1〜25日目!
オーダメイド(以下、OM)のお届け日。
「松陽!松陽!今日だよな!」
「何が今日なんですか?甲子園はまだ先ですよ?」
「ちげェよ!!今日だろ、オーダーメイドが届く日!」
「ああ、そうでしたね」
銀時が着物を掴んで揺らしてくる攻撃をものともせず、松陽は洗濯物を畳んでいた。
そう、今日は先日頼んだOMが届く日なのである。銀時は朝からソワソワしていた。
どんな可愛いOMが届くのだろうか。
これからどんな楽しい日々が送れるだろうか。
銀時は考えるだけで、頬が緩んでいくのがわかった。
「えっちはダメだよ」
松陽がどこから取り出したかわからない包丁を手に、にっこりと銀時に忠告する。
「わ、分かってる!」
と冷や汗をかきながら、銀時は松陽から距離を取った。その時、
ピンポーン
と玄関から音がした。銀時はすぐさま玄関へ走り出す。
鼓動がいつもより早い。それと同じように早く早くと足も動いた。
玄関の扉前にはものの数秒で着いた。ドアノブに手を伸ばしたが、まずは逸る気持ちを抑えるために、一回深呼吸をする。
そして、銀時は期待を胸に、ガチャっと扉を開けたのだ。
「あ、ご主人様!オーダーメイドの130番こと、いさおと申しま」
バタン
思わず銀時は扉を閉じた。
そこには、髭面の屈強なメイド服を着た男と思われるOMなのかよくわからない奴が、不良が乗ってそうな厳ついバイクに跨っていたのだ。
誰だって扉を閉じる。俺だってそうした。
しかし、銀時はいやいやと首を振る。もしかしたら先ほどのは幻では?という気がしてきたのだ。だって、そんなあり得ないようなことが起こるか?いや、起こらない。
よし、もう一度確認しようと、銀時は扉を開ける。
「てめェ!何俺らのバイク取ってんだ!」「覚悟できてんだろうな!」「オラオラ!!」
バタン
今度はさきほどの男?がバイクの所有者だろう不良たちにボコボコにされていた。
銀時はまた扉を閉めてしまった。
何が起こっているのか理解が追いつかなかったのだ。
え?なに?盗んだバイクで走り出したの?俺の家まで?なんで?
というか、OMがそんなことするはずない。そう、OMなわけがない。うんうん。
銀時はなんとか自分の考えをまとめようと頭を回転させることに集中した。そして、少し時間が経った頃、なんだか外が静かになったような気がした。終わったのか?とまたこっそり扉を開ける。
「ぷんぷん」
「えーーーーー!!何倒してんだ!!」
銀時が三度目の扉を開け、目の前に広がった光景は、先ほどと逆だった。ボコボコにされた不良たちが道にのびていて、男?が腕を組み無傷で立っていたのだ。
「あ、ご主人様!なんで扉を閉めたんですか?」
「ええ、いや、え、どちら様?」
「もう、ご主人様ったら!もう一度言いますよ!
オーダーメイドの130番こといさおと申します!精一杯ご奉仕しますので、これからよろしくお願いしますね!」
OMだった……こいつが松陽の頼んだOMなの、か?
俺の、俺の、ドキッ!可愛いOMとひとつ屋根の下でらぶハプニング!?計画が……!!
うあああああっ!!
銀時は全身の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
OMのいさおは「ご主人様!?」と、駆け寄ってきたが、それに応える余力は今の銀時にはなかった。
※※※
「いやー、助かっちゃうね。いさおがいると家事が楽だよ」
「ありがとうございます」
洗濯物を畳み、運ぶいさおに、松陽はにっこりと微笑む。
あれから、いさおは洗濯、掃除、昼ご飯の用意と、てきぱきと家事をこなしていた。
「オーダーメイドって本当に助かるね、銀時」
と松陽はニコニコと機嫌良く、銀時に話しかけるが、彼はムスッとしたままソファからいさおを睨む。
思っていたOMと違う。というより、ほとんど正反対の、なにより男のOMがきた。
家事全般のOMは大概女の子設定が多い。いや、今のところ女の子しか出ていないはずだ。それなのに。
本当にこいつはOMなのだろうか。
OMだとしても、本当に家事ができるのだろうか。
と、銀時はいさおに不信感を抱いていた。
そして、あまりにも使えなかったら返品しようと思っていたのだ。クーリングオフは7日までである。
だからこそ、普段の死んだ魚のような目を幾分か光らせて、いさおを見ていた。
しかし、全然ボロを出さない。
いさおは完璧に家事をこなしていた。
ぐぬぬぬと、銀時は下唇を噛む。
このままでは、ドキッ!男だらけの一つ屋根の下生活続行編になってしまう。それだけは避けたい!!
