1〜25日目!
ほんの少し前までは夜でも暖かさを感じていた日々が、今ではすっかり冷え込んでしまい腕を摩る毎日に。
寒さに耐性があっても、寒いものは寒い。
そんな外を出るのも億劫な寒さに震えながらも、俺はある料亭にお忍びで訪ねたのだ。
部屋に入ると、お相手はまだ来ておらず、そこには布団が一式だけ敷かれているだけだった。その先の展開なんて考えなくてもわかる。てか、わかりやすい。まだ来てない相手に心の中で罵倒しておいた。
すぐ来るだろうと、酒と軽いつまみだけを頼み、待つことにした。しかし待てど暮らせど、なかなかに相手は来ない。
日付と時間を指定したのは向こうなんだけど……まあどこかで一悶着あったんだろうな、あいつ恨みたくさん買ってそうだし、なんて。
俺はあいつの心配をしない。あいつも同じはず。どちらも心配したって仕方ない立場なのだから、だって俺たちは……と思ってたら、後ろから急に抱きしめられた。
「え、冷たっ!え、ちょっ、ん、まって!何してんの高杉!」
「うるせェ、あっためろ。寒い」
急に抱きしめてきたお忍びの相手、高杉が乱暴に俺の着流しの隙間から手を入れた。いやいや!突然すぎるし、冷たすぎるし、全然えっちな雰囲気も何ないから!
「いや、先に風呂と飯じゃね!?てか、こんな冷てェやつと俺、シたくないんだけど!」
「すぐあったかくなんだろ、シてれば」
弄る手を高杉は止めずに、しれっと言い放つ。むしろ行為はエスカレートして、俺の弱いトコロを確実に攻めてきた。それに背中から高杉の熱と鼓動を感じて、さっきまでは寒かったのが、嘘のように熱が俺の中から溢れ出そうになる。声も息も出してしまえば、このまま熱が出ていきそうで…‥.俺は唇を噛んで吐息が漏れるのを防いだ。
自分でも驚くほどの単純さで恥ずかしくなる。それをわかっているのか、はたまた楽しんでいるのか、高杉は吐息混じりに俺の耳を甘噛みしてきた。
「ひっ!はぁっ、あ、もう……!」
「お前だって期待してんじゃねぇんか」
期待しない方がおかしいだろっ!という返事は頭の中だけに響かせる。熱が身体の中を渦巻いて、このままでは溶けてしまいそう。
もう、溶け合ってしまってもいいのかとさえ思う。しかしそれだと結局、あいつの思う壺だ。なんだか釈然としないが、せめて布団の上でシたいなァと思っていると、高杉の手が止まった。
一瞬で部屋の中の熱が遠のいた。唯一、俺の呼吸に混じる熱だけが部屋に残るようだ。
抱きしめる力は変わらない高杉に、目線だけを後ろに向ける。あいつはそっと、人差し指を口元に持っていく仕草だけをした。それだけでなんとなく俺は察して、そのまま沈黙を貫く。
ギィッ……ギィッ……
床を踏み締める複数の音がかすかに俺の耳でも聞こえた。耳をすまさなければ聞き逃しそうな音だったが、はっきりと今は聞こえる。そして、それは確実にこちらへ向かってきている。高杉は分かっていたのか、少し笑ってるような気配がした。
俺は目線を前に戻して、傍に置いてある刀を掴もうとゆっくり動こうとした。そう、立ちあがろうと前のめりになるはずだった。それがなぜか進みたい方向とは逆に力が加えられた。
え?と思う間もなく、俺は後ろに倒れ込み、その反動で尻が高く持ち上げられ、その尻を一蹴されたことにより一回転して、そのまま襖の中に転がりこんだ。
いってぇ!!と声を出した時には、襖は閉められ、「高杉晋助!覚悟しろ!」と、高らかな誰かの声が襖越しに聞こえた。
聞き馴染む人を斬る音と悲鳴が襖越しにも分かる。血が飛び散っているだろう情景もありありと浮かぶ。俺を蹴飛ばした男の声は聞こえない。
はぁ、と俺は身体の中で渦巻いていた熱を吐息にのせて出した。なんとも忙しのないやつだ。
真っ暗な押し入れの中で、どうしようかと考える。
今、出て行っても逆に邪魔になるだろうし、てか、あいつ絶対に連れてきたよな……わかってて今応戦してる気がする……じゃあ、なんでエッチしようとしたの?!何考えてんだあいつ!とこの状況を生んだ本人にだんだんと俺は腹が立ってきた。
冷静になってくると、一回転したときに首を痛めた気がして、首筋を摩る。高杉が何故、俺を押し入れに放り込んだのかは察しはついている。この現場が外に漏れないためだろう。もしひとりでも逃せば、どちらの立場も危うくなる。いや、俺の立場が、だ。
本当に高杉がそこまで考えてるかは知らないが、俺は静かになるのを待つことにした。襖の中で膝を抱えて、背中はひんやりする木の壁に預ける。いつまで待てばいいんだか。襖の外はまだ音が重なっていた。
時間の感覚はなかったが、さっきまで温かった背中が、今ではすっかり冷え込んでしまったくらいに時間が経った。
うっすらと意識を外に向けると、静かになっていた。何の音も聞こえない。
終わったのだろう。どっちが?
