ふたりきりだから

眠れない夜にミクに会いたくなって、セカイを訪れる
正直、自分がこんなに寂しがり屋だとは知らなかったと驚く

「彰人、どうしたの?」
「ちょっと眠れなくて」
「…じゃあ、一緒に寝る?」
「いいのか?」
「うん。おいで」

ミクに手を引かれてオレは部屋の中に誘われ、ベッドに一緒に横になったオレは、ミクを抱きしめた

「彰人」
「ん?」
「私はずっとここで彰人のこと待ってるから。いつでも来ていいよ」
「…ああ」

ミクの優しい声は、オレの不安を消し去ってくれる
いつだって受け入れてくれるミクに、オレは甘えてばかりだ

「彰人」
「なんだ?」
「珍しいよね。彰人が寝れないなんて」
「そうだな…なんとなく寝付けなくて」
「じゃあ、今日は私が彰人を寝かしつけてあげるね」
「なんだよそれ」
「いいから、目を閉じて」

言われた通りに目を閉じると、ミクの手が優しくオレの頭を撫でた

「彰人は偉いよ。いつも頑張ってて、それに周りをよく見てるし、歌声も力強くて好きだよ」
「別にそんなことねえよ。冬弥の方が周りをよく見てるし、こはねや杏の歌声もすげぇだろ」
「それでも彰人だって負けてないよ。それに、私は彰人の歌好きだよ」
「…そうかよ」

