優しい味


皆が畑で採ってきてくれた新鮮な野菜が料理を一層に色鮮やかにする。

大勢いる男士達の腹を満たすための食事を作るのは結構な労働にはなるが、作り甲斐があるというものだ。

そろそろ主も帰ってくる頃だろう、今日はこの本丸の優秀な戦歴を認められて政府から表彰とやらをしてもらえるらしい。

主が数日前にその通達を受けた時はそれは嬉しそうで、「表彰と一緒になんか貰えたりするのかなぁ?」なんて笑ったり、朝は着慣れないパンツスーツに袖を通し「お土産買ってくるね!早く帰ってくるからね!」とブンブンと腕を振って本丸を出た。

その有り余る元気な姿を思い出し、雅じゃないなと口にしながら微笑んでしまう自分がいる。

「みんなーー!帰ったよーー!」

玄関戸をガラガラと開く音と共に明るい声が響く。

短刀達に迎えられているのだろう、きゃっきゃっとはしゃぐ声がそう広くないこの本丸では台所まで届いていた。

少しして「かーせんっ、ただいま!」とひょこっと入り口から現れた。

「おかえり、まったく君は行く時も帰ってくる時も騒がしいな。」

野菜を切る手を止めずに言うと

「えへへ、ごめんごめん!あっ、お土産も買ってきたよ!じゃじゃ〜ん、ケーキ!ご飯食べ終わったら皆で食べようね!」

そう言って手に掲げたケーキが入っている白い箱を大事そうに冷蔵庫の中へ入れる。

「それで?表彰とやらはどうだったんだい?」

「…あぁ…うん、すごい褒めてもらったよ。」

パタンと冷蔵庫が閉じられ、てっきり嬉しそうに話し始めるものだと思っていたのに急に言葉を濁すのが気にかかり、野菜を切る手を止めて主を見やる。

まだ冷蔵庫に体が向いていて表情は分からない。

「…何かあったのかい?」

「っ、ううん…あ、これが表彰状だよ!報酬として資材もくれたんだけど、量が結構あるから後で送るって言ってた!それより今日の晩ご飯何?歌仙が作ってくれるご飯は全部美味しいからなぁ〜!」

パッと振り返って黒い筒を見せながらぎこちない笑顔で寄ってくる。

その様子から確信に変わり包丁を置き、じっと見つめる。

「主、僕にまで無理に笑わなくて良い。一番長い付き合いじゃないか。」

そう言うと先程まで笑っていた顔は崩れて瞳からぽろぽろと涙が溢れ出した。

震える声で「歌仙…」と呟いてぎゅっと子供のように抱きつく主の小さく震えた体を守るように、そっと抱き返した。
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