どっちなんて聞くまでもないだろうが。
それでも少し不安だった俺は、襖に手をかけよう……とするよりも早く、勝手に襖が開いた。
開いた先には、血塗れの男が立っている。余裕な表情と立ち姿から、一目で返り血だと分かった。
「終わったのか」
「ああ」
「血でベトベトだな。やっぱ一旦お風呂に入ったほうが」
言い終わる前に、押し入れから引っ張られキスをされる。立ち上がりきれてない俺と、少し腰を屈めた高杉の、はたから見れば不恰好なふたり。しかし、もうこの場にはたから見る者はいない。
もともと不安定な体勢の上、互いの息を奪い合うようなキスになったから、俺の足は限界を迎えて、高杉の服を掴んだままその場にへたり込んでしまった。気が済んだのか、高杉が身体を起こし、軽く俺の唇を拭う。
「ほら、早く立て。続きは向こうでする」
そう言い、高杉が軽く顎で指示した方向には、布団があった。そう、俺が到着した時にはすでに敷いてあったあの布団だ。そこで俺はようやく今の現状を知る。
部屋中に飛び散る血。
ぴくりとも動かない死体の山。
転がり落ちた鈍く光る赤い刀。
その散々たる部屋の中で、見事に布団だけは綺麗だった。多少の血が付いてるのはご愛嬌の範囲ということで。
「は?ここでするの?!せめて仏さんは外に出そうぜ!」
「こいつらがいるからいいんだろうが」
「変態じゃん!」という俺のツッコミは布団の中に吸い込まれた。先ほどのごとく、また強引に突き飛ばされたのだ。今度は布団の上に。
いくらなんでも俺だって、こんな死体に見られて、見られてはないけど、こんな状況でセックスできる気なんてしない。
抗議しようと振り返ろうとしたが、その上に高杉が覆いかぶさってきたのが分かった。これは逃げられない。
背中から高杉の熱が伝わる。身体はさっきまでのことを思い出したかのように、一瞬で熱が上がった。単純すぎない?と思わないでもない。その上に、高杉は俺の弱いトコロを突く。
「いいだろ?近藤」
熱い吐息が俺の耳から脳にまで入ってきて、溶かしてくる。俺のまともな思考が溶けてどんどんどろどろになって、もう何もわからなくなる。
こ、こんなの断われるわけないだろ……!!
沈黙は肯定らしい。高杉は耳から首筋に移動して、軽く噛んできた。
痛みとむず痒さに顔を横に背ける。目をうっすら開けると、男と目が合った。息絶えた男と。
その時、全身、頭から足のつま先まで何かが俺の中を駆け巡って、布団をぎゅっと掴んだ。何かに掴まらないと、どこかに落ちていきそうで怖くなったのだ。そして、俺はゆっくりと熱い吐息を零した。産みでた熱を外に出すように。
俺が駆け巡った何かをやり過ごしたことを、高杉は知ったのか何なのか上体を起こし、俺の顔を掴み無理矢理、自身の方へ向かせた。
「はっ、良い顔してんじゃねェか」
自身の唇を舐めて、妖しく俺に笑いかけた高杉はそれから、上機嫌に俺への愛撫を再開させた。
良い顔ってなに?自分の顔なんて見えないんだけど。
でも、知っている。
今、自分がどんな顔なのか。
知っている。
本当はこの駆け巡る何かが、ナニカなんて。
知っている。
知っていた。
ああ、息絶えた視線に見られることに興奮してるだなんて!