想像するだけで恐ろしい。銀時は一瞬身震いをした。
そんな銀時に気付いたのか、いさおはそちらに振り向き、
「ご主人様、風邪ですか?布団をご用意しましょうか?」
と聞いてきたのだ。銀時はドキッとしたが、何もない!と言ってふいっと、面白くもない昼放送が流れるテレビに視線を逸らしたのだった。
このままではいけない。なにか、なにか対策を……!!
その時、ガチャっとリビングの扉が開かれた。
「それが噂のオーダーメイドか……」
「虚っ!!」
そこには、この一軒家に住むもうひとりの住人、松陽の双子の弟、虚が立っていた。そして、OMのいさおを、胡散臭そうに見下ろしていた。
これは勝ち確!!銀時は内心微笑んだ。
虚は新しい物嫌いだった。最新のもの好きの松陽にぶつくさ文句を言うのが、虚なのである。だから、最近人気だとかいうOMは、虚の嫌いな部類に入ると、銀時は瞬時に察した。ここでOM嫌いになられると、今後の導入が難しくなるのでは?という懸念はあるが、その時はその時である。
このままでは、男3人から男4人のむさ苦しい生活が始まってしまう。それだけは阻止したいのだ。銀時は。
虚、いつもの小煩い小言を今思う存分言ってくれ!!
「この煮物うまいな」
「ありがとうございます」
ズコーーーッ!
漫画みたいな転け方をした銀時を気に留めるものはここにいない。
遅めの帰宅した虚は、いさおが作った昼ごはんを食べていたのだ。酷評するだろうとたかを括っていた銀時だったが、まさかあの虚が褒めると思わなかった。
いつもなら、文句しか言わないのに!!
銀時はまたぐぬぬと下唇を噛むことになった。
「オーダーメイドっていいですね、一家に一台も納得だ」
「次は、おでんがいい」
「かしこまりました」
自分以外で、とんとん拍子に話が進んでいく。松陽も虚も、なんの疑問を持たず、男のOMを、いさおを受け入れている。
違う。俺は、俺は!!
「ご主人様、どうかしましたか?」
いさおが様子がおかしい銀時に声をかける。それもなんだか気に食わない。銀時は立ち上がって、叫ぶ。
「俺は!男のオーダーメイドじゃなくて、女のオーダーメイドが欲しかったんだ!!」
そう言って銀時は家から飛び出していった。後ろから「ご主人様!」という声が聞こえたが、立ち止まらずに、走った。何処へ行くかも決めずに、ただ走りたかったのだ。
OMはただの憧れだ。
みんなが楽しそうにOMの話をする。自慢をする。それが羨ましかった。
可愛い女の子(OM)と過ごすことが、何よりも羨ましかった。
俺だって!俺だって!
可愛いOMに、あーんされたり、膝枕してもらったり、そのほか諸々されたかったんだよォォォ!!
悪いか!!
叫ぶ銀時は悔し泣きしながら、走る。
煩悩を捨て去るように、走る。
何もかも考えないように。
それがいけなかった。
銀時はあまりにも周りが見えていなかったのだ。
トラックが勢いよくこちらに向かっていることに気が付かなかった。気づいた時には、もう遅い。トラックは目の前まで来ていた。
このまま俺は死ぬのだろうか。
ああ、結局俺はおっぱいの柔らかさも知らずに死ぬのか。
銀時は衝撃に備えて目を瞑った。
「ご主人様ーーーっ!」
その時、トラックとは別方向、そう背中側から衝撃があった。誰かに突き飛ばされたのだ。
銀時は道路の反対側の歩道に飛ばされる。咄嗟に振り向くと、そこにはいさおがいた。
いさおが銀時を突き飛ばし、代わりにトラックに轢かれそうになっていたのだ。
あんなに酷いことを言ったのに。
いさおは俺を助けようと。
銀時は手を伸ばすが、いさおには届かない。
「さよなら、ご主人様」
「いさおーーーっ!」
ぐしゃっ!
銀時のぼやけた視界の中で、いさおの体……………
に真っ二つにされたトラックが映る
ん?
………ん?
