1〜25日目!

それは急に、くる。
驚くほど、急に。
魔女が一撃を食らわせるように。
急に。

「あっ!!」
「あ?」

近藤がいきなり声を上げた。何かを見つけたのか?と、高杉は彼の方を見る。
しかし、そこには近藤が屈んだまま止まっていただけだった。
「おい」と声をかけても、近藤は返事しない。訝しんだ高杉が、もう一度声をかけようとした時、ゆっくりと近藤が前に倒れいった。
「は?おい、近藤!」
「待って、高杉!触らないで!振動を与えないで!!」
駆け寄る高杉に、近藤は必死に制止の言葉をかける。高杉は駆け寄るのを止めて、彼を見る。そして、近藤はそのまま前に倒れていって、いわゆる四つん這い状態になっていった。
「どうしたんだよ」
「魔女の一撃が」
「は?」
「腰が殺られた」
そう言って、彼は今度はそのまま横に倒れた。そこで、高杉は理解した。
いわゆる、ぎっくり腰。
近藤はぎっくり腰になったのだ。
「何事かと思っただろ」
「何事もなにもなくねェよ!!痛すぎる〜〜立てない〜〜」
高杉はため息を吐いた。
今、高杉と近藤は、年末に向けて片付けをしていた。あれはいらない。これはいる。いるなら、どこにしまおうか。
というように、ふたりで部屋のものをどんどんと片付けていた。
その途中で、近藤が思い出の品を詰めた段ボールを持ち上げようとした時。
そう、その時だった。魔女が近藤に一撃を食らわせたのは。
「本当に急なんだな。こんなことになるなんて。立ち上がれない。てか、動くだけで痛い。助けて、高杉」
「触るなって言っただろ」
「触らないで欲しいけど、助けて欲しい」
「高難易度すぎるだろ」
身動きしない近藤を、高杉は見下ろす。近藤は本当に痛いのだろう。笑顔が引きっつっていた。
「はァ、あとは俺がしとく。てめェはもう休んどけ」
「高杉、優しい〜!ついでに布団もってきて、動けないから」
「それくらい動け」
「出来たら苦労しない」
リビングから出ようとした高杉だが、振り返るとピクリとも近藤が動いておらず、足を止める。
「それ本当か」
「ガチ。いやー、怖いなァ、魔女の一撃」
「分かった。とりあえず床は冷えるから、どうにか絨毯に移動しろ」
「確かにそれはそう。ちょっとどうにか動く」
そう言って、芋虫のように近藤はゆっくりと動いていった。それを見送ってから、高杉はキッチンに向かう。
そしてキッチンで、ミルクを温め、その中にチョコを一欠片入れる。ぐるぐるとスプーンでかき混ぜて、美味しい温かいチョコミルクの完成である。
短い時間だが、冷たい床の上で寝転がっていたから、身体も冷えてるだろうなと考えて。
試しにひとくち飲むと、口の中に甘みが広がる。
俺も、大概あいつに甘いな。
と、高杉はふと笑った。
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