マグダレーナさんの妄想書架:ばんがい
「………で?」
「はい?」
「今度は、何?」
「何って、何がです?」
「………はぁ」
あれから数日後の事だ。
マグが、またしても何やらつやつやした顔で『薄い本』を抱えて現れたのは。
これが彼女の言うところの『布教』活動か。
餌食もとい標的にされる私達の身にもなっていただきたい。
「これを私に読ませて、今度は何を期待してるのかって話よ」
…付き合いで読んであげてしまう私も私、である。
まあ、私が本気で嫌がるような(例えば過剰にファンタジックだったりとか、過剰にエロチックだったりとかそういう)内容のものは持ってこないと知っているから、そういう意味に限るなら安心は出来るのだけれども。
…一通り読み終えるまで執拗に『おすすめ』してくるんだから、読まない訳にいかないじゃないの。
最早脅迫よね?
「BLはウケが悪かったようなので、ならば百合ならどうだ!と思い立ちましてぇ」
百合って何よ。
会話の中から察するに、男性同士の反対、つまり女性同士って事?
『ならばどうだ』ってどういう事よ。
「姉様には非ッ常~にウケが良かったんですよぉ。いまだかつてこんなに食いつきが良いの無かったから、クラウ達も釣…もとい、気に入ってくれるかなぁと」
「あ、そう…」
『姉様』、つまりアルテミシアは気に入っているという事か。
そりゃあそうでしょうよ。
だって彼女、あなたと普通にいちゃいちゃしてるじゃないの。
言い方悪いけど、元々立派に『その道のひと』たる資質があったじゃないのよ。
…って言うか、彼女にも見せてたのねこういうの。
何してんのよあなたってひとは。
傍らでは、私からパスが渡ったネルが、恐らくはさっきの私と同じような顔をしながら読み進め、やがてパタンと閉じ、一言。
「なんかあたし、目覚めたかも」
…それは是非やめてちょうだい。
「ね?百合もいいでしょ?」
「いいでしょってか、一種の愛情の形としてアリだなっつうか、女同士だと妙にキレイに見えるモンなんだなっつうか」
「でしょー!ここまできたらあと一歩ですよ。そのうちBLも同じように見えてきます」
「…え、あのぅ?」
読ませるところまではまだいいとして、無理矢理その道に引きずり込むのはやめなさい。
…なんて言ったところで、『無理矢理なんかじゃありませんー!』なんて反論が返ってくるだけなんだろうなぁ。
厭に生々しい幻聴が聞こえたので、口にはしない。
無駄な事はしない主義なので。
兎も角、ネルは気をしっかり持ってくださいお願いします。
「…ラビにゃんGJ」
「………ラビにゃん?」
「あ、えーっと…ウサギさんです♪」
「はあ…?」
…ところで。
「ひとつ、前々から聞きたかった事があるんだけど」
「はいはい、何ですかぁ?」
振り返るマグの顔が妙にキラキラしている。
嗚呼…これが真に純粋なものだったら、どれだけ可愛らしく映った事か。
誤解無きよう言っておけば、マグは実際に可愛いし、素直で女らしくて頭も良い、良いお姉さんなのよ?
