800字100日チャレンジ!?
「もうここともお別れかーなんだか寂しいな」
「そうだな」
吉原の一角に部屋を借りていた。間借りのようなものだった。世間的には、一緒にいることが憚られる関係のふたりだ。誰の目にも触れず、ひっそりと逢瀬するための部屋が必要だった。それが、ここだった。
「まあ、別に持ち出すものもないんだけどな」
「おい。お前が新しいとこ行く前に来たいって言ったんだろうが」
「だってよ、お別れ言いたいじゃん」
部屋に、と言って近藤は、8畳の部屋に寝転がる。高杉も、近藤の元に行き、隣に座り込んだ。
「この部屋見つけたの、高杉だよな」
「たまたま見かけた」
「ははは、そっかー!ま、そのおかげで会いやすくなったもんな」
「……そうだな」
「短かったけど、いろいろあったよな」
「言うほど、あるか?」
「あったって。ほら、トシに呼び戻された時とか、俺どうしようかと思ったから」
「ああ、あの時な。あれは殺そうかと思った」
「物騒すぎるだろ」
「シテる最中だったら、誰でもだろ」
「いや、まあ、あの時は、あんま会えなかったから、俺が盛っちゃったのが悪いというか」
「てめェが屯所の仕事忘れてたからだろ」
「そうだけど!あれからちゃんと確認してるようにしてるから、大丈夫!と、思う」
「思うってなんだよ」
「確認って忘れるんだよなァ」
「ダメじゃねーか」
「んなことない。それに、高杉が怪我負って来た時は肝が冷えたから」
「あの時な」
「やめろよな、心臓に悪い」
「それはこっちのセリフだ。てめェも大概だからな」
「そう、かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「おい」
「ははは、分かってるって。気をつける」
「本当かよ」
「本当、本当」
沈黙がふたりの中に落ちる。近藤が息を大きく吸って伸びをし、ゆっくりと息を吐いて、力を緩める。ああ、本当に、本当に。
「俺たち、認められちゃったんだな」
静かな部屋に、近藤の言葉が響く。高杉は何も言わない。
世間的には憚られる関係。同性同士。
認められるわけがない関係。敵同士。
そんな、一緒にいることが罪であるふたり。
そのはずだったのだが。
身近なもの達は、認めたのだ。
認められたというより、それがどうしたと許してくれたと、近藤は思う。
だから、ふたりはもうこっそりと会わなくていい。
なら、いっそのこと家を借りよう。
帰れる家を。
一緒にいれる家を。
そんなこともあり、ふたりは今、今まで歩んできた部屋に別れを告げて、新しいこれから歩んでいく部屋に、引っ越すのだ。
これまでのことを、この部屋で。
これからのことを、次の家で。
いっぱい話をしなくちゃな。
近藤は起き上がり、「行くか」と、高杉に声をかける。高杉は頷き、立ち上がった。
ふたりで部屋を出ていく。しかし、出る間際に近藤は改めて振り返る。
「さよなら、ありがとう」
近藤は笑って、部屋に別れを告げた。
次は新しい家で、思い出を作ろう。
幸せになろう。
ふたりはまだ知らない。
この後、セーフティハウスの場所をある人物達に知られることを。
そして、そこに入り浸られることを。
ふたりはまだ知らない。
「そうだな」
吉原の一角に部屋を借りていた。間借りのようなものだった。世間的には、一緒にいることが憚られる関係のふたりだ。誰の目にも触れず、ひっそりと逢瀬するための部屋が必要だった。それが、ここだった。
「まあ、別に持ち出すものもないんだけどな」
「おい。お前が新しいとこ行く前に来たいって言ったんだろうが」
「だってよ、お別れ言いたいじゃん」
部屋に、と言って近藤は、8畳の部屋に寝転がる。高杉も、近藤の元に行き、隣に座り込んだ。
「この部屋見つけたの、高杉だよな」
「たまたま見かけた」
「ははは、そっかー!ま、そのおかげで会いやすくなったもんな」
「……そうだな」
「短かったけど、いろいろあったよな」
「言うほど、あるか?」
「あったって。ほら、トシに呼び戻された時とか、俺どうしようかと思ったから」
「ああ、あの時な。あれは殺そうかと思った」
「物騒すぎるだろ」
「シテる最中だったら、誰でもだろ」
「いや、まあ、あの時は、あんま会えなかったから、俺が盛っちゃったのが悪いというか」
「てめェが屯所の仕事忘れてたからだろ」
「そうだけど!あれからちゃんと確認してるようにしてるから、大丈夫!と、思う」
「思うってなんだよ」
「確認って忘れるんだよなァ」
「ダメじゃねーか」
「んなことない。それに、高杉が怪我負って来た時は肝が冷えたから」
「あの時な」
「やめろよな、心臓に悪い」
「それはこっちのセリフだ。てめェも大概だからな」
「そう、かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「おい」
「ははは、分かってるって。気をつける」
「本当かよ」
「本当、本当」
沈黙がふたりの中に落ちる。近藤が息を大きく吸って伸びをし、ゆっくりと息を吐いて、力を緩める。ああ、本当に、本当に。
「俺たち、認められちゃったんだな」
静かな部屋に、近藤の言葉が響く。高杉は何も言わない。
世間的には憚られる関係。同性同士。
認められるわけがない関係。敵同士。
そんな、一緒にいることが罪であるふたり。
そのはずだったのだが。
身近なもの達は、認めたのだ。
認められたというより、それがどうしたと許してくれたと、近藤は思う。
だから、ふたりはもうこっそりと会わなくていい。
なら、いっそのこと家を借りよう。
帰れる家を。
一緒にいれる家を。
そんなこともあり、ふたりは今、今まで歩んできた部屋に別れを告げて、新しいこれから歩んでいく部屋に、引っ越すのだ。
これまでのことを、この部屋で。
これからのことを、次の家で。
いっぱい話をしなくちゃな。
近藤は起き上がり、「行くか」と、高杉に声をかける。高杉は頷き、立ち上がった。
ふたりで部屋を出ていく。しかし、出る間際に近藤は改めて振り返る。
「さよなら、ありがとう」
近藤は笑って、部屋に別れを告げた。
次は新しい家で、思い出を作ろう。
幸せになろう。
ふたりはまだ知らない。
この後、セーフティハウスの場所をある人物達に知られることを。
そして、そこに入り浸られることを。
ふたりはまだ知らない。