紅葉狩り
*
出陣から戻って一息ついている浦島達に、陸奥守は指示の紙を手渡した。紙は馬小屋の手前から続きを作ってあり、屋内で完結するように直してある。
湯呑のお茶を飲み干して、宝探し部隊は再び賑やかに廊下を駆けた。夕飯時が近いこともあって、わくわくとした気分も自然と高まっていく。
庭に面して池に出られる和室の掛軸から新たな紙を見つけた一行は、さらに期待を膨らませて一直線に次の部屋へと向かった。
「こんばんは、おじゃましまーっす!」
「あ、鶴丸さん。遠征から戻られてたんですね」
浦島、鯰尾に続いて厚と後藤も部屋に入ってくる。
「なんだなんだ、もう最後まで辿りついたのか」
遠征から帰ってごろりとくつろいでいた鶴丸は、賑やかな訪問者に身を起こす。
「ということは、やっぱここがゴールってわけか!」
「なんだって?」
意図が汲めず、鶴丸が尋ねる。しかしそれにはさっぱり答えず、厚が押入れをスパンと開けた。がさがさと物色しては、ときどき物を外へと引っ張り出す。そうこうしているうちに、鯰尾がひとつの箱を見つけて引き寄せた。
「鶴印の箱だ、これは宝物の予感がしますね」
「中見れば分かるって。開けようぜ!」
後藤が箱の蓋に手を掛ける。
勢いづいては止まらない皆の行動を、鶴丸はあぐらをかいて呆然と眺めている。開けられた箱の中身に、わっと歓声が上がった。
「鶴丸さん、お菓子だ!」
浦島が鶴丸を振り返って、宝探しの答え合わせをするようにきらきらした目で報告した。
「あ? ああ、華やかだろ」
口をぽかんと開けていた鶴丸は我に帰り、慌てて胸を張ってみせる。
花束のようになっている飴を鯰尾が真っ先に取り出して、こんなの初めて見ました、と揺らしている。鶴丸はそれを見て一度は安心したが、箱を覗き込んでまた首を傾げた。
「飴に、焼き菓子に、お煎餅に……あ、厚見ろよ。これ、ひとつひとつ英語が書いてあるぜ」
「チョコレートだな。たまーに菓子盆に盛ってあるけど、すぐなくなっちまうやつだ」
後藤と厚がひとつひとつ、菓子を取り出してはこれは何かと確認をしている。
「ほんと、たっくさんありますね! いただいていいんですか?」
鯰尾が上機嫌に尋ねる。
「そりゃあ、宝は見つけた者のものさ。……しかし、たくさんだよなあ」
後の言葉は独り言にして、鶴丸はぽつりと呟く。そしてふと思い立ち、宝探しの達成者に手を差し出した。
「最後の紙は、俺がもらおう。宝探し達成の証としてな」
「はーい。じゃ、これ」
浦島が四つ折りにした指示の紙を鶴丸に渡す。鶴丸はそっと紙を開いて中を見る。そこには自分でも太鼓鐘でもない文字で『鶴丸国永の部屋の押入れ』と記されていた。
く、と鶴丸は小さな笑いを漏らした。事の経緯はさっぱり分からないが、誰かの作為をしかと感じたのだ。文字の向こうのやり取りを、あれこれと考えずにはいられない。
廊下をどたどたと走る音がして、太鼓鐘が部屋に滑りこもうとした入り口でぴたりと止まった。箱を囲む四人の様子に目を丸くして、部屋の奥の鶴丸を見やる。
何も言うな、と鶴丸は人差し指を口元にあてる。それで、了解した、と太鼓鐘は疑問を呑み込んだ。
「ようよう、賑やかだと思ったら。戦利品パーティってとこだな!」
太鼓鐘を迎え入れ、箱の周りに取り出された菓子が並ぶ。宝探しの企画者が揃ったところで、四人が口々に礼と感想を伝えた。
「宝探し、すっごくおもしろかった! 俺、兄ちゃん達に今日のこと教えてあげよっと」
「楽しかったですよね。お菓子もみんなに配れそうだ。鶴丸さん、太鼓鐘くん、ありがとうございます!」
