800字100日チャレンジ!?
焦茶色の髪を逆立て、顎髭を整えた男が三白眼の鋭い目つきで語る。
「あれは、行きつけのスナックに向かってるとこだったんだよ」
○○○
いつもの通り、愛しのお妙さんに会いにいくため、大通りの道を歩いてたんだ。
そこは世間一般の普通の大通り。ここらじゃ、大体の人はそこを通るんじゃないのかな。別に暗いわけでもないし。
で、俺は愛しの女神であるお妙さんに早く会いたいから、急いでその道を通ってたわけ。
そしたらふとさ、なんか視界の端になにかあったわけではないんだけど、なにか横切った気がして、ちらっと横を見たんだ。そこは路地裏だった。
今まで何回もそこを通ってきたけど、路地裏あるなんて知らなかったからさ。俺はびっくりした。
まあ、驚いたけど、路地裏あったんだんだなァとだけ思って、そのまま通り過ぎようとしたんだ。
で、前に視線を戻そうとしたら、前からきたひとりの男がその路地裏に入っていくんだよ。その人、ちょっと身なりのいい感じの人で、え?なんで路地裏に用があるの?って感じだった。
俺はびっくりして立ち止まって、路地裏の方を見た。そしたら、その人はどんどんと路地裏の先に進んでいったんだ。
それで俺は不思議に思って、そのまま立ち止まって路地裏の方を見てたんだけど、定期的に人が入っていくんだよ。スッと、何事もなくさ。
え、この先何があるんだろう……と思って、ちょっと路地裏を覗くだろ?でもさ、中は真っ暗なんだよ。正直、ぞっとするくらいの。
俺は、気味が悪くてそこを足早に離れたんだ。そして、あの大通り通るのをやめようかなと思った。
まあ、愛しのマイフェアリーお妙さんに会うためなら、別の道使えばいい話だしな!
それで俺は、基本その大通りを通るのをやめたんだ。
でも、大通りだろ?基本っていうくらい、そこはやっぱ主要になってるから通るわけで……見回りの時とかさ、よく通るんだよな。で、やっぱ気になるわけだよ。
だから、チラッとそっちへ目を向けちゃうんだよな。そしたら、やっぱり入っていってんの、人が。それも俺が見た全員、戸惑いも一切なく、スッと入っていってるんだ。それを何回も見かけて、何回も同じだった。
まあ、ここまでならなんとなく気味悪いなってだけで済んだかもしれないんだけど、この前決定的なもの見ちまったんだよ。
その時は、総悟と出かける予定だったんだけど、総悟がちょっと用事で少し席を外したんだ。ちょっと暇ができた俺はあの大通りに面したコンビニで立ち読みして、待つことにした。
で、パラパラと男性雑誌を読んでたんだけど、ふと目線をあげたら、そこにあの路地裏があったんだ。
あ、ここあの路地裏近くだったのか……嫌だなぁって俺はちょっとげんなりした。でも、すぐにそれは違和感で潰されたんだ。その路地裏がいつもと違ってたから。人盛りが出来てたんだよ。
いや、人盛りっていうのは語弊あるかな。うーん、どっちかというと行列かな。路地裏に向かって、人が並んでるんだよ。そして、見たくはなかったはずなのになぜかずっと見ちゃって……。
ずっと見てるとさ、なんかその行列が全然崩れないんだ。なんていうんだろ。ずっと行列があるかんじ。進んでるから人は減るはずなのに、減らないの。ずっと最後尾にどんどん人が足される感じっていうのかな。
それも、なんだか普通に歩いてる人が、吸い寄せられるようにその行列に並んでるんだ。
普通、行列があったらさ、どこが先頭かとか、なにで並んでるのかってこうキョロキョロすると思うんだよ。それに、最後尾になにか立て札があるわけでもなかったから、余程じゃない限り、行列に疑いもなく並ぶ人なんていないと思うんだよな。
それが俺が見てる限り、全員疑いもなく並んでさ……。
あ、そうだ。それと、その行列ができるのに、歩いてる人誰も気にしてないんだよ。なんだろ?っていう奴がいてもおかしくないとは思うんだけど、誰も振り向きもしないし、どっちかというと見えてないって感じだった。
さすがに俺も気持ち悪くなってきて、見るのやめてさ、雑誌をラックに置いてコンビニを出ようと思ったんだ。
その時、ちょうど総悟も用事が終わったみたいで、コンビニ入ってきていた。
「お、総悟!用事終わったのか?」
「すいやせんね。ちゃんと諸々を片してきましたよ」
とか何か不穏なことが聞こえた気がしたけど、それは聞かなかったことにして、総悟とコンビニ出ることにした。
そして、移動する前に、やっぱ無意識に気になってたんだろうな、路地裏のほうをもう一回見たんだよ。そしたら、行列が消えてたんだ。
思わず、「は?」って声が出た。だって、俺が目を離したのなんて、1分もかからないくらいだ。それなのに、そんなすぐに行列がさばけるわけがない。もしかして、並んでた人が馬鹿馬鹿しくなって、みんなで散ッ!ってしたのか??
