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前途洋洋

「くっ........」




「俺は両親の敵なんだろう?その正当な罰だ...クククッ小僧俺は人殺しをしたぞ?これが罰だよぉ...言ってたよな...唯じゃぁ...すまねぇってなぁ!!」



くそ...なんで反撃をしない。なんで...体が動かない...なんで俺は倒れている
母上、父上は...俺のせいで...俺の我儘のせいで...俺は何も守れなかった...二人の言う通りだ...まだまだ俺は...幼いんだ。何も出来やしない。この手で憎き敵を斬る事も出来ず、その敵に斬られている。こんな両親を守る事の出来ない子供なんて...最悪だ。



ピーーっ、ピーーっ...




「こ、国司様!役人に嗅ぎつけられました!」




「ッチ...引くぞ」




「ま...てぇ」




「クククッ...小僧母さんと父さんにすまねぇって言っといてくれよぉ」



ザッザッザッ...




クソっ...


胸から脇腹にかけて浅いとは言い難い傷から一刻一刻と時間が過ぎる度に血は流れ出してくる。
もう駄目かもな…そう思った瞬間、意識はもうなかった。




そんな最中でも、しんしんと降る雪に血は満開に咲く。
積もった雪は銀時の体に溶けて染みていく。程遠い彼方を見据えるような透明な雪が染みていく。それは黒髪に混ざり染みていく雪はだんだんと増え黒色は流れていく。

すると銀時の頭の周りには黒薔薇が咲いた。
そして黒髪の変わりに透明な雪の色をした髪が銀時の頭を包んでいた。

何とも幻想的な現象...人の髪が変わるなど空前絶後の事柄だろう。
両親を自分の過ちで失くしたという罪悪感、その両親に手を掛けた憎き敵に自分すらも敗れ己の弱さに痛感する哀しみの奥底に眠る怒りから、体もと共に混ざっていった感情が露になったのだ。

「おい!子供が倒れているぞ!」



男の雄叫びと、子供の叫びを聞いた農民が役人へ通報したのだろう。立派なお屋敷には役人で溢れかえっていた。



「何だと?子供にも手を出したのか!!人殺しめ!」



「急いで救命隊を呼びましょう!」





ーーーーーーー








ピッ、ピッ、ピッ、...



部屋に響く機械音がぼーっと耳に流れてくる。
消毒薬がツンっと臭う。
淡い蝋燭の暖かい光が自然と心を馴染ませる。


「生きて...いるのか...俺は」


音が聞こえるのが不思議だった。匂いを感じるのが不思議だった。
そして、心がこれ程にまで落ち着いているのが不思議だ。




「なんで...俺...」



「ってぇ!!」

急に飛び上がるように起きたのが悪かったのだろう。あの国司とやらに斬られた傷口が抉られるように痛んだ。




「お、お前目覚めたのか!?大丈夫か!」




切羽詰まったような声がした方を見ると役人だろうか、立派な刀を持った男の人が立っていた。




「大したことじゃねぇさ。なぁ、ここ何処だ?」




「施薬院だよ。子供がそんな大怪我を負っているのに大したことじゃねぇなんざ言わないよ。丸二日寝てたんだぞ。」




「そうか...」

「なぁ、此処って誰が建てた施薬院だ?」




「そいつぁ勿論、国司様で...それがどうしたのか?」




「何でもねぇよ」





「...まぁ、安静にしておけいつその傷開くか分からんからな...」




「あぁ...」




「聞きたいことがある...だが、これはお前が元気になったらなあと、そこに飯置いてあるからちゃんと食べとけよ…」




「...飯っ!」



その時6歳の子供が丸二日。ましてや、体に傷があるにも関わらず何も食べていない。飯という言葉を聞いて生理的欲求があるがままに動いた。
時刻はもう夕方の終わりを示していた。
体に優しそうなお吸物と、白米、脂ののった鮭にお浸し。どれも母の味ではなかった。
そう思った瞬間心を締め付けていた縄がスルスルと解けていった。


「...っ、ひっく...う...っく、ひっく、は、はうえっく、」



ご飯に涙が入って塩辛い。辛くていけねぇや。
無我夢中に食べて、すっかり完食した時にはも日は暮れていた。
泣きつかれていたのと、傷の回復を促す為にもう寝る事にした。



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