1〜25日目!

「で、お前は何してんだ?」
「え?普通にマッサージしてるだけだけど?」
近藤がうつ伏せになった俺の上に乗り、肩甲骨辺りを広げようとしてるのか、手のひらでグリッと押す。
力加減が絶妙で、痛みはあるが気持ち良さもある。
デスクワークが基本の教師業。肩はいつだってバキバキだ。
「いや、だからなんでマッサージ?」
「先生が俺をカッたから」
「え?」
「俺、家出れない人とか忙しい人向けに自宅訪ね型のマッサージ屋してんの」
「え?」
「だから言ったろ?
お金くれたら合意って。お金くれなかったら、食い逃げ……じゃなくて、マッサージされ逃げ?になるからな」
ソファの背面とこんにちはしてる俺からは、近藤の顔が見えないが、してやったりって顔をしているのだろう。
そういや、近藤はバイト許可願い書を提出していた気もする。許可書があれば、バイトをしてもいいという学校の方針だ。
いや、こんな怪しいバイト許可しちゃダメだろ!いいのか、あのバカ校長。
俺がぐるぐると思考してる間にも、背骨辺りをゆっくりとなぞるように押してくる近藤。凝り固まった身体が溶けるように感じた。しかし、頬は凝り固まったままだ。
とにかく近藤のバイト許可願い書は明日確認しよう。そうしよう。
「あれ?もしかして先生……えっちなこと想像してた?」
「は?いや、してませんけど!?」
「怪しいなァ、先生って意外でもなくスケベだったんだな」
「うるせェ!!もう寝ろ!!」
マッサージの途中だったが、俺は近藤を背中から退かして、立ち上がった。図星だからではない。もう夜も遅いからだ。夜更かしは成長の妨げになるからな。
立ち上がって、肩を回す。マッサージ前より身体が軽い。強ちマッサージ屋っていうのも間違いではないらしい。何故か、心も軽かった。
きっと近藤が身体売ってるのが、事実じゃないことが分かったからかもしれない。なぜか、しょんぼりしてる部位はある気がしたが、それは気付かないことにしよう。
俺は近藤が寝れるように、客用布団を出そうとクローゼットに向かった。近藤は退かされたまま、ソファに腰をかけて俺の動向を見ていた。
「……ん」
「なんか言ったか?」
「何も。先生のAVの隠し場所はクローゼットの上だなァって」
「それ何もじゃねェだろ」
近藤が笑う。
ただそれだけで嬉しかった。
ただそれだけで楽しかった。
だから、俺も笑っていた。

いや、ただそれは俺が真実から目を背けたかっただけかもしれない。
そうだといいなと思っていただけかもしれない。
ただの現実逃避。
俺は、抗えない。

おわり
34/36ページ
スキ