俺は訳もわからずにそっちを見てると、総悟が声をかけてきた。
「どうしたんですか?近藤さん」
「いや……そうだ。総悟、どっちからきたんだ?」
「え、あっちですけど」
と言って、右側を総悟は指差した。
「ならさ、あの、路地裏あるじゃん。あそこに行列あっただろ?」
「え?なに言ってんですか?あの路地裏、すぐのとこ袋小路だからなにもないですよ」
行列なんてできるわけ、と総悟は続けて言っていたが、俺はもうパニックだよ。だって、俺が前に見た時はずっと路地裏の先は続いてるように見えたし、何より真っ暗だったし。
それに、袋小路なのに行列ができていて、なにより行列は動いてたんだよ。先には進んでたからさ……。
俺はもうその事実を突きつけられて、意気消沈しちゃって。総悟には、申し訳ないけど、そのまま一緒に屯所に帰ったんだ。怖かったし。
総悟はそれを聞いて、行きたがってたけど、俺は必死に止めたよ。もしもってことがあるからよ。
あれからも、俺はその大通りを基本通らないようにしてる。通るとしても、頑なにそっちは見ないようにしてるんだ。
だって、次見たら俺も並んじまうんじゃないかって、そんな気がしてさ。
ふっ。
おわり
「あれは、行きつけのスナックに向かってるとこだったんだよ」
○○○
いつもの通り、愛しのお妙さんに会いにいくため、大通りの道を歩いてたんだ。
そこは世間一般の普通の大通り。ここらじゃ、大体の人はそこを通るんじゃないのかな。別に暗いわけでもないし。
で、俺は愛しの女神であるお妙さんに早く会いたいから、急いでその道を通ってたわけ。
そしたらふとさ、なんか視界の端になにかあったわけではないんだけど、なにか横切った気がして、ちらっと横を見たんだ。そこは路地裏だった。
今まで何回もそこを通ってきたけど、路地裏あるなんて知らなかったからさ。俺はびっくりした。
まあ、驚いたけど、路地裏あったんだんだなァとだけ思って、そのまま通り過ぎようとしたんだ。
で、前に視線を戻そうとしたら、前からきたひとりの男がその路地裏に入っていくんだよ。その人、ちょっと身なりのいい感じの人で、え?なんで路地裏に用があるの?って感じだった。
俺はびっくりして立ち止まって、路地裏の方を見た。そしたら、その人はどんどんと路地裏の先に進んでいったんだ。
それで俺は不思議に思って、そのまま立ち止まって路地裏の方を見てたんだけど、定期的に人が入っていくんだよ。スッと、何事もなくさ。
え、この先何があるんだろう……と思って、ちょっと路地裏を覗くだろ?でもさ、中は真っ暗なんだよ。正直、ぞっとするくらいの。
俺は、気味が悪くてそこを足早に離れたんだ。そして、あの大通り通るのをやめようかなと思った。
まあ、愛しのマイフェアリーお妙さんに会うためなら、別の道使えばいい話だしな!