俺もきっと。
おわり
寒さに耐性があっても、寒いものは寒い。
そんな外を出るのも億劫な寒さに震えながらも、俺はある料亭にお忍びで訪ねたのだ。
部屋に入ると、お相手はまだ来ておらず、そこには布団が一式だけ敷かれているだけだった。その先の展開なんて考えなくてもわかる。てか、わかりやすい。まだ来てない相手に心の中で罵倒しておいた。
すぐ来るだろうと、酒と軽いつまみだけを頼み、待つことにした。しかし待てど暮らせど、なかなかに相手は来ない。
日付と時間を指定したのは向こうなんだけど……まあどこかで一悶着あったんだろうな、あいつ恨みたくさん買ってそうだし、なんて。
俺はあいつの心配をしない。あいつも同じはず。どちらも心配したって仕方ない立場なのだから、だって俺たちは……と思ってたら、後ろから急に抱きしめられた。
「え、冷たっ!え、ちょっ、ん、まって!何してんの高杉!」
「うるせェ、あっためろ。寒い」
急に抱きしめてきたお忍びの相手、高杉が乱暴に俺の着流しの隙間から手を入れた。いやいや!突然すぎるし、冷たすぎるし、全然えっちな雰囲気も何ないから!
「いや、先に風呂と飯じゃね!?てか、こんな冷てェやつと俺、シたくないんだけど!」
「すぐあったかくなんだろ、シてれば」
弄る手を高杉は止めずに、しれっと言い放つ。むしろ行為はエスカレートして、俺の弱いトコロを確実に攻めてきた。それに背中から高杉の熱と鼓動を感じて、さっきまでは寒かったのが、嘘のように熱が俺の中から溢れ出そうになる。声も息も出してしまえば、このまま熱が出ていきそうで…‥.俺は唇を噛んで吐息が漏れるのを防いだ。
自分でも驚くほどの単純さで恥ずかしくなる。それをわかっているのか、はたまた楽しんでいるのか、高杉は吐息混じりに俺の耳を甘噛みしてきた。
「ひっ!はぁっ、あ、もう……!」
「お前だって期待してんじゃねぇんか」
期待しない方がおかしいだろっ!という返事は頭の中だけに響かせる。熱が身体の中を渦巻いて、このままでは溶けてしまいそう。
もう、溶け合ってしまってもいいのかとさえ思う。しかしそれだと結局、あいつの思う壺だ。なんだか釈然としないが、せめて布団の上でシたいなァと思っていると、高杉の手が止まった。
一瞬で部屋の中の熱が遠のいた。唯一、俺の呼吸に混じる熱だけが部屋に残るようだ。
抱きしめる力は変わらない高杉に、目線だけを後ろに向ける。あいつはそっと、人差し指を口元に持っていく仕草だけをした。それだけでなんとなく俺は察して、そのまま沈黙を貫く。
ギィッ……ギィッ……
床を踏み締める複数の音がかすかに俺の耳でも聞こえた。耳をすまさなければ聞き逃しそうな音だったが、はっきりと今は聞こえる。そして、それは確実にこちらへ向かってきている。高杉は分かっていたのか、少し笑ってるような気配がした。
俺は目線を前に戻して、傍に置いてある刀を掴もうとゆっくり動こうとした。そう、立ちあがろうと前のめりになるはずだった。それがなぜか進みたい方向とは逆に力が加えられた。
え?と思う間もなく、俺は後ろに倒れ込み、その反動で尻が高く持ち上げられ、その尻を一蹴されたことにより一回転して、そのまま襖の中に転がりこんだ。
いってぇ!!と声を出した時には、襖は閉められ、「高杉晋助!覚悟しろ!」と、高らかな誰かの声が襖越しに聞こえた。
聞き馴染む人を斬る音と悲鳴が襖越しにも分かる。血が飛び散っているだろう情景もありありと浮かぶ。俺を蹴飛ばした男の声は聞こえない。
はぁ、と俺は身体の中で渦巻いていた熱を吐息にのせて出した。なんとも忙しのないやつだ。
真っ暗な押し入れの中で、どうしようかと考える。
今、出て行っても逆に邪魔になるだろうし、てか、あいつ絶対に連れてきたよな……わかってて今応戦してる気がする……じゃあ、なんでエッチしようとしたの?!何考えてんだあいつ!とこの状況を生んだ本人にだんだんと俺は腹が立ってきた。
冷静になってくると、一回転したときに首を痛めた気がして、首筋を摩る。高杉が何故、俺を押し入れに放り込んだのかは察しはついている。この現場が外に漏れないためだろう。もしひとりでも逃せば、どちらの立場も危うくなる。いや、俺の立場が、だ。
本当に高杉がそこまで考えてるかは知らないが、俺は静かになるのを待つことにした。襖の中で膝を抱えて、背中はひんやりする木の壁に預ける。いつまで待てばいいんだか。襖の外はまだ音が重なっていた。
時間の感覚はなかったが、さっきまで温かった背中が、今ではすっかり冷え込んでしまったくらいに時間が経った。
うっすらと意識を外に向けると、静かになっていた。何の音も聞こえない。
終わったのだろう。どっちが?
