つんでれさんの事情

【アメジストさんの場合】






「好きよ?」

───ああ、さいですか。

「だってあたしのお兄ちゃんだもん。どう転んでも嫌いにはならないよ、絶対」

もっとこう、ストレートな物言いをさせるには時間が掛かるかと思ってたんだが。
そうでもなかった。
酔わせる準備くらいはあったんだけどなァ。

「ならいい加減くっついたらどうなのさ」
「うっ…」
「…あのねー、ガキのお飯事じゃないんだから。何をそんな意固地になって」

いやまあ、根は素直と言うか、ちょっとつんけんしてる所為で表面上素直じゃないように見えるだけと言うか、そういうコだっつー事は理解してる。

そういうコほど可愛いんだけどね。
いじり甲斐があって。

「…だって、」
「うん?」
「………。」
「…だって、何」

この手の話をちょっと振ったら、いちいち律儀に赤くなるのが可愛いんだよ。
オレが男だったらとっくにモノにしてるぞこのやろう。

頬を赤らめたまま、唇を尖らせて、上目遣いの小声で、

「だって、恥ずかしいじゃない」

………だってさ。

ホント、なんでオレ男に生まれなかったんだろ。
コイツ嫁にしたい。マジで。
嫁にして毎日この顔眺めたい。

「何が恥ずかしいだ、何が。もうお前等世間公認みてェなモンじゃんか」
「公認されても嬉しくないわよ!大体、先生やサジ兄がぎゃあぎゃあ言うから勝手に噂話になってるだけじゃない!」
「どうどうどう、まあ落ち着きたまえよ」
「~~~!!」
「茶化して悪かったよ。要するにアレだろ、面と向かって好きだっつったりいちゃこらしたりすんのが恥ずかしいんだろ?」
「……ええはいその通りデス………」
「ンな事いちいち気にすんな。…つっても、気になっちまうんだろどうせ」
「うう…」

しゅーんと項垂れていくそのアタマに幻の獣耳が見えた気がした。
猫。絶対猫。超可愛い。
但しそれを口にしたら間違い無く焦がされるので止めておく。
これでも加減は知ってるつもりなのよ?
ヘンタイだと思われたくないし。
変人の自覚はあるけど。

どっちも同じだろって?
別にオレは性格以外ノーマルな筈だからいいんだよ。多分。

「オレに言えるんなら当人に直接言うのだって大差無いと思うけどねェ」
「だって、メディアは女じゃない」
「………相手が女なら言えるってか」
「そりゃあ、誰彼構わずなんて言える訳無いけど。同性同士なんだから、こういう事、多少は話しやすいじゃない?」
「あー、左様で」

───やっぱオレ、女で良かった。
女だからこそこういう、オイシいトコもあるモンだからね。
要するに男だったらあの顔拝めなかったっつー事だろ?
お父さんお母さん、オレを女に産んでくれてありがとう。

…心の底からそう思った瞬間、割り込んできた無粋な野郎が一匹。

「あれーメディア姐さん何してんのこんなとこで。…って、アンジーはなんでちょっと赤くなってんの?もしかして姐さんに口説かれてた?」
「焼け焦げろ!」
「うわっちぃ!?なに、俺何かした!?」
「うっさいサジ兄どっか行け!」
「そーだそーだ、野郎は出て行けー」
「まってここ術研だよね、俺の職場だよね!?」
「所長権限で追い出し決定しましたー、だから出てってねなるはやでー」
「痛い痛い姐さん蹴り出さないで!腰はやめて腰は!」






(相手が男性なら兎も角、女性だったら比較的素直に暴露っちゃう気がして。そんなアメジストさん、多分当時22~23歳くらい。がんばれ。)
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