にこにこと礼を言われ、鶴丸と太鼓鐘はひらひらと手を振る。
「そいつはよかった。次にやるときは、手伝ってくれるかい」
「隠す側か、やってみたいな!」
「オレたちも絶対誘ってくれよ、いい隠し場所、考えとくから」
早くも第二回の開催が期待されている。箱に入れる物も考えてくれよ、と太鼓鐘が付け加えた。
「さ、宝探しはめでたく終了だ。あとは戦利品報告に回ってくるといい」
鶴丸がそう促す。四人はそれぞれが菓子を抱えて、どれをどこに持って行こうかと相談し始めた。嬉しげな背中を見送って、鶴丸と太鼓鐘は顔を見合わせる。
「一体どういうことなんだ?」
「さてなあ。これが最後の紙だとよ」
太鼓鐘は渡された紙を表や裏にして観察する。そして俺も見せるものがあると、ポケットからひとつ、棒付きの赤い飴を取り出した。
「さっき通りがかった部屋でさ、床の間に生けてあったんだよ。これって俺達が用意した飴だろ? 部屋にいた鶯丸に尋ねたら、ひとつ持って行ってもいいとしか教えてくれないんだ。いつの間に宝探しが終わったんだ? と思って物入れを覗いても、箱も、人のいた形跡もないときた。そうしたらこっちの部屋から歓声がしたから来てみたら、入れた覚えのない菓子がごろごろしてるって有様だ」
びっくりしたなあ、と太鼓鐘が大げさに首を左右に傾げる。
「全くだ。箱は俺の部屋に移動し、中身もどっさり増えているとはなあ。驚かせてもらったぜ」
やられたなあ、と鶴丸がまんざらでもないふうに唸る。太鼓鐘もいっしょになって、おかしいよなあ、と笑った。
「この種明かしは、してもらえると思うかい?」
「今度は俺達が探し回る番か。いいねえ、どこから当たろうか」
退屈などはどこ吹く風で、二人の楽しげな話し声が廊下へと出て行った。
出陣から戻って一息ついている浦島達に、陸奥守は指示の紙を手渡した。紙は馬小屋の手前から続きを作ってあり、屋内で完結するように直してある。
湯呑のお茶を飲み干して、宝探し部隊は再び賑やかに廊下を駆けた。夕飯時が近いこともあって、わくわくとした気分も自然と高まっていく。
庭に面して池に出られる和室の掛軸から新たな紙を見つけた一行は、さらに期待を膨らませて一直線に次の部屋へと向かった。
「こんばんは、おじゃましまーっす!」
「あ、鶴丸さん。遠征から戻られてたんですね」
浦島、鯰尾に続いて厚と後藤も部屋に入ってくる。
「なんだなんだ、もう最後まで辿りついたのか」
遠征から帰ってごろりとくつろいでいた鶴丸は、賑やかな訪問者に身を起こす。
「ということは、やっぱここがゴールってわけか!」
「なんだって?」
意図が汲めず、鶴丸が尋ねる。しかしそれにはさっぱり答えず、厚が押入れをスパンと開けた。がさがさと物色しては、ときどき物を外へと引っ張り出す。そうこうしているうちに、鯰尾がひとつの箱を見つけて引き寄せた。
「鶴印の箱だ、これは宝物の予感がしますね」
「中見れば分かるって。開けようぜ!」
後藤が箱の蓋に手を掛ける。
勢いづいては止まらない皆の行動を、鶴丸はあぐらをかいて呆然と眺めている。開けられた箱の中身に、わっと歓声が上がった。
「鶴丸さん、お菓子だ!」
浦島が鶴丸を振り返って、宝探しの答え合わせをするようにきらきらした目で報告した。
「あ? ああ、華やかだろ」
口をぽかんと開けていた鶴丸は我に帰り、慌てて胸を張ってみせる。
花束のようになっている飴を鯰尾が真っ先に取り出して、こんなの初めて見ました、と揺らしている。鶴丸はそれを見て一度は安心したが、箱を覗き込んでまた首を傾げた。
