1〜25日目!

「牛の肉が食べたい」
「そこの牛丼屋でも行ってこい」
「そうだけど、そうじゃない!高い!牛の!肉が!食べたい!」
テレビを見ていた近藤が、ソファの上でジタバタとクッションを抱きながら暴れていた。
高杉はそんな近藤を軽く無視し、夕食の後片付けの続きをした。泡立てたスポンジで茶碗を軽くなぞる。他の食器も同じように次々としていたら、「だから、明日はすき焼きにする!」と、唐突な決意表明が聞こえた。
「なんでそうなんだよ」
「鍋特集してたから」
すき焼き!すき焼き!と、もうわくわくしてる近藤に、今日鍋だったのに?と野暮なことを高杉は口から出る寸前のところで飲み込んだ。



「すき焼きって関西風とか関東風とかあんじゃん、高杉はどっち派?」
「食べれば一緒だろ」
「もうー!そういうこと言うー!」
「ま、すき焼きの素入れるから関係ないけどー」と言って、近藤はすき焼き用牛肉(いわゆる、お高い牛のお肉)を焼いていく。赤と白のコントラストが絶妙に配分されているお肉が、食欲をそそる色に変わる。そして、しっかりと焼けた茶色にまた濃茶が加わり、染み込むように色が馴染んでいく。
「すき焼きって先に肉食べるんだっけ」
「もうお前が食べたいだけだろ」
「だって、仕事中もすき焼きのことずっと考えてたからさ〜」
ちょっと味見みたいなもん、と近藤は箸で小さく肉の端を切る。そして、高杉のほうに箸を向けた。
「は?」
「味見は料理の基本だから」
なんて笑いながら近藤が言う。家なのだから自分たちしかいないと分かってても、少し気恥ずかしさを高杉は感じたが、それをおくびにも出さず、そのまま自身の口に運ばせた。
「どう?」
「濃い」
「そりゃこっから薄くなるからなァ。葉物系はやっぱ入れたいし」
そう言いながら、近藤は自身でも肉を食べる。すき焼きならではの甘辛さと牛肉の脂で口の中がとろけそうになる。仕事中、この味を待っていた。ようやく出会えた味の喜びを近藤は噛み締めていた。
「おい、食べるのもいいが野菜入れろ」
「あ、そうだな。ついついもう一口ってなる……すき焼き怖っ」
食べた分より、少し多めに追加で肉を焼いて、野菜や白滝、豆腐を入れる。あとは味が染み込むように煮立つまで少し待つ。
その間に、卵を割り入れ混ぜて、準備を整えておく。
「やっぱ冬は鍋だよな」
「それ、昨日も行ってたぞ」
「それほど、鍋が一番ってこと」
「どういうことだ」
「身も心もお腹いっぱいあったまるだろ?」
と得意げに笑う近藤に、高杉は呆れたように息を吐く。しかし、口元は緩められ少し上がっていた。
「もういい感じかな」
「そろそろ待ちくたびれたな」
「だよな、それじゃあ」
「「いただきます」」

美味しく召し上がれ。
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