1〜25日目!
日が経つにつれて、寒さが身に沁みる今日この頃。
だからこそ、温かい紅茶で身も心も溶かさなければ、乗り切れないだろう。
「高杉の紅茶、葡萄の甘い匂いがする……でも、ベースなに?俺が知ってる紅茶の味じゃない気がする」
「烏龍茶って言ってたな。あと月桃が入ってるから、少し風味が違うんだろ」
「なるほどな〜」
「お前のは、玄米茶ベースだろ。じじぃか?」
「ハァァァ?自然の味って言ってくださいますゥ?」
ソファに並んでお茶を嗜むふたり、近藤と高杉は、先日訪ねたオリジナルブレンドティーを配合してくれるお店で頼んだ紅茶を飲み比べしていた。
そこは、軽いプロフィールといくつかの質問で、自身のイメージに基づいたブレンドティーを配合してくれるというサービスが人気のお店である。
今日はふたりとも休日。何の予定もない日。冬が一段と深まり、外出は億劫だった。それなら、特別な紅茶を淹れてゆっくり過ごそう!と近藤は意気揚々と、前日にZURAYAで漫画本を借りていた。
「お前は何借りたんだ?」
「今ドラマやってる少女漫画」
「ああ、あれか」
「続き気になっちゃってさ〜、やっぱ隆史には恵子が必要なんだって」
来週の放送内容を先に見ていいのか?とは口にせず、高杉は自身の読み進めていた小説を開いた。
「ちなみに高杉は?」
「徳茂将のSF」
「ああ、今話題のね。てか高杉って、お気に入りの作家さんしか読まないよな」
「外れがねェからな」
「へぇ」
「俺も読んでみようかな」と近藤は高杉の手元を覗こうとしたが、高杉に避けられてしまった。
「何だよケチ」
「気が散る。あとでてめェ用の本を見繕ってやるからやめろ」
「え!本当かよ!」
「ああ、絵本でいいだろ」
「俺は子供か!幼子か!」
「字見たら眠くなるって言ってたじゃねェか」
「言ってたけど〜そうじゃないじゃん!」
ぶーぶーと文句言う近藤に、分かったと言って高杉は席を離れて寝室に向かう。困惑した近藤は、文句を一旦止めて、ソファの背もたれから高杉が向かう方へ、視線と体の向きを移動させる。
待つこと数分、寝室から出てきた高杉は、自身の本とは別の一冊を、手に持ってやってきた。
「ほら、これならお前にもわかりやすいだろ」
「あ、探してくれたんだ。ありがとう!」
近藤はパッと表情を明るくして、両手でその本を受け取った。手元に収まるタイプの本、いわゆる文庫本サイズで、ページ数も少ない。確かに、簡単に読めそうだ。
近藤は、読むぞーと気合いを入れて、その本を読み始めた。高杉はそれを見届けてから、自身の読み途中だった本に目を落とした。
「結局、寝てんじゃねェか」
高杉が大体半分読み終え、休憩のために本から目を離した。静かだなと思い、隣を見ると近藤はすやすやとソファにもたれかかって寝ていたのだ。
完全に寝入ってる近藤の手元に、本は奇妙なバランスで収まっていた。器用というかなんというか。高杉は自身の本を机に置き、近藤の本をそっと手から外す。
開いていたページは、最後の短編だった。
気軽に読める短編がいくつか載っている本であり、高杉は最後の短編がお気に入りなのだが、生憎読んで欲しかったところまでは相手に届かなかったようだ。
たんぽぽのような素朴な女に恋する危険な甘さを漂わせる男の恋物語。
ラストが幸せなのかは作者のみぞ知るという些かふわっとしたオチであり、賛否両論が繰り広げられる作品でもある。
それでも高杉はなぜか、強く惹きつけられたのだ。徳茂将の作品にハマったきっかけといっても過言ではない。
物語の内容は大体覚えているが、軽く目を通してみる。こんな内容だったな、と少し夢中になって高杉は読み返した。
ふと、あるページで止まる。
男が女に対する心情を吐露するシーンだ。
太陽の暖かさが凍える身を包んでくれる。
彼女の暖かさが凍えていた心を溶かしてくれる。
彼女は僕の太陽だ!
