暴走狂騒曲(ベネディクト代)

「結婚しなきゃ老後が寂しいとかそーいう理屈はちょっとどうかと思うなー」

と宣ったのはクロウだ。
気付いた時には話が長くなりそうだったので、貰ったばかりのお菓子を端から広げてはつまんでいる。

因みに、真っ先にそういう事を始めたのは、若干復活したベネディクトだったりする。
封切ったのはお菓子ではなく地元メーカーのアルコール飲料で、所謂自棄酒というやつだ。

「人生女だけじゃないって。そりゃあね、イキモノとしてうんたらかんたらってのはわかるよ?俺だって男だもん。でもさー、世間一般の皆々様は大概、女ってモンに幻想抱きすぎだと思うワケですよ」
「それは何ですか、私の事ですか」
「ヤだな誰もテッシュウの事だなんて言ってないじゃんよ。確かに見てたけど」
「他意が無いなら何故私を見るんです」
「あーあー怒らない怒らない。ともかくよ、そうじゃなくてだね───」

今でこそ皇帝直属の密偵兼情報屋(と言う名を借りた便利屋)として活躍するクロウだが、本来所属するのは斥候部隊であるシーフギルドだ。
他組織よりも様々な意味で柔軟さと身軽さが要求され、かつ往々にしてハニートラップ的要素も求められる事から、割合女性が優遇される傾向にある。
故に、実働系の軍属組織にしては珍しいと言っても過言ではないくらいに女性のヒエラルキが高めで、比較的男性の肩身が狭い。

「俺さー、元々男兄弟しか居なかったワケですよ。そこへ来てこの状況で、最初はそれなりに嬉しかったりしたワケですよ。ところがどっこい、おねーさま方がなかなかどうしてアレな感じでねー」

色仕掛けも使う都合柄、ギルドの女性は皆ある種の美人である事は間違い無い。
あまり大柄でも困る為に、全体としては『美しい』というよりも『可愛い』と評するのが正しいか。
兎も角見目の水準は非常に高く、その上絡め手の為のその他魅力も上々とくれば、普通は男から寄っていって然るべき………なのだが。

「おシゴト云々を実際どうしてるかなんて男にゃ話しちゃくれないから知らないけどさ。普段のあの人ら見てると、なんでコレで男がオチんの?っつーくらいヒドいっつーかなんつーか…ガサツ?ドS?なんかそんな感じ」

ちょっと手が出る足が出る、程度ならまだ可愛いもので、うっかりした事を口走ろうものなら尖ったヒールでぐりぐりと文字通り『ふみつけ』られる。
更に酷いと格闘技に似たナニカを食らわされる事もあるし、上から目線でしこたま罵られる事だってある。
そういう事態にならずとも、井戸端会議的なものを聞いてしまうと、世間一般のそれよりも些か無遠慮に過ぎるというか、何というか。

「『誰とかさんって絶対イケメンの無駄遣いだよねーフタ開けたらただのマザコン小心野郎なんだもん。一生ママのおっぱい吸ってろって感じ』とか『あのオヤジってばいちいち尊大でムカつくんだよね、短小のくせに。ちょん切っちゃってもいいかな、どうせ変わらないしいいよね』とか、ほぼ毎日聞こえてくるんだよね。ソレなんてまだ可愛い方よ。隙あらば愚痴ってる感じ?ホントなんでアレがバレてないのかな。あの人ら何枚ネコ被ってんだろ。そりゃ男だって似たり寄ったりなヤツは居るだろうけどさ、なんつーの?格が違うっつーの?そんな感じ。被ってるネコ何枚か引っぺがしたらうっかり虎が出て来そうっつーか何つーか」

ああだこうだ。
クロウが並べ連ねるうち、恐らくはこの場で一番そういった『女性の裏の顔』に免疫が無いであろうキグナスが、何故かみるみる凹んでいく。
先程のクロウの言葉を借りるなら、若干『幻想抱きすぎ』だったのかも知れない。

「大丈夫大丈夫、おたくのカノジョは流石にそういうの無いと思うよ?一般人だし、いいひとだし」

さりげなくへらへらとしたフォローが入る。
が、たとえ自分の彼女がその範疇に無いとわかっていても、既に少々キグナスの『女性を見る目』が変わりつつある事には違い無い訳で。

「明日から彼女にどう接しろと…」

つい先刻のベネディクト然り、最終的にはテーブルにずべっと突っ伏した。



───因みに、クロウもこの先一生独り身を貫いたクチである。
ガマに同じく内縁関係はあり、やんちゃな一人娘を持ってそれなりに楽しく騒がしい老後を送ったりしたのだが、これもまた別のお話。
4/6ページ
スキ