800字100日チャレンジ!?

スクリーンの中の誰かが簡単に言う。
「永遠に君と一緒に居よう。結婚してくれ」
なんて。
ゲロ吐きそうな言葉に、俺はポップコーンを食べる手が止まる。
ただのフラグじゃねェか。永遠とか一生とか軽く口にすんじゃねェ。出来もしねェことを。
映画館じゃなきゃ盛大にため息を吐いてるとこだった。
俺はちらっと隣の近藤を見る。
あいつはスクリーンに釘付けで、両手を胸の前で握っていた。
目は真っ直ぐと前を向いて、俺のことなんて一切見てない。夢中だ。スクリーンの中の彼に。
そりゃ、映画館なんだからそうなんだが、なんだかやるせなかった。
俺がスクリーンに目を向けると、彼と彼女が幸せそうに抱き合っていた。
「私も貴方と永遠に愛し合いたいわ」
ああ、まだポップコーン食べ終わってねェんだけど。

「泣いちゃったよー!幸せになってよかったーー!!いや、これから幸せになるんだよなー」
俺たちは映画館を出て、早々に近くの喫茶店に入った。
そこから、近藤は泣き腫らした目を抑えながら、先ほどの映画の感想をつらつらと喋っていた。
俺はそれに相槌を打ちつつ、視線はメニュー表を隅々まで見ていた。
ポップコーンはエンドロールまでには食べ終えている。なので、口の中にまだ塩っ気が残っている。
そうなると、甘いものが欲しいよなァ、お、このパフェ期間限定かァ。
メニュー表のいちごパフェに目を奪われていると、近藤はじと目で俺を見てくる。
「なんだよ」
「俺の話聞いてないだろ。というか、映画ちゃんと見た?」
「聞いてるし、見た」
「嘘」
「なんでわかんだよ」
「時々、俺の方見てただろ」
気づいてたのかよ。俺は言い返せずに、近藤を見る。机に肘をついて、手に顎を乗せて、俺を見ている。
「それもなんか主人公が愛を伝えてる時とか多かった気がする。なんで?」
なんで、って。そんなこと。
お前の反応見てたとか言えるわけねェんだよな。
どんなプロポーズが良いか、探ってたなんて言えねェだろ。
それも参考にしようとしたのがよりによって、歯が浮くような、甘ったるいお汁粉のような、俺が到底無理そうな言葉ばっかりを並べる恋愛映画。
参考になりゃしねェ。
それでも、近藤がこれを見たいと言いだして、あれだけ夢中になってるんだったら。
俺は奥歯を噛みしめる。
歯が浮かないようにだ。
近藤は首を傾げて、俺を見る。
「永久に……一生一緒……なんてクソくらえだ」
「……なんだよ、それ」
「それより、お、俺のハッピーを埋めろ」
「え?」
あああああ!!俺は机に頭を打ち付けた。そうじゃないと、歯が浮くか、ゲロを吐きそうだったからだ。
顔が熱い。なんで俺はあの映画を参考にしたんだ。
「ハッピー埋める、ってさっきの」
そうだ。
『俺のハッピーを埋めてくれ』
主人公が最後、彼女に言った言葉だ。戦地から帰ってきて、いろいろ無くした主人公が、彼女に情けなく言った言葉だった。それを彼女は笑って、抱きしめたのだ。
この映画を評価していいと思った唯一のシーンだ。
主人公が一生なんてないことを知る。
永遠なんてないことを知る。
溢れないようにしても溢れる命を知る。
だから、彼女に溢れないように埋めてくれという。
俺も貴方の隙間を埋めるから、なんて。
ああ、これが手と手を取り合って生きることなんだと、俺は思った。
彼と彼女が手を握り合って、笑い合う。
エンドロールまでしっかりと。
それこそ、永遠に離さないようにと。
机に投げ出した俺の手からそっと温もりを感じた。ゆっくりと顔を上げると、近藤がにんまりと笑っていた。
「俺のハッピーもお前で埋め尽くしてくれるなら」
『貴方のハッピーで私も埋め尽くして』
近藤が照れながら笑う。
彼女が泣きながら笑う。
ああ、埋め尽くしてやるよ。溢れたときは、溢れた分以上に足せばいいんだろ。
埋め尽くすまで、ずっと居てやる。
お前もそうだろ?
俺のハッピー埋めてくれるんだろ?
「今日の夕ご飯、ロールキャベツがいい」
「ハハハ、俺も食べたいと思ってた」
一緒にハッピーで埋め尽くそう、なんてな。恥ずかしいったらありゃしない。

おわり
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