800字100日チャレンジ!?

「一丁前に狩られてるじゃん」
「あ?」

屋上に来てやって待っていたら、第一声がそれだった。
今日は卒業式。
大体のやつが、別れを惜しんだり、再会の約束をしたり、忙しなく人があちらこちらへと移動する。
人の流れは途切れず、次へ次へといろんなやつが、いろんなやつに会いにいって、教室はずっと騒がしい。
そんな中、こっそりと近藤が俺に天井を指差してきた。だから、俺は適当なこと言って、そこから抜け出してこの屋上に来てやったのに。なんだと言うのか。

「近藤。てめェこそ、一丁前なこと言うようになったじゃねーか。てめェが呼び出したくせして、遅れてくるなんてな」
「ははは、それはごめんごめん。あいつらがなかなかに離してくれなくて」

謝罪とは思えない口ぶりに、俺は思わずため息出そうになるが、肩を落とすだけにした。
近藤は「疲れたー」と言いながら、俺の隣に腰をかける。伸びをして、晴天の空を見上げていた。

「期待はしてなかったけどさ」
「は?俺が来ねーと思ったのか」
「そっちじゃねェ」
「じゃあ、なんだよ」
「……第二ボタン」

呆れそうになるのを眉をしかめて、抑える。なんだそんなことかと。
留めたはずだったが、近藤にはバレていたようで、こちらを恨みがましく、睨んできた。

「絶対にくれるって言ったのに」
「別に、ボタンなんていらねーだろ」
「いーるーの!」
「たかがボタンで」
「たかがじゃねーよ、第二ボタン」
「一緒じゃねーか」
「一緒じゃねーよ」

晴天なのに、俺に影が落ちる。俺は影を作ったやつを見上げた。近藤は俺に跨りにんまりと笑って、心臓の場所を指で突き刺してきた。強く押してきやがったから、地味に痛い。少し顔を歪めると、そいつの笑った顔は消えて、唇を尖らせる。

「第二ボタンってさ、心臓に近いからみんな欲しがるんだって。好きな人の大事な部分が欲しいんだって」

「だから、欲しかったのに」と言って、近藤は指を下ろして、俺の上からも退いて、横に寝転がる。

「高杉のばーか。あの時の俺の勇気を返せよ」

完全に拗ねたな。
これは面倒なことになったと、俺は嫌味なほどに青い青い空を見上げる。ああ、青いなァ。俺もこいつも。
俺は、ポケットに手を突っ込んで、中にある"それ"を握りしめる。

「おい」
「……」
「振り向いた方が後悔ねーぞ」
「それ、どう言うこと?」

近藤が仰向けになったタイミングで、俺は跨り、今度は俺が影を作ってやった。

「え、ヤらないからな」
「ちげーよ。こいつがいらねーのか?って話だ」

俺は握りしめた"それ"をつまむようにして、見せつける。驚いたように目を丸くする近藤に、俺はにんまりと笑って、"それ"を口に含む。
あ、と近藤が口を開けた隙に、俺は口付けた。そりゃあ、口に含んだ"それ"を譲るために。欲しいと言ってたからな。少し口内で弄ぶのはご愛嬌ということで。
ゆっくりと口を離すと、近藤は息絶え絶えで、涎で口元がベタベタだった。口の中に浮かぶ"それ"、"第二ボタン"が妖しく光る。

「心臓くれてやっただろ?」

近藤は、第二ボタンを確かめるように舌先で転がしてから、うっとりと笑いかけた。
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