めがろまにあ(アメジスト代)
「…おいおいおいおいおい」
さて飯はどうするかなあ、なんて考えながら帰ったら、固まった。
何が悲しゅうて自室に戻った瞬間絶句せにゃならんのだ。
そりゃ世の中色々あるさ。
あるけども。
───何だって俺の部屋でコイツが寝てんだよ!
「……………。」
「………すー…。」
「…………はぁ」
つついてみた。
起きない。
いやいやいや、此処は俺が借りてる部屋であって、お前は研究棟の近くにもっといい部屋持ってんだろ。
寝るならそっちでちゃんと寝ろよ。
「おーい、アンジー。起きろー」
「………むにゃ」
「…ダメだこりゃ」
「………ふが」
揺すってみた。
なんか呻いただけだった。
仕様が無いので鼻つまんで軽く呼吸を妨げてみた。
何やらふがふが言った後、よーやっと瞼が開いた。
うん、遅い。
「ふが。………あ、おかえり」
「おかえり、じゃねえ」
『おかえり』というよりも『おあえい』に近かった。
因みにもう鼻つまんではいない。
この呂律の回らなさはなんだ。
ガキかお前は。
「起きろ、そして帰って寝ろ。そこは俺のベッド」
「ヤだ」
「ヤだじゃねえ」
微睡んでるのが幸せなのはわかるが、いつまでもそこに居られても困るので容赦無く引っぺがした。
…やーん、とか言いながら枕抱き抱えんな。
だからそれ俺の枕…。
「つうかお前、寝起きそんなキャラだったっけ?」
「ん?んんん。あたしは、あたしだけど?」
「答えになってねえ」
寝惚けた義妹の反応に違和感。
寝起きは良い方な筈…と言うか、無理矢理起こして機嫌悪くなる事はあっても、こんなふにゃーんとボケたままなんて事は、少なくとも今まで俺は一度だって見た事が無い。
何かあるな、と思った。
「……………お前、」
「んん?」
「呑んでんな?」
「のんで?」
「酒」
「うん」
カマかけたところ、素直にこっくり。
いや、うん、じゃねえだろうよ。
大して強くもない癖に、酒臭さ漂わせやがって。
…で、まさかコイツが外で一杯引っ掛けてくる、なんて筈も無く。
「お兄ちゃんが悪いんだよ、なかなか帰って来ないから。待ちくたびれて先に開けちゃった。てへ」
案の定、見渡してみればテーブルの上には証拠の品が。
最近妙に人気で品薄だとかいう、果実酒だったか、それが二本。
一本は半分くらいに減っている。
「てへ、じゃねえよ」
「おいしかったよ?」
「ああそうかいそうかい、そりゃよーござんしたな」
果実酒故の口当たりの良さで気付かずに飲んでたんだろうが、実は意外にキツいんじゃなかったか、コレ。
「この酔っぱらいめが」
「あたし酔ってなんかないもん」
「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ」
態々買ってきてくれたんだろうか。
…いや、まさかな。
誰かに貰ったんだろう。
うっすら心当たりがあったりする。
兎も角、持ってきてくれたのは有り難いが(酒なら大概何でも好きだ)、俺が不在だったら置くだけ置いて帰るなりすればよかったものを。
態々待っている辺りがコイツらしいっちゃその通りなんだが。
「ね、お兄ちゃんも飲むでしょ?」
眠気に勝ったのか、ボトルとグラスに手を伸ばす。
…が、見事に覚束無い。
『あたしも飲むー』とか言ってる場合じゃなかろうよ。
「待て待て待て」
「ん?」
「お前はもう帰って寝ろ」
「ええー」
「これ以上飲んだら明日二日酔いで死ぬぞ」
「…ぶーぶー」
「ぶーぶーってなんだよ」
制止したら嫌がるので、手を掴んで止めたら二度目の『やーん』。
いや、だから、やーん、じゃねえだろっつの。
「飲まないの?」
「お前が帰ったら飲む」
「ひとりじめ?ひどーい」
「お前の分も残しといてやるから、また次の機会にな。送ってやるから、ほら立った」
「ヤだ」
「ヤじゃねえって」
「ヤだ。お兄ちゃんと飲むー」
自分が滅多に酔い潰れない分酔っぱらいの相手は馴れてるつもりでいたが…まさかコイツ相手にそんな事する日が来ようとは。
───つうかお前、普段俺の事『お兄ちゃん』なんて呼ばないだろが。
完全にキャラ崩壊起こしてんぞ、コレ。
「………アンジー?」
「んん?」
「返事は『はい』な?」
「はぁい」
「送ってやるから、帰って寝ろ。いいな?」
「ヤだ」
「返事は『はい』だっつったろうよ」
「ヤだ」
「………。」
参った。
何に参ったってそりゃあ───若干トチ狂ったキャラクターってのもあるが、義妹とはいえコイツは年頃の女な訳で。
そして俺は男な訳で。
そしてもって、『マズい事に』とでも言ったらいいのだろうか、お互いに憎からず思っている事は、承知している訳で。
わかっててやってんのかコノヤロウ、と思った。
酒の所為なのはわかっちゃいるが、ちょっととろんとした目とか、赤らみ気味な顔とか、ぶっちゃけかなり可愛いぞ?