真っ二つというのも、いさおの体がトラックの正面からぶつかり、そのまま綺麗に割れていったのだ。トラックが。
それは普段見たことない光景だった。
今後も見ることはないだろう光景だった。
何が起こったのか分からない。
トラックが弱かったのか。
いさおが強かったのか。
いやもう、それはどうでもいいかもしれない。
そう、どうでもいい。
いさおと俺が無事なことだけが確かだ。
銀時は思考を放棄した。
「大丈夫でしたっ!」
何事もなかったかのようにその場に立って、ウィンクするいさおに、銀時は尻餅をついた状態で、口を開けることしかできなかった。
おわり
「松陽!松陽!今日だよな!」
「何が今日なんですか?甲子園はまだ先ですよ?」
「ちげェよ!!今日だろ、オーダーメイドが届く日!」
「ああ、そうでしたね」
銀時が着物を掴んで揺らしてくる攻撃をものともせず、松陽は洗濯物を畳んでいた。
そう、今日は先日頼んだOMが届く日なのである。銀時は朝からソワソワしていた。
どんな可愛いOMが届くのだろうか。
これからどんな楽しい日々が送れるだろうか。
銀時は考えるだけで、頬が緩んでいくのがわかった。
「えっちはダメだよ」
松陽がどこから取り出したかわからない包丁を手に、にっこりと銀時に忠告する。
「わ、分かってる!」
と冷や汗をかきながら、銀時は松陽から距離を取った。その時、
ピンポーン
と玄関から音がした。銀時はすぐさま玄関へ走り出す。
鼓動がいつもより早い。それと同じように早く早くと足も動いた。
玄関の扉前にはものの数秒で着いた。ドアノブに手を伸ばしたが、まずは逸る気持ちを抑えるために、一回深呼吸をする。
そして、銀時は期待を胸に、ガチャっと扉を開けたのだ。
「あ、ご主人様!オーダーメイドの130番こと、いさおと申しま」
バタン
思わず銀時は扉を閉じた。
そこには、髭面の屈強なメイド服を着た男と思われるOMなのかよくわからない奴が、不良が乗ってそうな厳ついバイクに跨っていたのだ。
誰だって扉を閉じる。俺だってそうした。
しかし、銀時はいやいやと首を振る。もしかしたら先ほどのは幻では?という気がしてきたのだ。だって、そんなあり得ないようなことが起こるか?いや、起こらない。
よし、もう一度確認しようと、銀時は扉を開ける。
「てめェ!何俺らのバイク取ってんだ!」「覚悟できてんだろうな!」「オラオラ!!」
バタン
今度はさきほどの男?がバイクの所有者だろう不良たちにボコボコにされていた。
銀時はまた扉を閉めてしまった。
何が起こっているのか理解が追いつかなかったのだ。
え?なに?盗んだバイクで走り出したの?俺の家まで?なんで?
というか、OMがそんなことするはずない。そう、OMなわけがない。うんうん。
銀時はなんとか自分の考えをまとめようと頭を回転させることに集中した。そして、少し時間が経った頃、なんだか外が静かになったような気がした。終わったのか?とまたこっそり扉を開ける。
「ぷんぷん」
「えーーーーー!!何倒してんだ!!」
銀時が三度目の扉を開け、目の前に広がった光景は、先ほどと逆だった。ボコボコにされた不良たちが道にのびていて、男?が腕を組み無傷で立っていたのだ。
「あ、ご主人様!なんで扉を閉めたんですか?」
「ええ、いや、え、どちら様?」
「もう、ご主人様ったら!もう一度言いますよ!
オーダーメイドの130番こといさおと申します!精一杯ご奉仕しますので、これからよろしくお願いしますね!」
OMだった……こいつが松陽の頼んだOMなの、か?
俺の、俺の、ドキッ!可愛いOMとひとつ屋根の下でらぶハプニング!?計画が……!!
うあああああっ!!
銀時は全身の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
OMのいさおは「ご主人様!?」と、駆け寄ってきたが、それに応える余力は今の銀時にはなかった。
※※※
「いやー、助かっちゃうね。いさおがいると家事が楽だよ」
「ありがとうございます」
洗濯物を畳み、運ぶいさおに、松陽はにっこりと微笑む。
あれから、いさおは洗濯、掃除、昼ご飯の用意と、てきぱきと家事をこなしていた。
「オーダーメイドって本当に助かるね、銀時」
と松陽はニコニコと機嫌良く、銀時に話しかけるが、彼はムスッとしたままソファからいさおを睨む。
思っていたOMと違う。というより、ほとんど正反対の、なにより男のOMがきた。
家事全般のOMは大概女の子設定が多い。いや、今のところ女の子しか出ていないはずだ。それなのに。
本当にこいつはOMなのだろうか。
OMだとしても、本当に家事ができるのだろうか。
と、銀時はいさおに不信感を抱いていた。
そして、あまりにも使えなかったら返品しようと思っていたのだ。クーリングオフは7日までである。
だからこそ、普段の死んだ魚のような目を幾分か光らせて、いさおを見ていた。
しかし、全然ボロを出さない。
いさおは完璧に家事をこなしていた。
ぐぬぬぬと、銀時は下唇を噛む。
このままでは、ドキッ!男だらけの一つ屋根の下生活続行編になってしまう。それだけは避けたい!!
