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紅葉狩り

 *

 日光が足りず薄暗くなっている部屋で、長谷部が文机に向かっていた。声を掛けてから障子を開けるまでの時間が短かったため、作業をしていたそのままの姿勢であるようだ。文机には硯と何枚もの小さな紙が、その隣には大きな箱が置かれていた。
 
「追いつかれたか……」
「長谷部、おんしゃあ、その紙は」

 不覚、と長谷部が悔しげに紙を渡す。陸奥守が広げてみると、まだ乾き切らない墨で『風呂場の籠』とあり、宝探しに関わる何かをしていることは明らかであった。

「俺と博多で夏に使っていた花器を片付けていたんだ。すると花器に『書庫の窓枠』という紙が入っていて、そこから指示を辿っていくと物入れの床下にこの見慣れぬ箱が置かれていた」

 そう言って長谷部が別の紙を懐から出してくる。そこには、箱の中身は見つけた者に進呈する、という内容の文が書かれている。

「ほいで、中身はなんじゃった」
「飴だ。赤や黄色の飴が棒の先についていて、それが何本かで束ねられたものが何組か入れられていた」
「それを……食べたがか?」
「俺達が何の疑問も持たずに食べると思うのか?」

 いいや、と陸奥守は首を横に振る。長谷部は眉間に皺を寄せ、不服だとも仕方がないとも考えているような複雑な表情である。

「何事かと考えているうちに、包丁藤四郎と乱藤四郎が通りがかってな」
「おぉ……あの甘い菓子にゃあ目のない子らが」

 その言葉で全て理解したというように陸奥守が深く頷いた。中身は持って行ってもいい、と読める内容の紙しかないとあれば、飴を持ちだすことを止めるだけの説得はできなかったのだろう。

「俺達にしても説明が出来ない。ああ勢いよく喜ばれてはな……ともかく開けてしまったものはどうしようもない。紙を辿って来ている者がいるのだろうが、鶴丸と太鼓鐘は不在で連絡も取れないとあって、ひとまず馬小屋を探させている間に代わりの物を準備しておこうと思ったんだ」

 溜め息をひとつ吐いて、長谷部は紙を畳み直した。

「陸奥守、まさかお前ひとりで辿って遊んでいるわけではないだろう」
「代理じゃ、代理。浦島らぁが出陣やき任されたがよ」

 ということは結局この箱を隠し直さねばならないのだ。どうしたものかと思案する長谷部の前から筆を取り上げ、陸奥守は紙に次の指示を書き記した。

「どうせなら、場所を変えよう。たまには驚かせてみるがもえいろう」
「何か案があるというなら、乗ってやる」

 きらりと目を光らせた陸奥守に、長谷部がにやりと笑い返した。
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