ちょっとドジで子供っぽいところもあるけど、それを補って余りあるくらい、将来有望なんだから。
…でも、フォローにも限界がある。
あの趣味は………邪、よね。
「あなたが期待してるような事聞くんじゃないからね」
「…ちっ」
「………。」
世の中にはあなたに幻想抱いてる男性も多少は居る訳よ。
そいつらにコレ、見せてやりたいわ。
本性(?)と、今の舌打ち。
それはさておき。
「そういう…何て言うの?一般書籍じゃない創作物、そんなにたくさん何処で仕入れてるのよ」
マグ曰くの『薄い本』の殆どは、手作り感満載というか、あんまりしっかりした製本がされてなくて、ぴっちり本棚に収めたり、何度も何度も読み返すのには耐えられそうもない。
そもそもそんな内容の本なんて、普通の書店ではお目に掛かれない。
…いやまあ、隅っこの方にちまっと並んでいたりはするのかもしれないけれども、少なくとも、私は見た事が無い。
それもその筈で、
「えっとですねぇ…フリーマーケットとかあるじゃないですか。ああいうのの隅っこで、作家とか詩人とかのタマゴが自作本手売りしてる事があるんですよ。それと似たようなモノです」
…だそうなので、人混み嫌いの私が知る筈も無かった、と。
まあ、フリーマーケットは芸術家が芽を出す切っ掛けにもなる場所だし、そこまでは理解出来る。
…が、そんなモノ(とコキ下ろすのもどうかとは思うけど)が大々的に売られているのかと思ったら、若干、怖気た。
「あ、そこら辺は大丈夫ですよぉ。全く興味の無いひとの目に触れそうなところでは殆ど見掛けませんから。その代わりちょっとアンダーグラウンドなイベントとかあったりするんですけどねぇ…むふふ」
『次の例会は確か来月で~』とか何とか、自分の世界に浸りだしたマグが、なんだか笑みを深めているのはもう気にしない事にする。
深入りしたら負けだ。
これ以上下手につついたら、後戻り出来ないレベルに毒されそうな気がする。
大人しく毒されてやる気は皆無だけれども…平常心であり続ける自信は、無い。
「因みにコレはお友達伝いに入手した新刊です。わたしは百合も大好物なんですけどねぇ、いかんせん供給が少なくって」
「ふうん」
「あ、でもこの組み合わせはメジャーな方ですよ?」
「なんかわかる気がする。男装女子、絵ヅラ的にかっこいいもん」
「でしょ~!『いかにも』なお姉様も捨てがたいけど、女性なのにちょっと男らしいのがまた萌えと言うか!」
「…どうしようクラウ、あたしマジで目覚めそう」
「やめて!」
どっとはらい。
「はい?」
「今度は、何?」
「何って、何がです?」
「………はぁ」
あれから数日後の事だ。
マグが、またしても何やらつやつやした顔で『薄い本』を抱えて現れたのは。
これが彼女の言うところの『布教』活動か。
餌食もとい標的にされる私達の身にもなっていただきたい。
「これを私に読ませて、今度は何を期待してるのかって話よ」
…付き合いで読んであげてしまう私も私、である。
まあ、私が本気で嫌がるような(例えば過剰にファンタジックだったりとか、過剰にエロチックだったりとかそういう)内容のものは持ってこないと知っているから、そういう意味に限るなら安心は出来るのだけれども。
…一通り読み終えるまで執拗に『おすすめ』してくるんだから、読まない訳にいかないじゃないの。
最早脅迫よね?
「BLはウケが悪かったようなので、ならば百合ならどうだ!と思い立ちましてぇ」
百合って何よ。
会話の中から察するに、男性同士の反対、つまり女性同士って事?
