高近アドベントカレンダー2024(未遂)

池のほとりに白いものがぽつり。
よく見ると、それは睡蓮だった。
まだ時期尚早なのか、ひとつだけぽつり。
可愛そうで、可哀想で、
俺がそれに手を伸ばそうとすると、

「これ以上は、駄目だろ」

と、頭の中で声がした。
可愛そうで、可哀想な
愛おしい懐かしい人。
俺がもう少しと
あいつの中に踏み込もうと手を伸ばしたら、
やんわりと止められた。
俺達は、これ以上はだめなのだと。
そう言わんばかりに。

優しいのか、残酷なのか分からねェな。

「どしたんでさァ、近藤さん」
「え?」
「ほら、手、伸ばしてんじゃねーですか。なんかあるんですかィ?」

総悟が首を傾げながら、遠くをみようと目を細めて、俺が手を伸ばした方を見ていた。

「いや、何もねェよ」
「何も?」
「んー、そうだな」

俺は伸ばした手を左目に添えて、言葉をこぼした。
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