サークル『まぐかっぷ』の舞台裏
『絶対に開けてはなりません』───なんて、何処ぞの昔話かっつの。
って言うか、態々そんな宣言して引き籠もってるとか、ただの開けろフラグだろっつうか、寧ろ『待ってますから開けてくださいねてへぺろ☆』って事だろっつうか。
まあそんな勘繰りしなくても此処に突っ込んでくる『一般人』なんて居ないだろうけど。
そんなこんなで今現在、あたし達は謎の『封印』が施されたマグの仕事部屋に居る。
但し、仕事してる訳でも、休憩としてお茶してる訳でもない。
…ああいや、微妙な金銭収入に関わるんだから仕事っちゃ仕事なのかな?
兎も角、本来の仕事をしてる訳でもなく、みんなで集まってはいるものの、わいわい雑談してる訳でもない。
なら何をしてるのか、と言えば。
「ちょっと、黒インク切れちゃったわよ」
「あっちの棚に買い置きがありますからそれ使ってください」
「えーっと、こっからここまで誤字チェック終わったんだけど?」
「わかるようにしてそこに置いといてください。で、次はコレです」
「はやっ!?」
…何て言うんだろう、コレは。
「修羅場、って言うのよ」
ニッコリ笑顔で(心を読んで)答えてくれるミシア姉さんは美人である。
…それはさておき、修羅場とか言うと普通は犬も食わないよーな男女の喧嘩の激しいヤツを想像すると思うんだけど、これは明らかに違う。
雰囲気は確かに、言葉の印象に合ってるけども。
要するに、『〆切に追われる作家』の気分を体験している訳だ。
言っとくけどこの場の誰も作家じゃない。
マグは術士で、あたしとミシア姉さんは遊撃隊員で、クラウに至ってはお姫様もとい次期皇帝だ。
作家でなんかある訳が無い。
社会的地位は結構どころかかなり良い(この中じゃあたしが一番下っ端だ、間違い無く)方の女共がこんだけ寄り集まって、やってる内容がこんなんだと知ったら………閣下辺りは、泣くかも知れない。
クラウがどうこうというより、マグの本性という意味で。
珍しく「もし手が空いてたらこの辺で遊びに来てくださいよ」なんて誘うから何かと思えば、コレだ。
手伝わせたいなら手伝わせたいと最初にハッキリ言いたまえよ。
そしたらクラウは置いてきたよ。全力で。
「マグってば何をあんなしゃかりきになって」
「今度のイベント合わせで出す新刊に友達が凄いの寄稿してくれたから滾っちゃってしょうがなくて、自分ももっと書くんだって躍起になってるのね」
「『今、百合がアツい!!』って叫んでたの、その所為だったのか…」
「でもアレは私も萌えたわよ?可愛いじゃないああいうの。だからつい挿絵を」
「…え、コレ元から自分で描いてたの?」
「そうだけど?」
「あたしゃてっきり寄稿とかいうやつの一環かと」
「今回イラストを頼んでるのは表紙だけよ、中身は他にも色々あるけど。私は気が向いたから描いただけ」
「わあ」
合間合間に雑談するあたしとミシア姉さんやずっと不機嫌そうにしてる(と言うよりいっそおどおどしてるようにも見えるが)クラウをよそに、マグ当人は延々タイプライターと睨めっこ。
ついさっきまではひたすらガリガリ何かを書き付けていたものの、決定稿?が出来たのか、仕上げにかかってるらしい。
あんな高そうなタイプライターから生み出されるのがアレか。
優秀な子に余計な趣味(一種の才能?)を持たせてしまった結果がごらんの有様だよ!
