前途洋洋
昔、山の中にある田舎町に一軒の屋敷があった。其処にはたわいも無い親子がいた。
少し違うのは子供の目が赤いことだった。
「銀時、早く家に入りなさい」
「うん」
子供は庭で咲いた花を見るのをやめ、父の元へ走っていった。
「いいか銀時、日が落ちてきたら家に帰る事を忘れぬようにな」
「分かったよ、父上」
「そうだ銀時、今から私はある国司に会わなければならない。母さんと一緒に留守番を頼めるか?」
そう言いながら父は子供の頭を撫でた。
「はい、任せてください!気を付けて、父上」
そして子供はビシッと手を頭に添えた。
「あぁ、銀時も悪い人にはついて行くなよ」
「はい!父上」
「おぉ、いい返事だ。では行ってくるな」
「行ってらっしゃい」
ザッザッザッ…
「行っちゃった…母上、父上に留守番を頼まれました。母上も一緒に留守番をしましょう」
そう声を高ぶらせながら、子供は母のいる部屋へ駆けていった。
「フフフッ、またあの人はお前に託しごとをしたのかい?しょうがない、銀時、こっちへ来な。一緒にその留守番とやらをやろう」
「はい!母上」
そう返事をして子供は母の座っている隣に座った。
「お前は返事だけはいいのだがな…そうだ、銀時今日家の裏に住んでいる猫の住処を弄っただろう。猫が困っていたぞ」
「俺は木の上にただ寝るのは可愛いそうかと思って毛布を木に掛けただけだよ。」
「そうか、お前はいい事をしたと思ってるが猫かりゃ見りゃ有難迷惑ってやつさ。分かるか?」
「分かんないや。」
「そうか、六歳のお前には分からなくともしょうがない。」
「そうだ母上、なんで俺の名前は銀時なの?」
「ん?お前の名前かい?それは、銀ってやつは金よりも鈍い。けどいざとなれば金よりも鋭く光りを放つ。分かるか?」
「うーん、何と無く」
「そうか、つまりだな銀は金より劣るが偶に銀の方が魅力はあるって事さ。」
「そっか。じゃあ銀はジャ●アンと同じなんだ!いつもはあまりいい印象はないけど、の●太を助けたりいい事をするととっても良い奴に見えるってやつだ!」
「ハッハッハッハ!面白いな銀時、まぁそういう事さ。その銀ってやつに時を付けたのさ。時ってのは…まぁ銀って名前じゃ変だろ?だから銀時にしたのさ。」
「そっか、俺の名前ってやつは贅沢だな」
「?何でだ?」
「だって、母上はいつも考える事なんかそうそう無いのに、いっぱい考えて作った物だから」
「銀時…ちょっとはいい事言うんだなぁ…じゃあ私がいい事やってあげるよ…銀時こっち向いてご覧よ」
「うん!何なに!」
ムニュ…ギューーーーーッ…
「いだダダダダダ!ひょっ!(ちょっ!)ふぁふぁふえ?!(母上?!)」
「なんだぁ、銀時…母上はそうそう考え事はしないだと?いっつも頭秒速百尺で頭回転させとるわぁぁ!!」
「ひっ!ごめんなひゃい!」
そして母は子供の頰を離した。
「いててっ…」
「まったく…そうだ銀時、いつものをやろう。」
「?あ、あれか!」
「こっちへおいで」
そして母と子供が向かった先には広さ四十畳間程もある部屋へと移った。
そして母が壁に立てかけてあった物を二つ手に持ち、子供へ一つ渡した。
「よし、やるぞ」
スパンッ…
タンッ…
「腕だけじゃなくて、体全体をしならせるようにやれ」
「…っ!」
首を縦に振ったその子供。
そう、彼らは剣術の稽古をしていた。