こんなクサイ台詞は自身では吐けないけれど……と、ちらりと横を見る。すやすやと先ほどと変わらずに健やかに寝ている近藤。高杉はそっと手を伸ばした。
「ぬくいな……」
寝ている近藤の頬に、高杉は自身の手の甲を当てる。ひんやりとした気配を感じたのか、眉を寄せて近藤はソファの上で身を捩った。
それがなんだか可笑しくて。高杉は自身の口元が緩むのが分かった。誰にみられてるわけでもないのに、気恥ずかしさからか空いてる手で口元を隠した。
こんな穏やかな日常を過ごせるなんて、前の自分では考えられない。いや、考えたくなかったのかもしれない。先生を失ったあの日から。
でも、このぬるま湯のような心地よい日常を知ってしまったら、もう戻れない。手放したくない。そう強く高杉は思う。
外は冬を感じさせない青空が広がり、さんさんと太陽の熱が窓から降り注ぐ。暖かい空気が部屋を漂っている。
高杉はぬるくなった紅茶を一口啜った。
おわり
だからこそ、温かい紅茶で身も心も溶かさなければ、乗り切れないだろう。
「高杉の紅茶、葡萄の甘い匂いがする……でも、ベースなに?俺が知ってる紅茶の味じゃない気がする」
「烏龍茶って言ってたな。あと月桃が入ってるから、少し風味が違うんだろ」
「なるほどな〜」
「お前のは、玄米茶ベースだろ。じじぃか?」
「ハァァァ?自然の味って言ってくださいますゥ?」
ソファに並んでお茶を嗜むふたり、近藤と高杉は、先日訪ねたオリジナルブレンドティーを配合してくれるお店で頼んだ紅茶を飲み比べしていた。
そこは、軽いプロフィールといくつかの質問で、自身のイメージに基づいたブレンドティーを配合してくれるというサービスが人気のお店である。
今日はふたりとも休日。何の予定もない日。冬が一段と深まり、外出は億劫だった。それなら、特別な紅茶を淹れてゆっくり過ごそう!と近藤は意気揚々と、前日にZURAYAで漫画本を借りていた。
「お前は何借りたんだ?」
「今ドラマやってる少女漫画」
「ああ、あれか」
「続き気になっちゃってさ〜、やっぱ隆史には恵子が必要なんだって」
来週の放送内容を先に見ていいのか?とは口にせず、高杉は自身の読み進めていた小説を開いた。
「ちなみに高杉は?」
「徳茂将のSF」
「ああ、今話題のね。てか高杉って、お気に入りの作家さんしか読まないよな」
「外れがねェからな」
「へぇ」
「俺も読んでみようかな」と近藤は高杉の手元を覗こうとしたが、高杉に避けられてしまった。
「何だよケチ」
「気が散る。あとでてめェ用の本を見繕ってやるからやめろ」
「え!本当かよ!」
「ああ、絵本でいいだろ」
「俺は子供か!幼子か!」
「字見たら眠くなるって言ってたじゃねェか」
「言ってたけど〜そうじゃないじゃん!」
ぶーぶーと文句言う近藤に、分かったと言って高杉は席を離れて寝室に向かう。困惑した近藤は、文句を一旦止めて、ソファの背もたれから高杉が向かう方へ、視線と体の向きを移動させる。
待つこと数分、寝室から出てきた高杉は、自身の本とは別の一冊を、手に持ってやってきた。
「ほら、これならお前にもわかりやすいだろ」
「あ、探してくれたんだ。ありがとう!」
近藤はパッと表情を明るくして、両手でその本を受け取った。手元に収まるタイプの本、いわゆる文庫本サイズで、ページ数も少ない。確かに、簡単に読めそうだ。
近藤は、読むぞーと気合いを入れて、その本を読み始めた。高杉はそれを見届けてから、自身の読み途中だった本に目を落とした。
「結局、寝てんじゃねェか」
高杉が大体半分読み終え、休憩のために本から目を離した。静かだなと思い、隣を見ると近藤はすやすやとソファにもたれかかって寝ていたのだ。
完全に寝入ってる近藤の手元に、本は奇妙なバランスで収まっていた。器用というかなんというか。高杉は自身の本を机に置き、近藤の本をそっと手から外す。
開いていたページは、最後の短編だった。
気軽に読める短編がいくつか載っている本であり、高杉は最後の短編がお気に入りなのだが、生憎読んで欲しかったところまでは相手に届かなかったようだ。
たんぽぽのような素朴な女に恋する危険な甘さを漂わせる男の恋物語。
ラストが幸せなのかは作者のみぞ知るという些かふわっとしたオチであり、賛否両論が繰り広げられる作品でもある。
それでも高杉はなぜか、強く惹きつけられたのだ。徳茂将の作品にハマったきっかけといっても過言ではない。
物語の内容は大体覚えているが、軽く目を通してみる。こんな内容だったな、と少し夢中になって高杉は読み返した。
ふと、あるページで止まる。
男が女に対する心情を吐露するシーンだ。
太陽の暖かさが凍える身を包んでくれる。
彼女の暖かさが凍えていた心を溶かしてくれる。
彼女は僕の太陽だ!
こんなクサイ台詞は自身では吐けないけれど……と、ちらりと横を見る。すやすやと先ほどと変わらずに健やかに寝ている近藤。高杉はそっと手を伸ばした。
「ぬくいな……」
寝ている近藤の頬に、高杉は自身の手の甲を当てる。ひんやりとした気配を感じたのか、眉を寄せて近藤はソファの上で身を捩った。
それがなんだか可笑しくて。高杉は自身の口元が緩むのが分かった。誰にみられてるわけでもないのに、気恥ずかしさからか空いてる手で口元を隠した。
こんな穏やかな日常を過ごせるなんて、前の自分では考えられない。いや、考えたくなかったのかもしれない。先生を失ったあの日から。
でも、このぬるま湯のような心地よい日常を知ってしまったら、もう戻れない。手放したくない。そう強く高杉は思う。
外は冬を感じさせない青空が広がり、さんさんと太陽の熱が窓から降り注ぐ。暖かい空気が部屋を漂っている。
高杉はぬるくなった紅茶を一口啜った。
おわり