暴走狂騒曲(ベネディクト代)

「…ってか、歳で言うならガマの方が先じゃないんですか」
「あ?俺?」
「そうその『俺』、そこの『俺』」

自分ばかりに水を向けられて面白くないキグナスは、ガマに意趣返しを仕掛けた。

ガマはベネディクトと同い年だ。
先刻もアイリスに『あなたも早くお嫁さん探しなさいよー』と言われていたりした。
尤も、そこに至る迄に『あらまあ本当に大きくなったわねえ』と近所のおばちゃんオーラ丸出しで頭を撫でられお菓子を山程与えられていた子供扱い(顔を合わせる度にやっているので仲間内ではもうそれなりに見慣れた光景だったりする)の方が、三十路男(見た目がなよっとした優男ならまだしも、恐ろしい事にガマは大分男臭い方だ)相手の態度としてはものすごく間違っている気がしてインパクトがあったのだが、それはさておき。

「つってもなァ…コレってのが居ねえんだよな」

ガマは人当たりも良いし、背も高く、顔の造りだって(髭をあたるのを面倒がって時々無精髭がざりざりしているのにさえ目を瞑ればの話だが)悪くはない。
どちらかと言えば女ウケのするタイプではあるし、そっち方面の『遊び』もそれなりにしている。
だのに特定の誰かがどうのこうのという話がちっとも出て来ないのは、遊び人気質なのか、はたまた我が儘なだけなのか。

「女はちょっと気位が高くてワガママなくらいが猫みたいでカワイイとか言うけど、所帯持つのにそれじゃちょっと困るだろ。かと言って一歩下がってついてくるだけじゃ何となく物足りねえし」
「好みのタイプは?」
「えーっと…見た目的には程良くグラマーで程良く美人で、性格的には程良く話についてこれるだけの機転が利いて程良くアクもあるよーなヤツ」
「程良くって具体的にどの程度なんですか」
「どのったって、程良くは程良くだろ。あ、歳は基本不問な」
「…あの、具体的って意味わかってます?ってかさらっと年齢不問とか場合によっちゃ色々アブナいってわかってます?」

ダメだこりゃ。
両方な上に基準がわからない。
キグナスはそう判断した。

キグナスは知らないが、実はガマはベネディクト以上に結婚願望が無い。
ベネディクトが『いつか仕事云々が落ち着いたらどうにかする』程度の事は考えているのに対し、ガマの方は『よっぽどピンと来ない限りは』態々結婚するつもりなど無い。
そこの差は恐らく兄弟構成から来たもので、一人っ子でもなければ後継ぎでもないので家の事など考えず好きに生きられる、という訳だ。
女がどういう生き物かという事は人並みにわかっており、年の功(?)もあって扱いだって手慣れてはいるが、男所帯の無礼講の方が性に合うという気質故、そもそも恋人というものを欲しがらない。
三大欲求がうんたら、となった時には、その時々で適当にどうにかする。
そんなこんなで、女性関係については『来る者拒まず、去る者追わず』を地で行っている。

決して理想が高すぎるだとか、そういう訳ではないのだ。
何を迫られる事も無く、中途半端にモテるが故に取り立てて飢えてもおらず、ピンポイントが行方不明になっているだけで。

「誰彼泣かせるのでなければ、別にいいんじゃないでしょうか。老後の独り身が寂しくないのなら」
「ぶふっ」

相変わらずテッシュウの発言は逐一痛い。
的確すぎるコメントに、それまでだららんとソファと仲良くなりながら適当な事を並べ立てていたガマが吹き出した。
結婚願望そのものは無い…が、老い先を考えても見れば若干侘びしい事になるかも、とは常々思っていたのだから仕方が無い。
違う意味で吹き出したキグナスにデコピンを一発。

───余談だが、ガマは今後見事に一生独身を貫く事となる。
内縁、と呼べそうな関係はあったので厳密に言えば独り身とはまた違うのだが、それもまた別のお話。
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