それで俺は、基本その大通りを通るのをやめたんだ。
でも、大通りだろ?基本っていうくらい、そこはやっぱ主要になってるから通るわけで……見回りの時とかさ、よく通るんだよな。で、やっぱ気になるわけだよ。
だから、チラッとそっちへ目を向けちゃうんだよな。そしたら、やっぱり入っていってんの、人が。それも俺が見た全員、戸惑いも一切なく、スッと入っていってるんだ。それを何回も見かけて、何回も同じだった。
まあ、ここまでならなんとなく気味悪いなってだけで済んだかもしれないんだけど、この前決定的なもの見ちまったんだよ。
その時は、総悟と出かける予定だったんだけど、総悟がちょっと用事で少し席を外したんだ。ちょっと暇ができた俺はあの大通りに面したコンビニで立ち読みして、待つことにした。
で、パラパラと男性雑誌を読んでたんだけど、ふと目線をあげたら、そこにあの路地裏があったんだ。
あ、ここあの路地裏近くだったのか……嫌だなぁって俺はちょっとげんなりした。でも、すぐにそれは違和感で潰されたんだ。その路地裏がいつもと違ってたから。人盛りが出来てたんだよ。
いや、人盛りっていうのは語弊あるかな。うーん、どっちかというと行列かな。路地裏に向かって、人が並んでるんだよ。そして、見たくはなかったはずなのになぜかずっと見ちゃって……。
ずっと見てるとさ、なんかその行列が全然崩れないんだ。なんていうんだろ。ずっと行列があるかんじ。進んでるから人は減るはずなのに、減らないの。ずっと最後尾にどんどん人が足される感じっていうのかな。
それも、なんだか普通に歩いてる人が、吸い寄せられるようにその行列に並んでるんだ。
普通、行列があったらさ、どこが先頭かとか、なにで並んでるのかってこうキョロキョロすると思うんだよ。それに、最後尾になにか立て札があるわけでもなかったから、余程じゃない限り、行列に疑いもなく並ぶ人なんていないと思うんだよな。
それが俺が見てる限り、全員疑いもなく並んでさ……。
あ、そうだ。それと、その行列ができるのに、歩いてる人誰も気にしてないんだよ。なんだろ?っていう奴がいてもおかしくないとは思うんだけど、誰も振り向きもしないし、どっちかというと見えてないって感じだった。
さすがに俺も気持ち悪くなってきて、見るのやめてさ、雑誌をラックに置いてコンビニを出ようと思ったんだ。
その時、ちょうど総悟も用事が終わったみたいで、コンビニ入ってきていた。
「お、総悟!用事終わったのか?」
「すいやせんね。ちゃんと諸々を片してきましたよ」
とか何か不穏なことが聞こえた気がしたけど、それは聞かなかったことにして、総悟とコンビニ出ることにした。
そして、移動する前に、やっぱ無意識に気になってたんだろうな、路地裏のほうをもう一回見たんだよ。そしたら、行列が消えてたんだ。
思わず、「は?」って声が出た。だって、俺が目を離したのなんて、1分もかからないくらいだ。それなのに、そんなすぐに行列がさばけるわけがない。もしかして、並んでた人が馬鹿馬鹿しくなって、みんなで散ッ!ってしたのか??
俺は訳もわからずにそっちを見てると、総悟が声をかけてきた。
「どうしたんですか?近藤さん」
「いや……そうだ。総悟、どっちからきたんだ?」
「え、あっちですけど」
と言って、右側を総悟は指差した。
「ならさ、あの、路地裏あるじゃん。あそこに行列あっただろ?」
「え?なに言ってんですか?あの路地裏、すぐのとこ袋小路だからなにもないですよ」
行列なんてできるわけ、と総悟は続けて言っていたが、俺はもうパニックだよ。だって、俺が前に見た時はずっと路地裏の先は続いてるように見えたし、何より真っ暗だったし。
それに、袋小路なのに行列ができていて、なにより行列は動いてたんだよ。先には進んでたからさ……。
俺はもうその事実を突きつけられて、意気消沈しちゃって。総悟には、申し訳ないけど、そのまま一緒に屯所に帰ったんだ。怖かったし。
総悟はそれを聞いて、行きたがってたけど、俺は必死に止めたよ。もしもってことがあるからよ。
あれからも、俺はその大通りを基本通らないようにしてる。通るとしても、頑なにそっちは見ないようにしてるんだ。
だって、次見たら俺も並んじまうんじゃないかって、そんな気がしてさ。
ふっ。
おわり