Ballata "LUNISOLARE"

【月下の夜想曲】






あなたが、好きでした。とても。

私を好きだと言ってくれる人は多かった。
でも、私が誰かを好きになる事は無いと思っていた───の、に。

あなたが現れた。

それを“一目惚れ”とは言わないでしょう。
言葉の定義が『一瞥だけで恋に落ちる』というものなら。

あなたに触れて初めて、私はあなたに恋をした。

恋というものが、いまだ私にはよくわからないのです。
でも、誰かを特別だと思う心が恋だというなら、それは間違い無く恋でした。

あなたに出会えて、ひとときでも幸せな時間を過ごし、想う心を持てただけで、私は充分でした。
…その、筈でした。

あなたと共に居られる事は、この上なく幸せで、とても嬉しい事だけれど。
私を抱きしめてくれたあの時、それから時々あなたが見せるあの表情で、私は全てを悟りました。

あなたは優しい、どうしようもなく優しい人だから。

きっとあなたは、私に知られたくないでしょう。
だから私は、何も知らぬふりをして、ただあなたの隣、かつてのように微笑んでいる事にします。
あなたが好きになってくれたのは、そういう私だから。
あなたが求めるのは、そういう私だと思うから。

『愛する人の全てが私のもの』───そう語る人も居ます。
けれど私はあなたを独り占めする事に、罪悪すら覚えるのです。
でも、それはおくびにも出さないと決めました。
あなたはそれを望まない。
あなたを傷付ける事だけは、したくない。

どうしようもなく優しい癖に、自分を甘やかす事を知らないあなた。

そんなあなたを、愛しています。とても。

あなたの心が和らぐのを祈って、今宵は揺らぐ満月の下で、ワルツなどはいかがでしょう。



【1607年末、何処とも知れぬ水底で】
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