「飴に、焼き菓子に、お煎餅に……あ、厚見ろよ。これ、ひとつひとつ英語が書いてあるぜ」
「チョコレートだな。たまーに菓子盆に盛ってあるけど、すぐなくなっちまうやつだ」
後藤と厚がひとつひとつ、菓子を取り出してはこれは何かと確認をしている。
「ほんと、たっくさんありますね! いただいていいんですか?」
鯰尾が上機嫌に尋ねる。
「そりゃあ、宝は見つけた者のものさ。……しかし、たくさんだよなあ」
後の言葉は独り言にして、鶴丸はぽつりと呟く。そしてふと思い立ち、宝探しの達成者に手を差し出した。
「最後の紙は、俺がもらおう。宝探し達成の証としてな」
「はーい。じゃ、これ」
浦島が四つ折りにした指示の紙を鶴丸に渡す。鶴丸はそっと紙を開いて中を見る。そこには自分でも太鼓鐘でもない文字で『鶴丸国永の部屋の押入れ』と記されていた。
く、と鶴丸は小さな笑いを漏らした。事の経緯はさっぱり分からないが、誰かの作為をしかと感じたのだ。文字の向こうのやり取りを、あれこれと考えずにはいられない。
廊下をどたどたと走る音がして、太鼓鐘が部屋に滑りこもうとした入り口でぴたりと止まった。箱を囲む四人の様子に目を丸くして、部屋の奥の鶴丸を見やる。
何も言うな、と鶴丸は人差し指を口元にあてる。それで、了解した、と太鼓鐘は疑問を呑み込んだ。
「ようよう、賑やかだと思ったら。戦利品パーティってとこだな!」
太鼓鐘を迎え入れ、箱の周りに取り出された菓子が並ぶ。宝探しの企画者が揃ったところで、四人が口々に礼と感想を伝えた。
「宝探し、すっごくおもしろかった! 俺、兄ちゃん達に今日のこと教えてあげよっと」
「楽しかったですよね。お菓子もみんなに配れそうだ。鶴丸さん、太鼓鐘くん、ありがとうございます!」
にこにこと礼を言われ、鶴丸と太鼓鐘はひらひらと手を振る。
「そいつはよかった。次にやるときは、手伝ってくれるかい」
「隠す側か、やってみたいな!」
「オレたちも絶対誘ってくれよ、いい隠し場所、考えとくから」
早くも第二回の開催が期待されている。箱に入れる物も考えてくれよ、と太鼓鐘が付け加えた。
「さ、宝探しはめでたく終了だ。あとは戦利品報告に回ってくるといい」
鶴丸がそう促す。四人はそれぞれが菓子を抱えて、どれをどこに持って行こうかと相談し始めた。嬉しげな背中を見送って、鶴丸と太鼓鐘は顔を見合わせる。
「一体どういうことなんだ?」
「さてなあ。これが最後の紙だとよ」
太鼓鐘は渡された紙を表や裏にして観察する。そして俺も見せるものがあると、ポケットからひとつ、棒付きの赤い飴を取り出した。
「さっき通りがかった部屋でさ、床の間に生けてあったんだよ。これって俺達が用意した飴だろ? 部屋にいた鶯丸に尋ねたら、ひとつ持って行ってもいいとしか教えてくれないんだ。いつの間に宝探しが終わったんだ? と思って物入れを覗いても、箱も、人のいた形跡もないときた。そうしたらこっちの部屋から歓声がしたから来てみたら、入れた覚えのない菓子がごろごろしてるって有様だ」
びっくりしたなあ、と太鼓鐘が大げさに首を左右に傾げる。
「全くだ。箱は俺の部屋に移動し、中身もどっさり増えているとはなあ。驚かせてもらったぜ」
やられたなあ、と鶴丸がまんざらでもないふうに唸る。太鼓鐘もいっしょになって、おかしいよなあ、と笑った。
「この種明かしは、してもらえると思うかい?」
「今度は俺達が探し回る番か。いいねえ、どこから当たろうか」
退屈などはどこ吹く風で、二人の楽しげな話し声が廊下へと出て行った。