高近アドベントカレンダー2024(未遂)

「夏祭りに行こうぜ!」
と、幼馴染の近藤が誘ってきた。嫌だと返したのに、それを嫌だと言って、ほとんど引きずられるように、夏祭りの会場である神社にやってきた。
どこを見ても人、人、人。田舎の夏祭りだというのに、ここぞとばかりに人が集まっている。どこに居たというのか。
こればかりは、夏の暑さに人の熱さが足されて、くらくらしてくる。
げんなりとしていたら、「ほら」と、目の前にかき氷を差し出される。紫の着色料を使いましたという自然にはない色合いがかかったそれ。
「ブルーベリーで良いだろ?珍しいんだぞ」
渡してきた近藤は、なぜだかひょっとこのお面をかぶって、片手には、黄色のかき氷を携えていた。
俺は、紫色のかき氷を受け取り、一口食す。沸騰寸前だったろう口の中が一瞬で冷える。甘すぎる気がするが、今は目をつむってもいい。
隣の近藤が、くすくす笑いながら、お面をずらして黄色のかき氷を食べていた。なにしてんだこいつは。取ればいいだろうが。
「食べにくくねェのか」
「ん?お面か?んー、ちょっと」
「外せばいいだろ」
だんまりする近藤。返事もせずに、かき氷を食べ続けていた。
「最後かもしれねェもん」
「何がだよ」
「高杉と、こうやって会うの」
「別に、会えるだろ」
「わかんねぇよ。高杉、県外の大学行くんだろ」
そうだな。一応、合格圏内ではあるから、その大学に行くだろうな。
「だからって、なんだよ」
「県外に行ったやつは、なかなかに帰ってこねェもん。それに、俺は……」
お面で見えないはずなのに、泣きそうになっている近藤の顔が分かる。幼馴染っていうのも面倒なものだよな。隠し事ができねェ。
「高杉のことが、好き、なんだよ」
いつもの頭に響くでけェ声じゃない。思わず溢れたような小さい声。
こんなにガヤガヤとうるせェ中にいるのに、その溢れた言葉が俺の脳に直接響いた。近藤の方を向くと、うつむいていて、片手にあるかき氷はほとんど溶けて、黄色の甘い水になっている。
何分経ったか、もしかしたらそんなに経ってないかもしれないが、俺たちは一言も喋らなかった。そろそろか、俺はひとつ深呼吸して、近藤に言う。
「近藤、こっち向け」
言われたあいつは、なかなかにこっちを向かなかったが、ずっと待っていたら、鼻をすすった音が聞こえて、ゆっくりと顔を上げた。
こちらを向くあいつの唯一、見えている口元。そこに、俺はそっと口づけた。ひんやりとした感触が心地良かったが、ただ触れるだけに留めて離れる。唇を舐めると、レモンの味がした。
「え、あ、まって、たかすぎ?!」
近藤が呂律が回らないまま、お面を外そうとしていたが、俺はお面を顔面に押し付けた。
「痛っ!!お前、さっきまで外せって言ってただろうが!!ちょっと、どういうことだよ!」
どうこうもねェだろ、うるせェ。そういうことだ。だから、今、絶対にこいつにお面を外させるわけにはいかない。
あー、あちィな。
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