう言って顔を上げた彼女の目からは一筋の涙が流れていた
それを見た瞬間、胸が締め付けられるように痛んだのだ
こんなにも、自分のことを想ってくれていただなんて思いもしなかったから
きっと彼女なりに色々と考えた上で出した答えなのであろうことは理解できたが、それでも納得できなかったのである
だからオレはこう言ったんだ

「…お前しかいねえよ、オレにとってミクは特別なんだ」

その言葉に嘘偽りはなかった
本当にミク以外の相手を恋愛感情として好きになるなんてことは考えられなかったから
オレにとってミクはかけがえのない存在だ
失いたくないと思うし、ずっと一緒に居たいと思う
それほどまでに大切な人なのだ
だからこそオレははっきりと告げたのである
自分にとってミクは特別な存在であることを
そしてこれからも変わらず傍に居て欲しいと思っていることを
すると彼女は驚いたように目を見開いていたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた

「私もだよ」

その言葉に胸が温かくなるのを感じた
ああ、良かった
彼女も同じ気持ちだったんだ
そう思うだけで安心できたし、何より嬉しかった
オレは思わず彼女の肩を抱き寄せると優しく抱きしめた
ミクは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべてオレの背中に腕を回してきたのである

「やっぱり、身体大きいね…それに安心する」
「ミクは小さいからな」
「彰人が大きいんだよ」

そんな他愛ない会話をしながらしばらくの間、互いの体温を感じていた
その時間がオレにとっては幸せで仕方なかった
やがてどちらからともなく身体を離すと、お互いに見つめ合った後、照れ臭さを隠すように笑い合った

「これからもよろしくな」
「うん」

そしてオレは彼女の手を優しく握りながら、ふと思った
もしかしたらミクはオレのことを気遣ってあんなことを言ったのかもしれないな
だとしたらそれはそれで嬉しいけれど、少しだけ寂しくもあった
だって、それって結局、自分自身の気持ちよりも相手のことを優先してるってことだから
でもそれはミクらしいと言えばそうなのかもしれない
彼女はいつも他人のことを第一に考えるような優しい性格をしているし、そんなところが魅力的だとも思う
でもだからこそ、もう少し自分のことを大切にして欲しいと思うのも事実だった
もっと我儘を言ってくれても良いし、もっと甘えてくれても良い
だってオレたちは恋人同士なんだから

「ミク」
「ん?」
「好きだ」
「うん」

そう言って微笑む彼女の笑顔を見ていると心が満たされるような気がした

「彰人」
「ん?」
「好き」
「おう」
「大好きだよ」
「…おう」
「照れてる?可愛いね」
「うっせ」

そう言って少し顔を赤くするオレを見てミクは楽しそうに笑った
その笑顔を見るだけで胸が熱くなるのを感じる
あぁ、もう本当にどうしようもないなと思う反面、やっぱり愛おしくて仕方ないんだよなとも思うのだ
きっとこれからもずっとこの想いは変わらないんだろうなと思いつつ、オレは彼女の手を強く握り返した

「ミク」
「ん?」
「ずっと傍にいろよ」
「うん」

ミクは微笑みながら頷いてくれた
その笑顔を見て、心の底から安心したのだ
ああ、これで良いんだと
そう思えたのである
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