1〜25日目!
☆前回までのあらすじ!
突如、日常は崩壊した。
謎の異星人が地球に襲来し、攻撃を仕掛けてきたのだ。地球のありとあらゆる武器はほとんど効かず、人類は最後の希望にかける。
人に兵器を移植する。
意思を持つ兵器の使用により、異星人の撃退を初めて成功させた。
しかし、異星人達の攻撃は止むことはない。
人類は、兵器の移植に耐えうる血の子供を探し出し、その子達を最終兵器と名付けた。
最終兵器である近藤は常に傷があり、呼び出されるとすぐに戦場へと行ってしまう。
それに土方はずっと心を痛めていて、ある日「近藤さん、俺と一緒に逃げよう」と彼に提案した。
近藤は笑ってそれを受け入れた。
本編
容赦なくさんさんと太陽が照り付ける夏の午後。
道行く坂の上に、陽炎が見えるほどの炎天下。
さっきから汗が目に入ってくるほど、止まらずに流れる。
この道のりは、こんなにも辛いものだっただろうか?
それでも、俺は自転車を漕ぐのを止めることはできない。しない。
「トシ、変わろうか?」
自転車の荷台に背中合わせで座る近藤さんが声をかけてくる。けど、それに返事してる余裕はなかった。
はぁ、はぁと息をするのもやっとで。喉がひりつく感覚がした。
近藤さんは、それから何も言わずに黙っていた。少しだけ荷台が軽くなったのは気のせいだろうか。必死に漕いでいた俺には、その時は分からなかった。
近藤さんが兵器になったのは、高校一年の冬だった。映画みたいな宇宙人が地球を攻めてきて、今までの日常は一変した。
学校にいてもどこにいても警報が鳴れば、近くの避難シェルターに即移動命令がでる。また、警戒体制が強い地域は、避難させられたり、通行不可になったりすることもある。家に帰れないこともあった。
宇宙人が攻めてきた一年後。意志を持つ兵器を人間は作り出した。それが成功するんだから、人間の技術ってすごいよな。その代わり倫理は投げ出したみたいだが。
それが、限られた子供にしか移植できないって分かった途端に、中学生以上から高校生までの子供全員に血液検査を政府が実施した。さらに、学校で適応能力テストをさせられて、その中から選ばれた子供たち。その子供達は兵器を移植させられる。その中のひとりが近藤さんだった。
最初は、国民からも非道だと反感はあったが、宇宙人を退けたニュースが全国に取り上げられると、英雄だと言って持て囃された。誰も、やめろなんて言う奴はいなかった。
そして、あれから半年。
近藤さんが兵器になって、俺は半年見守ってきた。我慢の限界がきた。
あれから、近藤さんは生傷ばかりが増えていく。傷ばかりが残っていく。学校に来れないことだって多い。
それなのに、近藤さんは笑って、笑って、笑って。
それが俺には辛かった。奥歯を何度噛み締めただろう。
なんで笑えるんだよ。
痛くないのか?苦しくないのか?辛くないのか?
なんで。
だから、俺は言ってしまったんだ。
「近藤さん、俺と一緒に逃げよう」と。
太陽はちょうど真上にある夏の炎天下。俺と近藤さんは学校を抜け出して、自転車で逃避行をする。止まることはできない。1秒でも早くここから逃げないと。
どこに?
それは分からねェ。けど、これ以上、ここに近藤さんといたくなかった。これ以上、近藤さんが傷ついて欲しくなかった。これ以上……
ビーーービーーービーーー
突然、俺のスマホから警報が鳴り出した。
そして、近藤さんのスマホからは、忌々しい政府からの呼び出しの音が鳴り出していた。
「あ、行かなきゃ」
そう聞こえた時には、漕いでいたペダルが軽くなって、俺は盛大に踏み外して、自転車から転げ落ちた。
「ご、ごめん!トシ、大丈夫!?」
俺を包むかのように影が落ちる。振り向いて顔を上げると、近藤さんの背中から無数の機械が伸びていて、それがまるで羽のように広がっていた。近藤さんは太陽を背にしてこちらを向き、首を傾げて「トシ?」と俺を心配している。
逆光で近藤さんの顔が分からない。分からないはずなのに、どんな顔してるか分かる。俺は思わず、奥歯を噛み締めた。
「なんで、なんで平気そうな顔をするんだ……」
「え?どういう」
「なんで!!近藤さんばっか辛い目に会わなきゃなんねェんだ!!もういいじゃねェか。近藤さんが行かなくても政府がなんとかしてくれるだろ!!」
そうだ。近藤さんが行かなくても大丈夫なはずだ。だって、近藤さんが兵器になる前までも、なんとか政府がしてきたんだから。兵器になった他の奴だっている。
だから、大丈夫。今日くらい……。
今日くらい、俺といてくれてもいいじゃねェか。
「トシ……それはそうかもしれないけどさ、俺が守りたいのは、トシ達といる明日だから」
「は?」
「俺が行かなきゃ、トシ達を守れないし、明日が来ないかもしれない。それは嫌だから」
小さくどこかで爆発音が聞こえる。
ああ、もう近くに来ているのか。
すぐそこに来ているのか。
タイムリミットが近づいてきてるのか。
「あ、そうだ!駅前のパンケーキ屋あるじゃん!前からそこ行きたかったんだよなァ。だから、これ終わったら食べに行こうよ、トシ」
そう言って笑う近藤さん。
嘘つき。何回、約束反故されてると思ってんだよ。あの総悟でさえ呆れてたぞ。
「ああ、待ってる」
だけど、そう言うしかないのだ。ただの無力な学生では。
「じゃあ、行ってくるね、トシ」
「ああ」
近藤さんは背中の機械を動かして、爆発音のする方へ飛び去っていった。俺はそれを見送ることしかできない。いつだって、俺は見ているだけしかできない。
影が無くなったことで、太陽がさんさんと俺にまた先ほど何も変わず降り注ぐ。
そう、何も変わらなかった。逃げることさえできない自分が一番腹立たしかった。頬から流れた汗が地面にぽたりぽたりと落ちるのを、俺は気付かないフリをした。
結局俺たちは、パンケーキ屋には行けなかった。
おわり