想像するだけで恐ろしい。銀時は一瞬身震いをした。
そんな銀時に気付いたのか、いさおはそちらに振り向き、
「ご主人様、風邪ですか?布団をご用意しましょうか?」
と聞いてきたのだ。銀時はドキッとしたが、何もない!と言ってふいっと、面白くもない昼放送が流れるテレビに視線を逸らしたのだった。
このままではいけない。なにか、なにか対策を……!!
その時、ガチャっとリビングの扉が開かれた。
「それが噂のオーダーメイドか……」
「虚っ!!」
そこには、この一軒家に住むもうひとりの住人、松陽の双子の弟、虚が立っていた。そして、OMのいさおを、胡散臭そうに見下ろしていた。
これは勝ち確!!銀時は内心微笑んだ。
虚は新しい物嫌いだった。最新のもの好きの松陽にぶつくさ文句を言うのが、虚なのである。だから、最近人気だとかいうOMは、虚の嫌いな部類に入ると、銀時は瞬時に察した。ここでOM嫌いになられると、今後の導入が難しくなるのでは?という懸念はあるが、その時はその時である。
このままでは、男3人から男4人のむさ苦しい生活が始まってしまう。それだけは阻止したいのだ。銀時は。
虚、いつもの小煩い小言を今思う存分言ってくれ!!
「この煮物うまいな」
「ありがとうございます」
ズコーーーッ!
漫画みたいな転け方をした銀時を気に留めるものはここにいない。
遅めの帰宅した虚は、いさおが作った昼ごはんを食べていたのだ。酷評するだろうとたかを括っていた銀時だったが、まさかあの虚が褒めると思わなかった。
いつもなら、文句しか言わないのに!!
銀時はまたぐぬぬと下唇を噛むことになった。
「オーダーメイドっていいですね、一家に一台も納得だ」
「次は、おでんがいい」
「かしこまりました」
自分以外で、とんとん拍子に話が進んでいく。松陽も虚も、なんの疑問を持たず、男のOMを、いさおを受け入れている。
違う。俺は、俺は!!
「ご主人様、どうかしましたか?」
いさおが様子がおかしい銀時に声をかける。それもなんだか気に食わない。銀時は立ち上がって、叫ぶ。
「俺は!男のオーダーメイドじゃなくて、女のオーダーメイドが欲しかったんだ!!」
そう言って銀時は家から飛び出していった。後ろから「ご主人様!」という声が聞こえたが、立ち止まらずに、走った。何処へ行くかも決めずに、ただ走りたかったのだ。
OMはただの憧れだ。
みんなが楽しそうにOMの話をする。自慢をする。それが羨ましかった。
可愛い女の子(OM)と過ごすことが、何よりも羨ましかった。
俺だって!俺だって!
可愛いOMに、あーんされたり、膝枕してもらったり、そのほか諸々されたかったんだよォォォ!!
悪いか!!
叫ぶ銀時は悔し泣きしながら、走る。
煩悩を捨て去るように、走る。
何もかも考えないように。
それがいけなかった。
銀時はあまりにも周りが見えていなかったのだ。
トラックが勢いよくこちらに向かっていることに気が付かなかった。気づいた時には、もう遅い。トラックは目の前まで来ていた。
このまま俺は死ぬのだろうか。
ああ、結局俺はおっぱいの柔らかさも知らずに死ぬのか。
銀時は衝撃に備えて目を瞑った。
「ご主人様ーーーっ!」
その時、トラックとは別方向、そう背中側から衝撃があった。誰かに突き飛ばされたのだ。
銀時は道路の反対側の歩道に飛ばされる。咄嗟に振り向くと、そこにはいさおがいた。
いさおが銀時を突き飛ばし、代わりにトラックに轢かれそうになっていたのだ。
あんなに酷いことを言ったのに。
いさおは俺を助けようと。
銀時は手を伸ばすが、いさおには届かない。
「さよなら、ご主人様」
「いさおーーーっ!」
ぐしゃっ!
銀時のぼやけた視界の中で、いさおの体……………
に真っ二つにされたトラックが映る
ん?
………ん?
真っ二つというのも、いさおの体がトラックの正面からぶつかり、そのまま綺麗に割れていったのだ。トラックが。
それは普段見たことない光景だった。
今後も見ることはないだろう光景だった。
何が起こったのか分からない。
トラックが弱かったのか。
いさおが強かったのか。
いやもう、それはどうでもいいかもしれない。
そう、どうでもいい。
いさおと俺が無事なことだけが確かだ。
銀時は思考を放棄した。
「大丈夫でしたっ!」
何事もなかったかのようにその場に立って、ウィンクするいさおに、銀時は尻餅をついた状態で、口を開けることしかできなかった。
おわり