1〜25日目!

高杉あいつに出会った。
前世では敵同士だったけど、恋人と言っていいかは分からないけど……好きな人。
秋は駆け走り、これからは長い長い冬が訪れることを感じさせる寒い夜。
それなのに、あいつをみた瞬間、身体中の熱が上がった。
覚えているだろうか。
あの時代のこと。
自分のこと。
好きだったこと。
前から歩いてくる彼に、ドキドキする。
声をかけようか、迷う間にも、彼は近づいてくる。
どうしようどうしよう。
今年初めてのマフラーを少し下ろして、深呼吸をする。
気づいてくれるだろうか。
声をかけようとした時、俯いていた彼は顔を上げ、一言。
「邪魔だ、どけ」


「あれは本当にひどいよね。あの時のブロークン純情乙女心返してほしいんだけど」
「は?いつの話してんだ?」
「2年前の話してるけど?」
ソファの上で並ぶ成人男性ふたり、近藤と高杉は借りてきた映画を見ていた。次の日にふたりの休みが被ったため、徹夜で映画鑑賞するか!という近藤の提案で、現在シリーズものの映画、二作品目を鑑賞中のふたり。
前回で恋人になった男女だったが、事故で男が記憶喪失になり、女が男に会いに病室に訪れた際、「あんた、誰だ?」と男が言ったシーンの後に、近藤の先ほどのセリフがこぼれ出たのだった。
「ああ」と、高杉は思い出したようだが、どうでもよさそうな返事をし、机にある菓子を口の中に放り込む。
高杉の態度は長い付き合いで分かっていたが、それでも頬がひきつり彼を睨んだ。
高杉はちらりと近藤の方を見るが、彼の前にあったマグカップを持ち上げ、「追加なにするんだ」と聞いた。なにも響いてないようである。
「コーヒーでいい。まだ二作品目だし」
「はいはい」
そう言って、高杉は自分のマグカップと一緒に台所へ持って行った。近藤はため息をつき、視線を画面に戻す。涙をこらえる女が男に「友達よ、あなたとは」と答えていた。男はホッとしたような顔をして、女に笑顔を向けた。
恋人だったやつに、まだ好きなやつに、友達ってよく言えるなぁ。いや、言うしかないだけなのか。
まるで自分みたいで、近藤は背筋が寒くなったような気がした。ソファの上で膝を抱える。
女が無理に笑ってるのをみて、近藤はぐっと唇を噛み締めた。

「結局、高杉は俺とは友達でいたいってことだろ……現世では。そんなの分かってるけどさァ……」

分かりたくない。
前世、あの時は、言葉も身体も深く深く睦み合った。限られた時間で、どこまで混ざり合えるか、深く深くふたりは繋がりを求めていた。
それなのに、現世では最悪の出会いから始まり、「なんでもとりあえず友達からだろ?」と高杉はかして、2年も友達でいる。恋人ではなく、友達。
でも、時々、恋人になりそうな雰囲気を高杉が漂わせる時がある。もしかして、と思わせる。しかし、高杉は友達止まりをさせる。

「期待させんなよ、ばか」

近藤は膝の間に顔を埋め、絞り出すように声を出した。
俺はあの蜜時を知ってる。
そして、今はあの時みたいに、こっそりと罪悪感を抱えずに、過ごせることを知ってる。
あいつだって知ってるはずなのに。
バカみたいじゃねぇか。
俺だけが好きみたいで。

「馬鹿じゃねぇよ、折角の機会だから楽しんでるだけだろ」

恋人じゃない時間を。
そう背後で言う高杉に、近藤は驚いたように彼の方を向く。高杉は笑って、近藤にあたたかいマグカップを渡す。
なにを?え、それは都合よく聞き取ってもいいのか?
近藤の中で、先ほどの言葉がぐるぐる回る。期待なんてしちゃいけないのに。そんなのこの2年間で痛いほど分かってるのに。ずるいずるい。
なかなかに近藤が受け取らないから、高杉はふたつのマグカップを持ったまま、彼の隣に座った。
再び睨む近藤だったが、今度は頬が若干赤い。高杉は得意げに笑い、自身のカップに口をつける。

「そんなの期待しちゃうじゃん」
「期待していいんじゃねェか」

ああ!だからそんな言い方ずるいって!!
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