Amatorio sfondo

【フィッシャーと最終皇帝】






そりゃあ、訓練でトチって足なんか挫く私が悪いのよ。
それをわかってるから、『悪いけどちょっと肩かして』ってお願いしたのよ。

…けど、何もここまでしてくれなんて、言ってないじゃない!

「降ろして」
「ヤだね」
「ヤじゃない!」

これが世に言う『お姫様だっこ』ってやつ?
なんでこんな、こっ恥ずかしい事されなきゃならないのよ。
…嗚呼、ネルがこっち見てる。

「あなたに頼んだ私が馬鹿だったわ」
「でも一人じゃ歩けねえだろ?」
「ネルに頼むからいいわよ、兎に角降ろして」

公衆の面前…という程ではないにしろ、おおっぴらにこんな事するなんて、このひとはちょっとデリカシーが足りないんじゃなかろうか。

それまで痛いモノを見る目付きでフィッシャーを眺めていたネルは、私の視線に気付いた途端、一転して笑顔で去って行った。

この…薄情者!
面白がらないでよ!

「皆が見てるでしょ、いいから早く降ろしなさいったら!」

ちょっと手を貸してくれればそれでいいのに。
骨折した訳でもないんだから、それで充分なのに。

このままでは不本意に過ぎるので、思い切り暴れた。
それでも降ろしてはくれないとわかり、頬を叩くなり鳩尾に一発決めるなりしてやろうと、手を振りかぶり―――

「きゃあっ!?」
「っとお!?」

バランスを崩して、逆にしがみつく羽目になった。
…落ちるのは嫌だから、しょうがない。

「あのなあ…こーいう時は大人しく抱えられてりゃいいんだよ。お前が騒ぐから皆見てんだぜ?」
「え、」

顎でしゃくられた先に顔を向ける。
遠巻きに眺めていた衛兵が数人、ばっと顔を背けるのが見えた。

…嗚呼、もう。

「~~~~~っ」

恥ずかしすぎて顔から火が出そう、なんて、本気で思ったのは初めてかもしれない。
どうしていいかわからないので、とりあえず、しがみついたままの肩口に思い切り顔を埋めて、少しでも隠れたつもりになってみた。

そんな私をからかいながらいなしながら、軽々と運んでいくこの男が小憎らしい。

まったく、誰の所為よ、誰の!!
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