deplorare(ヘンリー→ジェラールのその後/アメジスト視点)

花を添える。
目を閉じて、祈りを捧げる。

他と何ら変わりない、一連の仕草。

「あんたも熱心ね、毎月毎月」

キャットはそんな私を不思議そうに、半ば呆れたように見守っていてくれる。

私が、個人的に祈りを捧げられる相手など居ないから、せめてこういう事くらい。
口ではそう言うけれど。

本当は、こうしたいのは、私じゃない。

「『殺戮女帝が贖罪のつもりか』とか何とか、好き放題言い散らしてるヤツも居るけどさ。先輩の墓参りもしないようなヤツが何言ってんだって感じだよね。あたしは幸せだなー、あんたみたいな可愛い子がお参りしてくれたら。儀礼でも何でも」

それはどうも、と返しつつも、言葉そのものは右から左へ抜けていく。

だって、此処に居るのは“僕”であって―――私ではないから。




僕がしているのは、慰霊でもなんでもない。

出る筈のない答えを探す為の悪足掻き。

…主としては酷すぎるよね、まったく。

聞こえなかった、ただひとりの声が聞きたくて。




“私”はそれをただ眺める。
介入する事は出来ない。
だって私は“僕”ではないから。




どうして笑うの。

―――聞こえないよ。




「ホントに熱心なようで結構だけど、あんましほったらかしとくとダンナが拗ねるよ?」
「…今行くわ」

今回もまた、ちっとも進まないまま“僕”が嘆く。
“私”は日常に戻る為に踵を返す。
本物よりももどかしい痛みを抱えて。




―――貴方は早く、想われていた幸せに、気付いて下さい。




【1160年代半ば 運河要塞跡地にて】
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