ミクに褒められるのは悪い気はしないが、少し照れくさいけど嬉しかった

「彰人はさ、もっと自分を認めていいと思うよ。私は彰人が頑張ってるの知ってるし、ちゃんと見てるから」
「ありがとな…ミク」
「うん。どういたしまして」

いつだってミクはオレの欲しい言葉をくれる
オレはきっと、ミクがいないとダメになる気がする それくらい、オレにとってのミクは大切な存在だ

「彰人、寝た?」
「…いや」
「まだ寝れないの?」
「…なあ、ミク」

オレはゆっくりと目を開けて、ミクを見つめた
すると、オレの顔を見たミクは少しだけ目を見開いたがすぐに微笑んだ

「どうしたの?彰人」
「…キスしていいか?」

そう聞くとミクは少し驚いたような表情をしたがすぐに微笑んで頷いた
オレはゆっくりと顔を近づけると、そのまま唇を重ねた

「んっ…」

軽く触れるだけのキスだったが、それだけでも十分だった
オレは唇を離すとミクを見つめた

「彰人…?」
「…わりぃ」
「どうして謝るの?」
「急にこんなことして」

ミクはオレの言葉にクスッと笑うと、オレの頬に手を添えた

「いいよ。私は彰人にされて嫌なことなんてないから」
「…そうかよ」
「それに、彰人がしたいなら私は拒まないよ」
「…お前な」
「ふふっ、彰人は優しいね」

ミクはそう言うとオレの頭を優しく撫でた
オレは恥ずかしくなって顔を背けようとするがそれは叶わなかった

「だめ。こっち向いて」
「っ…」
ミクの綺麗な瞳に見つめられると何も言えなくなる
オレは諦めて大人しくミクの顔を見ることにした

「可愛いね。彰人」
「…うるせえよ」
「照れてるの?」
「別に…」
「ふふ、そっか。彰人は可愛いね」

ミクはオレの頬に手を当てたまま、何度も可愛いと言ってくる
それが恥ずかしくて仕方がないのに、どこか心地良さを感じている自分がいた

「彰人」
「なんだよ」
「好きだよ。だからまた何かあったらおいでよ。私はいつでもここにいるから」
「…ああ、ありがとな」

オレはミクの言葉に小さく笑って答えた
すると、ミクも嬉しそうに微笑んだ

「そろそろ寝ないとね」
「そうだな…」
「寝れそう?それとも、まだ起きてる?」
「…寝れるとは思う」
「そっか、じゃあおやすみ」

ミクはそう言ってオレの頭を撫でた
オレはそのまま目を閉じるもやはりすぐには眠れず、ミクに声をかける

「…なあ、起きてるか?」
「起きてるよ」

オレが声をかけると返事が返ってきて安心した
ミクの顔を見て少し安心する
すると、オレの心を読んだかのようにミクが言う

「大丈夫だよ。私はここにいるから。それに、私はずっと彰人の隣にいるよ」
「ミク…」

ミクはもぞもぞと動いたと思ったらオレを抱きしめて言った

「安心するでしょ?」
「…まぁな」

ミクの温もりを感じていると少しずつ睡魔が襲ってくる
ウトウトし始めたオレの背中をゆっくり、優しく叩くので瞼が重くなっていく
その感覚にオレは身を任せることした
瞼を閉じるとすぐに意識が遠くなったが、完全に眠りに落ちる寸前

「おやすみ、彰人。寂しくなったり、辛くなったりしたら、またおいで」

そんな優しい声が、聞こえた気がして
それからすぐにオレの意識は消えていった
ふと目を覚ますと、そこはいつものセカイで隣に目を向ければミクが眠っていた
オレはミクの頬に手を当てると優しく撫でる
普段は凛々しい顔も、寝ている時は可愛さが勝る
伏せられている目は長いまつげで縁取られており、その瞼の下には綺麗な緑色をした瞳がある
肌も白く、まるで陶器のように美しい
そして、何よりその歌声がとても心に響く
オレはそんなミクにいつも救われている
だからこそ、このセカイはオレにとっては大切な場所なのだ

オレは眠っているミクの顔を眺めながら思った
早く目が覚めてほしいという思いと、こうしてずっと眠っていたいという気持ちが入り混じる
オレはミクの頬に手を当てると、その柔らかな感触を楽しみながら優しく撫でた
すると、ミクはくすぐったかったのか少しだけ身じろぎをしてゆっくりと瞼を開いた
その瞳にはオレが映っていて少し驚いたような表情を浮かべたがすぐに微笑んでくれた

「おはよう」

そう言って微笑む彼女にオレは微笑み返すとそのまま唇を重ねた
そして、軽く触れるだけのキスをすると名残惜しい気持ちを抑えて唇を離した

「彰人…?」

ミクは不思議そうにオレの名前を呼んだ
オレはそんなミクに微笑みかけるともう一度唇を重ねた
今度は先程よりも長く深い口づけを交わすと、ゆっくりと顔を離した

「いきなりどうしたの…?」

そう言って首を傾げるミクにオレは微笑んで答える

「別に?ただお前にキスしたかっただけだ」

そう答えれば、彼女は頬を赤く染めて俯いた
そして小さな声で呟くように言った

「…ばか」

そんな姿すら愛おしく思えるのだから不思議だ
オレはもう一度ミクを抱きしめると言った

「なあ、ミク」
「なに?」
「オレさ、やっぱりお前が好きだわ」

オレがそう言うとミクは驚いたような表情を浮かべた後に微笑んで言った

「私も好きだよ。彰人のこと」

そう言って笑う彼女の笑顔はとても綺麗だった
オレはそんなミクにもう一度キスをするとそのまま彼女を押し倒した
すると、彼女は少し恥ずかしそうにしながらも抵抗することなくオレを受け入れてくれた
オレはそんな彼女のことが堪らなく好きで仕方がなかった
だからもっと触れたいと思ったし、愛したいと思ったのだ

「朝から盛んだね。そんなにシたくなっちゃった?」
「うるせぇよ。別にいいだろ」

オレがぶっきらぼうに答えると、ミクはクスリと笑った後に言った

「でも彰人は学校でしょ?遅れてもいいの?」
「ぐっ…それは…」

確かにその通りだ
お預けを食らうのは辛いが、遅刻をするわけにもいかない
オレが悩んでいると、ミクはクスリと笑って言った

「また来なよ。私はいつでもここにいるから」
「ああ、そうだな。また来るよ」

オレはそう言うとミクに軽くキスをしてからセカイを後にした
そして学校へ行く支度を始めるのだった
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