どっちなんて聞くまでもないだろうが。
それでも少し不安だった俺は、襖に手をかけよう……とするよりも早く、勝手に襖が開いた。
開いた先には、血塗れの男が立っている。余裕な表情と立ち姿から、一目で返り血だと分かった。
「終わったのか」
「ああ」
「血でベトベトだな。やっぱ一旦お風呂に入ったほうが」
言い終わる前に、押し入れから引っ張られキスをされる。立ち上がりきれてない俺と、少し腰を屈めた高杉の、はたから見れば不恰好なふたり。しかし、もうこの場にはたから見る者はいない。
もともと不安定な体勢の上、互いの息を奪い合うようなキスになったから、俺の足は限界を迎えて、高杉の服を掴んだままその場にへたり込んでしまった。気が済んだのか、高杉が身体を起こし、軽く俺の唇を拭う。
「ほら、早く立て。続きは向こうでする」
そう言い、高杉が軽く顎で指示した方向には、布団があった。そう、俺が到着した時にはすでに敷いてあったあの布団だ。そこで俺はようやく今の現状を知る。
部屋中に飛び散る血。
ぴくりとも動かない死体の山。
転がり落ちた鈍く光る赤い刀。
その散々たる部屋の中で、見事に布団だけは綺麗だった。多少の血が付いてるのはご愛嬌の範囲ということで。
「は?ここでするの?!せめて仏さんは外に出そうぜ!」
「こいつらがいるからいいんだろうが」
「変態じゃん!」という俺のツッコミは布団の中に吸い込まれた。先ほどのごとく、また強引に突き飛ばされたのだ。今度は布団の上に。
いくらなんでも俺だって、こんな死体に見られて、見られてはないけど、こんな状況でセックスできる気なんてしない。
抗議しようと振り返ろうとしたが、その上に高杉が覆いかぶさってきたのが分かった。これは逃げられない。
背中から高杉の熱が伝わる。身体はさっきまでのことを思い出したかのように、一瞬で熱が上がった。単純すぎない?と思わないでもない。その上に、高杉は俺の弱いトコロを突く。
「いいだろ?近藤」
熱い吐息が俺の耳から脳にまで入ってきて、溶かしてくる。俺のまともな思考が溶けてどんどんどろどろになって、もう何もわからなくなる。
こ、こんなの断われるわけないだろ……!!
沈黙は肯定らしい。高杉は耳から首筋に移動して、軽く噛んできた。
痛みとむず痒さに顔を横に背ける。目をうっすら開けると、男と目が合った。息絶えた男と。
その時、全身、頭から足のつま先まで何かが俺の中を駆け巡って、布団をぎゅっと掴んだ。何かに掴まらないと、どこかに落ちていきそうで怖くなったのだ。そして、俺はゆっくりと熱い吐息を零した。産みでた熱を外に出すように。
俺が駆け巡った何かをやり過ごしたことを、高杉は知ったのか何なのか上体を起こし、俺の顔を掴み無理矢理、自身の方へ向かせた。
「はっ、良い顔してんじゃねェか」
自身の唇を舐めて、妖しく俺に笑いかけた高杉はそれから、上機嫌に俺への愛撫を再開させた。
良い顔ってなに?自分の顔なんて見えないんだけど。
でも、知っている。
今、自分がどんな顔なのか。
知っている。
本当はこの駆け巡る何かが、ナニカなんて。
知っている。
知っていた。
ああ、息絶えた視線に見られることに興奮してるだなんて!
俺もきっと。
おわり