『ならばどうだ』ってどういう事よ。
「姉様には非ッ常~にウケが良かったんですよぉ。いまだかつてこんなに食いつきが良いの無かったから、クラウ達も釣…もとい、気に入ってくれるかなぁと」
「あ、そう…」
『姉様』、つまりアルテミシアは気に入っているという事か。
そりゃあそうでしょうよ。
だって彼女、あなたと普通にいちゃいちゃしてるじゃないの。
言い方悪いけど、元々立派に『その道のひと』たる資質があったじゃないのよ。
…って言うか、彼女にも見せてたのねこういうの。
何してんのよあなたってひとは。
傍らでは、私からパスが渡ったネルが、恐らくはさっきの私と同じような顔をしながら読み進め、やがてパタンと閉じ、一言。
「なんかあたし、目覚めたかも」
…それは是非やめてちょうだい。
「ね?百合もいいでしょ?」
「いいでしょってか、一種の愛情の形としてアリだなっつうか、女同士だと妙にキレイに見えるモンなんだなっつうか」
「でしょー!ここまできたらあと一歩ですよ。そのうちBLも同じように見えてきます」
「…え、あのぅ?」
読ませるところまではまだいいとして、無理矢理その道に引きずり込むのはやめなさい。
…なんて言ったところで、『無理矢理なんかじゃありませんー!』なんて反論が返ってくるだけなんだろうなぁ。
厭に生々しい幻聴が聞こえたので、口にはしない。
無駄な事はしない主義なので。
兎も角、ネルは気をしっかり持ってくださいお願いします。
「…ラビにゃんGJ」
「………ラビにゃん?」
「あ、えーっと…ウサギさんです♪」
「はあ…?」
…ところで。
「ひとつ、前々から聞きたかった事があるんだけど」
「はいはい、何ですかぁ?」
振り返るマグの顔が妙にキラキラしている。
嗚呼…これが真に純粋なものだったら、どれだけ可愛らしく映った事か。
誤解無きよう言っておけば、マグは実際に可愛いし、素直で女らしくて頭も良い、良いお姉さんなのよ?
ちょっとドジで子供っぽいところもあるけど、それを補って余りあるくらい、将来有望なんだから。
…でも、フォローにも限界がある。
あの趣味は………邪、よね。
「あなたが期待してるような事聞くんじゃないからね」
「…ちっ」
「………。」
世の中にはあなたに幻想抱いてる男性も多少は居る訳よ。
そいつらにコレ、見せてやりたいわ。
本性(?)と、今の舌打ち。
それはさておき。
「そういう…何て言うの?一般書籍じゃない創作物、そんなにたくさん何処で仕入れてるのよ」
マグ曰くの『薄い本』の殆どは、手作り感満載というか、あんまりしっかりした製本がされてなくて、ぴっちり本棚に収めたり、何度も何度も読み返すのには耐えられそうもない。
そもそもそんな内容の本なんて、普通の書店ではお目に掛かれない。
…いやまあ、隅っこの方にちまっと並んでいたりはするのかもしれないけれども、少なくとも、私は見た事が無い。
それもその筈で、
「えっとですねぇ…フリーマーケットとかあるじゃないですか。ああいうのの隅っこで、作家とか詩人とかのタマゴが自作本手売りしてる事があるんですよ。それと似たようなモノです」
…だそうなので、人混み嫌いの私が知る筈も無かった、と。
まあ、フリーマーケットは芸術家が芽を出す切っ掛けにもなる場所だし、そこまでは理解出来る。
…が、そんなモノ(とコキ下ろすのもどうかとは思うけど)が大々的に売られているのかと思ったら、若干、怖気た。
「あ、そこら辺は大丈夫ですよぉ。全く興味の無いひとの目に触れそうなところでは殆ど見掛けませんから。その代わりちょっとアンダーグラウンドなイベントとかあったりするんですけどねぇ…むふふ」
『次の例会は確か来月で~』とか何とか、自分の世界に浸りだしたマグが、なんだか笑みを深めているのはもう気にしない事にする。
深入りしたら負けだ。
これ以上下手につついたら、後戻り出来ないレベルに毒されそうな気がする。
大人しく毒されてやる気は皆無だけれども…平常心であり続ける自信は、無い。
「因みにコレはお友達伝いに入手した新刊です。わたしは百合も大好物なんですけどねぇ、いかんせん供給が少なくって」
「ふうん」
「あ、でもこの組み合わせはメジャーな方ですよ?」
「なんかわかる気がする。男装女子、絵ヅラ的にかっこいいもん」
「でしょ~!『いかにも』なお姉様も捨てがたいけど、女性なのにちょっと男らしいのがまた萌えと言うか!」
「…どうしようクラウ、あたしマジで目覚めそう」
「やめて!」
どっとはらい。