「…もっぺん言うぞ。帰って寝ろ」
「やー」
だからその、やー、ってなんだよ。
気心知れた相手とはいえ男の部屋でぐーすか寝てる時点で大分どうかと思うけど、こんだけふにゃふにゃで、無防備過ぎんだろ!
さりげなくしがみついてくんな!
「お兄ちゃんと飲むのー。お兄ちゃんといるー」
いや、うん。
嬉しいけど。
嬉しいは嬉しいけど。
何か違う。っつーか困る。
非常に困る。
「…アメジスト」
「んにゃ?」
───『んにゃ?』ってなんだよ『んにゃ?』って!!
「フザケんなよ」
「ふざけてなんかないもん」
もん、じゃねえだろうよ。
ったく、こっちの気も知らねえで!!
「~~~~~っ!!」
「………ん?どーかした?」
どーかした、って。
どーかせんでか。
「あんましフザケてっと、喰うぞ」
「?あたしおいしくないよ?」
真正面から脅しを掛けたら、捕まえた手の中で器用に小首を傾げられた。
…脅してんのはどっちだったっけ。
「お兄ちゃん?なんかおかしいよ?」
「おかしいのはお前だ、阿呆」
「あたしアホじゃないもん」
「~~~っだから、くっつくなっつの!」
これ以上密着されたら困る。
いやホントに。
…なので、ズッコケて程良く脱力しているうちに、今度は俺から引っぺがして、元通りベッドに押し込んだ。
三度目の『やーん』が聞こえた気がするが、無視。
「ベッドやるから、もうそこで寝ろ」
「ええー……お兄ちゃんも寝る?」
「あー、寝る寝る」
「…んじゃいいや。おやすみー」
「はいはい、おやすみ」
ものの数秒で寝息が聞こえてきた。
流石酔っぱらい、寝付くのが早い。
お陰で多少、助かった。マジで。
───だがしかし。
ベッドを占領された俺は椅子に座って寝るしかなく。
そうでなくともコイツの寝息を聞きながら一夜を明かさねばならない訳で。
「どーしろっつーんだよ…」
また違う意味で(いや、原因を考えれば全く別物という訳でもないんだが)煩悶しているうちに、気付いたら夜が明けていた。
どーしてくれるんだ、コラ。
さて飯はどうするかなあ、なんて考えながら帰ったら、固まった。
何が悲しゅうて自室に戻った瞬間絶句せにゃならんのだ。
そりゃ世の中色々あるさ。
あるけども。
───何だって俺の部屋でコイツが寝てんだよ!
「……………。」
「………すー…。」
「…………はぁ」
つついてみた。
起きない。
いやいやいや、此処は俺が借りてる部屋であって、お前は研究棟の近くにもっといい部屋持ってんだろ。
寝るならそっちでちゃんと寝ろよ。
「おーい、アンジー。起きろー」
「………むにゃ」
「…ダメだこりゃ」
「………ふが」
揺すってみた。
なんか呻いただけだった。
仕様が無いので鼻つまんで軽く呼吸を妨げてみた。
何やらふがふが言った後、よーやっと瞼が開いた。
うん、遅い。
「ふが。………あ、おかえり」
「おかえり、じゃねえ」
『おかえり』というよりも『おあえい』に近かった。
因みにもう鼻つまんではいない。
この呂律の回らなさはなんだ。
ガキかお前は。
「起きろ、そして帰って寝ろ。そこは俺のベッド」
「ヤだ」
「ヤだじゃねえ」
微睡んでるのが幸せなのはわかるが、いつまでもそこに居られても困るので容赦無く引っぺがした。
…やーん、とか言いながら枕抱き抱えんな。
だからそれ俺の枕…。
「つうかお前、寝起きそんなキャラだったっけ?」
「ん?んんん。あたしは、あたしだけど?」
「答えになってねえ」
寝惚けた義妹の反応に違和感。
寝起きは良い方な筈…と言うか、無理矢理起こして機嫌悪くなる事はあっても、こんなふにゃーんとボケたままなんて事は、少なくとも今まで俺は一度だって見た事が無い。
何かあるな、と思った。
「……………お前、」
「んん?」
「呑んでんな?」
「のんで?」
「酒」
「うん」
カマかけたところ、素直にこっくり。
いや、うん、じゃねえだろうよ。
大して強くもない癖に、酒臭さ漂わせやがって。
…で、まさかコイツが外で一杯引っ掛けてくる、なんて筈も無く。
「お兄ちゃんが悪いんだよ、なかなか帰って来ないから。待ちくたびれて先に開けちゃった。てへ」
案の定、見渡してみればテーブルの上には証拠の品が。
最近妙に人気で品薄だとかいう、果実酒だったか、それが二本。
一本は半分くらいに減っている。
「てへ、じゃねえよ」
「おいしかったよ?」
「ああそうかいそうかい、そりゃよーござんしたな」