※※※
そんなこんなで1日が終わった、そのまた数日後。
今度は向こうからやって来た。
『手伝ってくれたお礼』と称して1冊の本(市販のそれより大分ペラいけど)を手渡すマグが妙につやつやしてるのはさておくとして、あたし的には、当然のよーにその横に居るミシア姉さんが矢鱈でっかいバッグを背負ってる方がよっぽど気になる。
…いやね、他にもツッコみたい事は山ほどあんだけどね。
「『まぐかっぷ』って何」
「わたしのサークルの名前です」
「サークルって何」
「えっとぉ…同好会の中の固有名詞と言うか、要するにペンネームみたいなモノというか」
「なにそれ。って言うか『まぐかっぷ』って『マグカップ』じゃないの?コップ?」
「違いますよ、『マグダレーナのカップリング』、略してマグカップです。わかりやすいでしょ?字面はそっちの方が可愛いかなって」
「あ、そう…」
兎も角、あのバッグの中身は何だ。
「そうそうそれですよ!実はふたりに、特にクラウにお願いがありましてぇ」
…なんか地雷っぽいモノを踏んだ気がするが、一番の標的が自分じゃなかった事に若干ほっとした。
クラウごめん。
「厭」
「聞く前から断らないでくださいよ」
「だって嫌な予感しかしないじゃない!」
「大丈夫ですよ簡単ですから」
「簡単って、何が」
曰く『コスプレしようよ』。
「勿論会場で着てくれとは言いません、この場でちょっと写真撮らせてくれれば大満足です。露出が厭なら顔はぼかすか化粧で誤魔化します」
「絶ッッッ対に嫌」
「えーっ、いいじゃないですかぁ。だってこないだ『このスラッシュ、いい』って言ってたじゃないですかぁ。衣装も鬘も用意してあるんですよ、ホラ」
「確かに言ったわよ、言ったけど!キャラクターとして憧れるのとコレは別でしょ!!」
「…わかりました。じゃあわたしが個人的に楽しむだけにすると誓いますから、1回でいいんで着てください」
「それでも嫌だったら!!」
「えーっ、クラウの顔立ちとスタイルでコレは理想なのにぃ…」
ああだこうだのやりとりを尻目に、用意したという衣装やら何やらを検分してみた。
すげえや、手作りだ。
しかもクオリティたけえ。
「私が作ったのよ」
さいですか。
って言うか姉さん暇ですね。
「…あれ、ワンピースもある」
「ああそれはマグが着たいって言うから。『合わせ』が目標だったみたいね」
「なにそれ」
「簡単に言うと、カップルだのコンビだのグループだのを再現する事ね」
「あー、大体把握」
つまり、マグはあの話の実写コマを作りたかった訳か。
…や、するってーとクラウがマグにちゅーしなきゃならない訳で、要するに、
無理だろ。
「そう?私は見たいわよ」
「えええええ」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。私だってお姫様に似合うと思ったから衣装作ったのよ。素直に着てくれるとは思ってないけど」
…インクの汚れが若干色素沈着してる指先が見えてる状態でソレを言われると、『修羅場』の空気を思い出す気がする。
つうかあんた一応マグと恋仲でいーんだよね?
他者とのちゅーを許容していいんか。
「でね、それとは別にあなたにも作ってきたのよ」
「…は?」
「あなた、自分のご先祖様のコスプレする気はない?」
「…はい?」
「ノマカプとして結構人気高いのよね、リチャードとアンドロマケー。あなたの彼氏、まだ軽歩隊に居るんでしょう?だったらちょうどいいと思って。絡み画撮りたいから、ちょっと誑かしてきてくれない?」
お、お断りだー!
…と言いたいところだが、ハリーがどんな顔するか見たい気もする。
あー、色々と引き摺られてんな自分…。
「そういう自分はコスプレしないの」
「するわよ?当然。四魔貴族合わせがあるから、張り切ってビューネイ衣装作ったわ」
「あ、そう…」
どっとはらい。
って言うか、態々そんな宣言して引き籠もってるとか、ただの開けろフラグだろっつうか、寧ろ『待ってますから開けてくださいねてへぺろ☆』って事だろっつうか。
まあそんな勘繰りしなくても此処に突っ込んでくる『一般人』なんて居ないだろうけど。
そんなこんなで今現在、あたし達は謎の『封印』が施されたマグの仕事部屋に居る。
但し、仕事してる訳でも、休憩としてお茶してる訳でもない。
…ああいや、微妙な金銭収入に関わるんだから仕事っちゃ仕事なのかな?
兎も角、本来の仕事をしてる訳でもなく、みんなで集まってはいるものの、わいわい雑談してる訳でもない。
なら何をしてるのか、と言えば。
「ちょっと、黒インク切れちゃったわよ」
「あっちの棚に買い置きがありますからそれ使ってください」
「えーっと、こっからここまで誤字チェック終わったんだけど?」
「わかるようにしてそこに置いといてください。で、次はコレです」
「はやっ!?」
…何て言うんだろう、コレは。
「修羅場、って言うのよ」
ニッコリ笑顔で(心を読んで)答えてくれるミシア姉さんは美人である。
…それはさておき、修羅場とか言うと普通は犬も食わないよーな男女の喧嘩の激しいヤツを想像すると思うんだけど、これは明らかに違う。
雰囲気は確かに、言葉の印象に合ってるけども。
要するに、『〆切に追われる作家』の気分を体験している訳だ。
言っとくけどこの場の誰も作家じゃない。
マグは術士で、あたしとミシア姉さんは遊撃隊員で、クラウに至ってはお姫様もとい次期皇帝だ。
作家でなんかある訳が無い。
社会的地位は結構どころかかなり良い(この中じゃあたしが一番下っ端だ、間違い無く)方の女共がこんだけ寄り集まって、やってる内容がこんなんだと知ったら………閣下辺りは、泣くかも知れない。
クラウがどうこうというより、マグの本性という意味で。
珍しく「もし手が空いてたらこの辺で遊びに来てくださいよ」なんて誘うから何かと思えば、コレだ。
手伝わせたいなら手伝わせたいと最初にハッキリ言いたまえよ。
そしたらクラウは置いてきたよ。全力で。
「マグってば何をあんなしゃかりきになって」
「今度のイベント合わせで出す新刊に友達が凄いの寄稿してくれたから滾っちゃってしょうがなくて、自分ももっと書くんだって躍起になってるのね」
「『今、百合がアツい!!』って叫んでたの、その所為だったのか…」
「でもアレは私も萌えたわよ?可愛いじゃないああいうの。だからつい挿絵を」
「…え、コレ元から自分で描いてたの?」
「そうだけど?」
「あたしゃてっきり寄稿とかいうやつの一環かと」
「今回イラストを頼んでるのは表紙だけよ、中身は他にも色々あるけど。私は気が向いたから描いただけ」
「わあ」
合間合間に雑談するあたしとミシア姉さんやずっと不機嫌そうにしてる(と言うよりいっそおどおどしてるようにも見えるが)クラウをよそに、マグ当人は延々タイプライターと睨めっこ。
ついさっきまではひたすらガリガリ何かを書き付けていたものの、決定稿?が出来たのか、仕上げにかかってるらしい。
あんな高そうなタイプライターから生み出されるのがアレか。
優秀な子に余計な趣味(一種の才能?)を持たせてしまった結果がごらんの有様だよ!
