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紅葉狩り

 *

 一刻ほど経った頃、銃の手入れをしていた陸奥守のところに浦島と厚がやってきた。宝が見つかったというようではなく、手にはまだ紙を握り締めている。
 まだやっていたのかと笑う陸奥守に、浦島が紙を託した。

「俺達、これから出陣になったんだ。陸奥守さん、少しの間進めておいてくれないかな?」
「今日中に見つけたいんだけど、けっこう骨のある探し物なんだ」

 腕を組んで悔しげに厚が言う。

「わしは構わんけんど、おんしらはえいがか。進めてしもうても」
「あっ、最後まで見つけちゃだめだよ! 手前くらいで、なんとか」
「なんじゃ、それは」

 浦島の素直な、しかし気をつけようのない頼みが陸奥守にはおかしく聞こえたが、厚は真剣に頷いている。

「よし、ほいたら引き受けようか。最後の宝物は見つけやせんき、安心して行ってきいや」

 紙を握り、陸奥守は二人を見送る。
 次の指示は『漢字一文字の掛軸の裏』とある。さてどこの部屋だったかと陸奥守は廊下を渡り歩いた。

 掛軸を見つけ、一枚、二枚と次の指示をこなしていく。初めの寸胴鍋のように本格的な物探しになりそうなものがあればややこしいなと考えていたが、このあたりは場所から場所へと移動させる指示になっていた。
 次のお目当ては、と陸奥守は畑に出て行く方の縁側に座っている内番着の山姥切を見留めた。後ろから近づいて背に垂れている白布を捲ると、紙が貼りつけられている。

「おい、何をしている」

 山姥切が布を下ろせと引っ張った。

「おんしの背中に紙がついちゅうき、取らせてもろうた」
「は?」

 陸奥守は『山姥切国広の布の下』と書かれた紙を山姥切に見せ、自分は取ったばかりの紙を読む。紙を確認した山姥切は迷惑そうに顔をしかめる。

「なんだか知らないが、巻き込むな」
「鶴丸や太鼓鐘がおんしに近づかんかったか? 背中ということは、だいぶ前から巻き込まれゆうろ」
「……ああ」

 心当たりがあるようで、山姥切が表情を曇らせた。

「今日は畑当番ではないろ。ここで何をしゆう」
「収穫で手が足りないと言うので、野菜をここまで運ぶのを手伝っていた。今は何もしていない」
「それは、当番はまっこと助かったろうね。なるほど、収穫の季節やき、当番の人数も足らんか」

 陸奥守の感想には答えず、次はどこに行くんだ、と山姥切が陸奥守の手にある紙を見る。

「『花器の中』。そんなもの、本丸にいくつもあるだろう」
「ほうじゃのう……ただ今までの傾向からすれば、こういう指示のときはそう離れた場所ではないがよ」

 山姥切がくるりと和室を振り返り、床の間を指差す。

「そこにひとつある」

 今は空いている花器が、たしかにひとつ置いてある。陸奥守はそれを覗き込み、細く折り畳まれた紙を見つけた。
 縁側に戻りながら紙を広げ、陸奥守の足がぴたりと止まった。山姥切が訝しみ、どうしたんだ、と尋ねる。

「『馬小屋』……?」
「それが、どうした」
「庭を通らんと行けん」

 陸奥守の違和感は、山姥切に伝わらない。

「これはな、庭に出られんという制限つきでやりゆうはずなが」

 改めて主旨の説明をする。ふむ、と山姥切が先ほどの数枚を取り上げて、指摘した。

「この二枚とは字の書き方が違うな。似せてはあるようだが」
「誰ぞに、手伝うてもろうたか……まあ、行ってみるしかないのう」

 陸奥守は下に適当に並べてあった下駄を借り、縁側から庭へと降りた。山姥切に見送られて落ち葉を踏みわけ、馬小屋に入る。馬当番の仕事は終わっていて、中に人影はない。
 しかしこれまでと異なり、広すぎる指示ではどこから探せばいいやら分からない。まずは目視できる壁や道具入れなどを確認するが、紙はない。干し草の束をがさがさと撫でてみても、馬の一頭一頭に尋ねてみても、手掛かりをつかめない。
 今までと勝手が違いすぎる、と陸奥守は思案した。一度自分が始めた地点から辿りなおしてみようと考え、本丸の縁側に沿って庭を歩いていく。

 紅葉の色が深まるこの時期、時折冷たい風が吹く。ひゅうと通り抜けた風が、ある匂いを陸奥守に感じさせた。
 墨の匂いだ。その地点で下駄を脱いで縁側に上がり、庭に面した部屋を順番に覗いていく。ひと部屋、ひと部屋と風上へ移っていくと障子の閉め切られた部屋があり、陸奥守は外から声を掛けて中の者を訪ねた。
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