果実酒故の口当たりの良さで気付かずに飲んでたんだろうが、実は意外にキツいんじゃなかったか、コレ。
「この酔っぱらいめが」
「あたし酔ってなんかないもん」
「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ」
態々買ってきてくれたんだろうか。
…いや、まさかな。
誰かに貰ったんだろう。
うっすら心当たりがあったりする。
兎も角、持ってきてくれたのは有り難いが(酒なら大概何でも好きだ)、俺が不在だったら置くだけ置いて帰るなりすればよかったものを。
態々待っている辺りがコイツらしいっちゃその通りなんだが。
「ね、お兄ちゃんも飲むでしょ?」
眠気に勝ったのか、ボトルとグラスに手を伸ばす。
…が、見事に覚束無い。
『あたしも飲むー』とか言ってる場合じゃなかろうよ。
「待て待て待て」
「ん?」
「お前はもう帰って寝ろ」
「ええー」
「これ以上飲んだら明日二日酔いで死ぬぞ」
「…ぶーぶー」
「ぶーぶーってなんだよ」
制止したら嫌がるので、手を掴んで止めたら二度目の『やーん』。
いや、だから、やーん、じゃねえだろっつの。
「飲まないの?」
「お前が帰ったら飲む」
「ひとりじめ?ひどーい」
「お前の分も残しといてやるから、また次の機会にな。送ってやるから、ほら立った」
「ヤだ」
「ヤじゃねえって」
「ヤだ。お兄ちゃんと飲むー」
自分が滅多に酔い潰れない分酔っぱらいの相手は馴れてるつもりでいたが…まさかコイツ相手にそんな事する日が来ようとは。
───つうかお前、普段俺の事『お兄ちゃん』なんて呼ばないだろが。
完全にキャラ崩壊起こしてんぞ、コレ。
「………アンジー?」
「んん?」
「返事は『はい』な?」
「はぁい」
「送ってやるから、帰って寝ろ。いいな?」
「ヤだ」
「返事は『はい』だっつったろうよ」
「ヤだ」
「………。」
参った。
何に参ったってそりゃあ───若干トチ狂ったキャラクターってのもあるが、義妹とはいえコイツは年頃の女な訳で。
そして俺は男な訳で。
そしてもって、『マズい事に』とでも言ったらいいのだろうか、お互いに憎からず思っている事は、承知している訳で。
わかっててやってんのかコノヤロウ、と思った。
酒の所為なのはわかっちゃいるが、ちょっととろんとした目とか、赤らみ気味な顔とか、ぶっちゃけかなり可愛いぞ?
「…もっぺん言うぞ。帰って寝ろ」
「やー」
だからその、やー、ってなんだよ。
気心知れた相手とはいえ男の部屋でぐーすか寝てる時点で大分どうかと思うけど、こんだけふにゃふにゃで、無防備過ぎんだろ!
さりげなくしがみついてくんな!
「お兄ちゃんと飲むのー。お兄ちゃんといるー」
いや、うん。
嬉しいけど。
嬉しいは嬉しいけど。
何か違う。っつーか困る。
非常に困る。
「…アメジスト」
「んにゃ?」
───『んにゃ?』ってなんだよ『んにゃ?』って!!
「フザケんなよ」
「ふざけてなんかないもん」
もん、じゃねえだろうよ。
ったく、こっちの気も知らねえで!!
「~~~~~っ!!」
「………ん?どーかした?」
どーかした、って。
どーかせんでか。
「あんましフザケてっと、喰うぞ」
「?あたしおいしくないよ?」
真正面から脅しを掛けたら、捕まえた手の中で器用に小首を傾げられた。
…脅してんのはどっちだったっけ。
「お兄ちゃん?なんかおかしいよ?」
「おかしいのはお前だ、阿呆」
「あたしアホじゃないもん」
「~~~っだから、くっつくなっつの!」
これ以上密着されたら困る。
いやホントに。
…なので、ズッコケて程良く脱力しているうちに、今度は俺から引っぺがして、元通りベッドに押し込んだ。
三度目の『やーん』が聞こえた気がするが、無視。
「ベッドやるから、もうそこで寝ろ」
「ええー……お兄ちゃんも寝る?」
「あー、寝る寝る」
「…んじゃいいや。おやすみー」
「はいはい、おやすみ」
ものの数秒で寝息が聞こえてきた。
流石酔っぱらい、寝付くのが早い。
お陰で多少、助かった。マジで。
───だがしかし。
ベッドを占領された俺は椅子に座って寝るしかなく。
そうでなくともコイツの寝息を聞きながら一夜を明かさねばならない訳で。
「どーしろっつーんだよ…」
また違う意味で(いや、原因を考えれば全く別物という訳でもないんだが)煩悶しているうちに、気付いたら夜が明けていた。
どーしてくれるんだ、コラ。