※※※
そんなこんなで1日が終わった、そのまた数日後。
今度は向こうからやって来た。
『手伝ってくれたお礼』と称して1冊の本(市販のそれより大分ペラいけど)を手渡すマグが妙につやつやしてるのはさておくとして、あたし的には、当然のよーにその横に居るミシア姉さんが矢鱈でっかいバッグを背負ってる方がよっぽど気になる。
…いやね、他にもツッコみたい事は山ほどあんだけどね。
「『まぐかっぷ』って何」
「わたしのサークルの名前です」
「サークルって何」
「えっとぉ…同好会の中の固有名詞と言うか、要するにペンネームみたいなモノというか」
「なにそれ。って言うか『まぐかっぷ』って『マグカップ』じゃないの?コップ?」
「違いますよ、『マグダレーナのカップリング』、略してマグカップです。わかりやすいでしょ?字面はそっちの方が可愛いかなって」
「あ、そう…」
兎も角、あのバッグの中身は何だ。
「そうそうそれですよ!実はふたりに、特にクラウにお願いがありましてぇ」
…なんか地雷っぽいモノを踏んだ気がするが、一番の標的が自分じゃなかった事に若干ほっとした。
クラウごめん。
「厭」
「聞く前から断らないでくださいよ」
「だって嫌な予感しかしないじゃない!」
「大丈夫ですよ簡単ですから」
「簡単って、何が」
曰く『コスプレしようよ』。
「勿論会場で着てくれとは言いません、この場でちょっと写真撮らせてくれれば大満足です。露出が厭なら顔はぼかすか化粧で誤魔化します」
「絶ッッッ対に嫌」
「えーっ、いいじゃないですかぁ。だってこないだ『このスラッシュ、いい』って言ってたじゃないですかぁ。衣装も鬘も用意してあるんですよ、ホラ」
「確かに言ったわよ、言ったけど!キャラクターとして憧れるのとコレは別でしょ!!」
「…わかりました。じゃあわたしが個人的に楽しむだけにすると誓いますから、1回でいいんで着てください」
「それでも嫌だったら!!」
「えーっ、クラウの顔立ちとスタイルでコレは理想なのにぃ…」
ああだこうだのやりとりを尻目に、用意したという衣装やら何やらを検分してみた。
すげえや、手作りだ。
しかもクオリティたけえ。
「私が作ったのよ」
さいですか。
って言うか姉さん暇ですね。
「…あれ、ワンピースもある」
「ああそれはマグが着たいって言うから。『合わせ』が目標だったみたいね」
「なにそれ」
「簡単に言うと、カップルだのコンビだのグループだのを再現する事ね」
「あー、大体把握」
つまり、マグはあの話の実写コマを作りたかった訳か。
…や、するってーとクラウがマグにちゅーしなきゃならない訳で、要するに、
無理だろ。
「そう?私は見たいわよ」
「えええええ」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。私だってお姫様に似合うと思ったから衣装作ったのよ。素直に着てくれるとは思ってないけど」
…インクの汚れが若干色素沈着してる指先が見えてる状態でソレを言われると、『修羅場』の空気を思い出す気がする。
つうかあんた一応マグと恋仲でいーんだよね?
他者とのちゅーを許容していいんか。
「でね、それとは別にあなたにも作ってきたのよ」
「…は?」
「あなた、自分のご先祖様のコスプレする気はない?」
「…はい?」
「ノマカプとして結構人気高いのよね、リチャードとアンドロマケー。あなたの彼氏、まだ軽歩隊に居るんでしょう?だったらちょうどいいと思って。絡み画撮りたいから、ちょっと誑かしてきてくれない?」
お、お断りだー!
…と言いたいところだが、ハリーがどんな顔するか見たい気もする。
あー、色々と引き摺られてんな自分…。
「そういう自分はコスプレしないの」
「するわよ?当然。四魔貴族合わせがあるから、張り切ってビューネイ衣装作ったわ」
「あ、そう…」
どっとはらい。