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紅葉狩り

 仰いだ空に、踏み行く地面に、赤色黄色が風と舞う。
 上の紅葉に目を奪われ、下の銀杏に足を取られ、秋の庭を真っ直ぐに通り過ぎるのは容易ではない。ざっくりと掃き集められた落ち葉の山は、幸いにもこの日はまだ蹴り散らかされずにある。というのも、庭に出ようとした者たちが引きとめられているからだ。
 朝食が済んだ部屋で、まさに庭へ駆け出そうとしていた鯰尾藤四郎たちを鶴丸国永は畳に座らせた。

「いいか、庭は危険で溢れている。むやみに走り回るべきではないというのが、先日の会議で出た意見だ」
「会議っていうか、宴会ですよね」

 そこにいる皆に言い聞かせるようにして始まった鶴丸の演説に、体育座りの鯰尾が指摘を入れる。

「真面目に聞けよ、君らの長兄殿からのありがたーい御意見だぜ。酒が入っていたとはいえ、だ」
「危険って言っても、オレたちはいちにいの言いつけ通り、足元には注意してるけどなあ」

 厚藤四郎は鯰尾と同じく膝を抱えた姿勢で、足裏でとんとんと畳を叩く。

「注意してるだけじゃあ足りないさ。庭は何が起こるかわからない。落ち葉の山に足を突っ込んだり、足を突っ込んだ先が池だったりするんだからな」
「落ち葉の山に突っ込んでいったのは鶴丸さんだよね」
「池に落ちたのは太鼓鐘だしよ」

 鶴丸の話に間髪入れず、浦島虎徹と後藤藤四郎が口々に名前を挙げて突っ込む。鶴丸の隣でうんうんと頷いていた太鼓鐘貞宗は、右手に持った物を皆にびしっと差し出して得意気に口を開いた。

「そう、そこでだ! 季節の庭の恐ろしさをよぉーく知っている俺たちが、屋内で走り回れる遊びを用意したってわけだ」

 へえ、と鯰尾が身を乗り出してひょいと手を伸ばし、太鼓鐘が持っていた紙を受け取る。四つ折りに畳まれた紙を広げると、そこには短い言葉が書かれていた。

「『この部屋の時計の裏』だって」
「時計ってアレか? どれどれ」

 後藤が立ち上がって壁掛け時計を手前に上げ、裏を覗き込む。そこにまた紙を発見し、がさがさと広げた。

「『一番大きな寸胴鍋』……ってことは、次は台所か」
「へー! これってあれかな、ええと、宝探し!」
「そうそう、それだ! 名付けるならば、第一回本丸宝探し大会、ってとこだな!」

 ご名答! と太鼓鐘が浦島に向けて右手を開き、やったね、と浦島がそれに応えてぱしんと手のひらを叩く。

「ゴールにはちゃんと、良いモノを用意してあるぜ」

 わくわく顔に変わった皆の表情を眺めて満足げに、鶴丸が笑う。御褒美が待っているらしいと知ってすっかりやる気になった四人は、我先にと部屋を出て台所へと駆けて行った。

「まだお皿を洗ってる途中なのに。災難だね、あっちは」
「いやいや、わからんで。まっことえいところへ来た、と手伝わされゆうかも知れん」

 朝食後の台拭きをしながら一部始終を見ていた陸奥守と燭台切は、これはまた騒がしいことになったと雑談に花を咲かせていた。そこに演説を終えた鶴丸と太鼓鐘も寄ってきて腰を下ろす。

「のう鶴丸、焼き芋をしようというのに突っ込んできたがは、おんしくらいのもんぜよ」
「その節は芋に迷惑をかけたが、躓いて剥がしてしまった紙は包み直したし、結果として俺は黄金色の焼き芋にありつけた。焼き立てだぜ? どうだ、結果オーライってやつじゃないか」
「暢気に言いゆうけんど、見よった方はまっこと、肝が冷えたちや。足を捻らんでよかったのお」
「まあさすがに石か何かを踏んづけたかと思って、俺も冷やっとしたな。だからこそ、注意喚起にも説得力があるだろう」

 下駄の端が硬い物に引っかかって転びそうになった感覚を思い出し、鶴丸は自分の足首を擦った。

「煙が上がるか匂いがしていれば気付いたんだがなあ」
「支度の途中でよかったと思うけどね。それで、貞ちゃんはどうして池に落ちたんだい」

 鶴丸達の話を楽しげに聞いていた太鼓鐘に、燭台切が尋ねる。

「いやー、落ち葉が敷き詰まってるから地面だと思ったんだよ。絨毯みたいでさあ」
「なるほど。歩いていて踏み出した先が池だったんだね」
「あの当然あると思ってた物がない肩透かし感、ならぬ足透かし感ったら、ないぜ。何が起こったのかしばらく分からなかったからな」

 厚く積もった落ち葉が、水面と地面の境目を隠していたのだ。少し注意深くいれば気付きそうなものだが、器用なものだと燭台切が苦笑する。

「ま、そういうわけで俺達が屋内での遊びを計画したってことだ!」
「おんしらは走り回らんがか」
「なに、仕込みに走り回った後さ。それにこれから遠征任務でな」

 そろそろ集合かぁ、と鶴丸が肩を回す。太鼓鐘も気合い十分に立ち上がり、遠征準備だと部屋を出て行った。燭台切と陸奥守は台拭きを終えて台所へと片付けに戻る。
 洗い場へ向かう廊下ではすでに、寸胴鍋捜索の音がにぎやかに響いていた。
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