1〜25日目!
だからやめろって言ったんだ。
だからあの男は危ないって言ったんだ。
なんで分かってくれないんだよ。
近藤さん。
「本当に行くのか?」
「そうだけど、なんで?」
近藤さんはなぜそんなことを聞くのかと言いたげに、俺を見る。
今から近藤さんは誰かも知らない相手に抱かれに行くらしい。いわゆる、身売りをする。
あの男のために。
「他の男に抱かれるんだろ?嫌じゃないのか」
「嫌とかそんなこと言ってられないだろ。晋助、今月厳しいらしいから。俺がなんとかしないと」
当然みたいな顔をして、近藤さんはスマホを操作していた。
俺は唖然とする。分からない。
身売りをする近藤さんも。
それを強要するあの男も。
そんなの。
「いや、おかしいだろ……!
なんで近藤さんがあいつのために身売りなんてするんだよ!!
なんで近藤さんが汚れなきゃなんねぇんだ!?
目を覚ませよ、近藤さん!!
あいつは、近藤さんのことをなんとも思ってないんだぞ?」
それを聞いた近藤さんは、スマホを操作していた手を止めた。
やっと分かってくれたのか?
近藤さんは顔を上げて、俺を見る。
俺はゾッとした。
今まで俺が見たこともない、冷たい目で近藤さんは俺を見る。
「俺は俺のために身売りする。誰に抱かれても、晋助がそれを肯定してくれるならいい」
俺は頬がひりつくのを感じた。
何を言ってるんだろ。
この人はこんなことを言う人だっただろうか。
「もういい?行かなきゃ」
近藤さんがここから去ろうとする。俺は咄嗟に近藤さんの腕をひいて、抱きしめた。
「俺だったら……っ!」
そこから言葉が出なかった。
近藤さんを幸せにするから。
とは言えなかった。唇を噛み締める。
バクバクという心臓の音が聞こえなければいいのに。
俺は、近藤さんを抱きしめる力を強める。続きの言葉が出ない代わりに。強く強く。
本当は分からない。
俺が近藤さんを幸せにできるのか。
近藤さんの幸せを俺が叶えれるのか。
俺の幸せってなんだ。
近藤さんの幸せってなんだ。
俺は。俺は。俺は。
何も分からないけど、このまま近藤さんを行かせてはいけない。
それだけは俺の本心で。
ただ行かないでほしいと、心で願う。
だけど、近藤さんはそっと俺の胸を押し退ける。俯いていて顔が見えない。
「トシは肝心なことを言ってくれないよな」
そう言って、近藤さんはそのままこちらを見ずにこの場を去った。
いつの間にか口の中には血の味と匂いが充満していた。
なぜ、こんなことになったのか。
俺はただ昔みたいに、近藤さんと話したいだけなのに。傍にいたいだけなのに。
ただそれだけなのに。なぜこんなことに。
そこで、ふと思いついた。いや、口の中に広がる血の味が教えてくれた。
「あいつを殺せば、近藤さんは救われるんじゃねぇのか?」
あいつがいるから、近藤さんは狂ってしまった。なら、元を断つしかないじゃないか。
もう誰が正しいなんかどうでもいい。
近藤さんが元に戻るなら。
おわり