800字100日チャレンジ!?

「俺、好きって言ってもらったことない」

「は?」
近藤が突然、思い出したかのように呟いた。
それは洗濯物を取り込むの忘れた、とかいうそういう類のノリで。
誰に?と、言うのは野暮だろう。
そんなの"俺"しかいない。
現にこっちを近藤はじっと見つめてくる。
俺は視線を合わせないように、明後日の方を見る。
「俺が告白した時だって、言ってないよな」
視線が痛い。言葉が痛い。刺さる刺さる。これが針の筵だってくらい、回答次第ではざっくり刺さる。
んなわけないだろ。と言いたかったが、思い返すと言ってないような言ってたような。いつだったかは、覚えてないが。
「……同情で俺と付き合ってた?」
「それはちがっ!!」
振り向くと、勢いをつけすぎて近藤の顔が思ったより近くにあり、息を呑む。眉を寄せて、悲しそうな目をしている。
させてるのは俺なんだが、俺は奥歯を噛み締めた。
そうじゃねぇ。それはねぇんだっつーの。
「同情じゃねェよ」
「じゃあ、言えよ」
真剣に逃さないように俺を見つめる近藤に、俺は唾を飲み込んだ。あのですね、俺にだって準備がいるんですよ。心の準備が。
深呼吸をする。落ち着け。ただ、好きだって言えばいい話だろ。落ち着け。
「す……」
「す?」
「す、きじゃなかったら、一緒にいねェだろ」
「うーーーーーん、及第点」
「点数つけんな」
点数つけるのはなしだろ。
微妙な顔をする近藤に、俺はバツが悪くなり、日本酒をかっ喰らう。
「別に言わなくても、その、わかんだろ」
「わか、んー、わかるっちゃーわかるけど」
「それでいいだろうが」
「……」
俺はその時の近藤の顔を見ていない。見ていたら、何か変わってただろうか。それは後でも今になっても分からない。
「うーん、そんなものなのかなァ、本当に」
近藤が呟いた声は、日本酒の中に消えた。

おわり
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